仲良し。



「あ、宰相ちゃん来たのか」


「おぉエルム、息災か」


「数日ぶりで息災も何もないだろうよ」


 店舗の執務室へと足を運んだエルムは、そこで威厳に満ちた宰相と緊張しきって倒れそうなキースを見た。


「え、エルムくん……?」


「あぁ悪いなオッサン。内緒で手を回しておいたぜ」


 国、と言う括りですら及ばない超絶の商材。当たり前だが献上してないはずもなく。


 エルムは学生に手を回して圧力をかける事を良しとしなかったが、しかし商材の良さを持って商人として手回しするならばソレは有りと裁定していた。


 なので、課外授業で知己を得た学友経由でしっかりと申し入れをし、謁見し、スマシスをばっちり献上して王と宰相と顔を合わせていた。


 あまりにも常識を覆す遊戯版を見た王ははしゃぎ倒して倒れそうな程で、なんなら先日の大会の優勝者は変装してお忍びの参加を果たした国王本人だったりする。


 その後は国王が息子や孫とスマシスを遊ぶに際して助言などもこまめにしているので、もはや国王とエルムはマブダチだったりする。


「エルムくん、そう言うのは先に言ってくれ…………!」


「悪い悪い。でもこれで敵さんからのちょっかいは潰せるだろ? 武力行使は俺が潰してるけどさ」


 現在、敵の商会も静観してるはずもなく妨害を受けてる。が、武力によるそれはエルムにとってそよ風のような物。小型のサーヴァントをスタッフに付ければ何も困らない。


 そうとなれば利権などを使って正面から潰しに来るのが予想されるが、こうして御用達に選ばれたならそれも不可能。


 王家が懇意にすると明言してる商会に手を出せば、どうなるかなんて赤子でも分かる。


「そんな事よりエルム、助けてくれ。孫にスマシスで勝てなくなってしまった」


「え? 宰相ちゃんのお孫さんってそんなに強いん?」


「うむ。お前に教わったフレームだのなんだの、得意げに語ったらあっという間に覚えおった」


 御用達の書類を渡し、その他諸々の仕事を終えた宰相もプライベートな顔でエルムと喋る。その内容はとても気安かった。


 そこでエルムも、「あぁ、勉強苦手でもゲームのためならフレーム数の計算から確率まで全部覚えるのが子供だよな。ポキモンでもそうだったわ」と納得した。


 エルムがにれだった頃、九九が言えない癖に属性相性からの倍率や種族単位の固有数値など、ぜんぶ覚えて即座に計算する小学生などザラに居たのだ。


「んー、そのうち新キャラ出すからそれまで待って欲しいかな。今は三キャラしか居ないけど、増えたらキャラの相性も複雑化するから流石にそっちで何とかしてくれ」


「…………霊法で判断速度を強化するのは卑怯かね?」


「何とも言えないな。まぁ、それで勝って嬉しいならやっても良いんじゃないか? まだ魔法も学んでないお孫さんに魔法を使ってボコるのが楽しいなら、だけど」


「…………………………むぅ、バレたら嫌われそうだな」


「まぁ俺ならふざけんなクソジジイって切れるな」


 いわゆるハードウェアチートのような概念が早速生まれつつある事に笑うエルム。これは大会のレギュレーションを早めに詰めないとトラブルを起こすと判断した。


「では、仕事が終わったので城に帰ろうか。店主、陛下も期待しておるので励むと良い。エルムも、もう少し城に来い。陛下も寂しがっておる」


「気が向いたらな」

 

 エルムは謁見時、国王にすら頭を下げなかった。ひざまずく事すらしない。


 当然ながら揉めたが、最後は近衛を実力で黙らせると言う暴挙に出て、国王と対等な立場を作った。権力とは武力を背景に成立するものであり、ならば近衛すらどうにもならないエルムはある意味で王だった。


 王と王。それも片方は国など持たずに好き勝手し、そして自分も好き勝手に振舞おうと国同士の問題にならない相手。その事に思い至ってからは国王がエルムを凄まじく気に入った。


 王とは孤独である。たとえ同じ目線で物を見れる他国の王でも、真に友人たり得る事は無い。なぜなら自国の利益が必ず絡むから。


 しかしエルムは違う。個人で完結する王者であり、利益など気にせずに語り合える初めての相手。ともすればいまや妻や息子よりも得がたい存在だった。


 そんな事を思われてるとは知らず、エルムにとっては思ったより話しの分かるジジイが寂しがってると言われ、まぁそのうち顔を出すかと宰相と約束してから見送った。


「てなわけで、これで防御面は完璧。あとは徹底的に力をつけて敵をぶん殴るぜ」


「…………胃が、胃が持たないっ」


「気張れよオッサン。愛する妻のためだろ?」


 エルムに様々な事を頼ってたら、宰相が突然やって来る。そんな身体に悪すぎるサプライズを受けてキースはグロッキーだった。


 仕方ないとエルムが樹法を使って即座に薬を調合し、ついでにお茶も淹れる。


 時折、下の階から「股間のつるぎに誇りを託し、今日も明日もずっとビンビン! 栄えある剣の勇者が末裔にして、いきり立つ刃法の正当後継者! 我が名はビンズ! 股間の勇者とは我の事なり!」と例の自己紹介が聞こえてくる。


 誰か客に名前を聞かれたのだろうか。エルムは店に出す人選を間違えたかと思ったが、すぐに楽しそうなタマとポチのきゃっきゃとした笑い声を聞いて「別にいいか」と思い直した。


 ビンズ自身も、何故かタマにガチ恋した頭のおかしいロリコン勇者になっているので、タマが喜ぶなら悪魔の自己紹介もノリノリになってる事を不満に思っていたエルム。


 しかしタマとポチが喜ぶなら別に良いと、ペットにオモチャを下げ渡すような気持ちだった。


「さてオッサン。そろそろトドメ刺すからよろしくな」



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