広告業。
広告業界。それはこの世に生まれた製品やサービスを人の目に触れさせることで、販売層に連なる母数を増やして結果的に購買数を伸ばす事で金を稼ぐ商売だ。
動画サイトの広告動画などはまさにそれで、多くの人が無料で楽しむ娯楽動画に広告を挟むことで、人々は勝手に世の中に生まれた製品やサービスを『知る』のである。
そして知ったなら、いざ購入の予定が立った時には知っているのだから選択肢に上がる。
もしくは購入予定なんて微塵も無かった者に対して興味を引き、購買層を新しく開拓する。
その効果は人が思うよりもずっと高い。計り知れないと言っても良い。
だからこそ、動画サイトは人気の動画投稿者に大金を渡せるし、その他アフェリエイト系の活動は全部同じ。広告に金を出す企業が居るから成り立つのだ。
そしてそれはつまり、企業が金を出したくなるほどの効果が見込めてる事の証左に他ならない。
「では、これでお願いします」
「ええ、お任せ下さい」
エルムはいくつかの商会を回って仕事を取ってきた。
その条件は三つ。品物の品質に自信があること。言うほど大手じゃなくて燻ってるけど、広告料を払えるくらいには大きいこと。最後にキースとトラブってる商会と繋がりが無いこと。
そこにプレゼンをして広告依頼を取ってきたのだ。
キースの店に帰りながらエルムは呟く。
「あとはコイツを店に乗せたら良い。それで第二段階終了」
エルムが手に持つのは数枚のチラシ。ポスターと言い換えても良い。依頼を受けた商会その物の宣伝と、王都のどこに店があるのかを詳しく書いたキャッチーな紙である。
今やキースの店は
だが重要なのはそこじゃない。最も重要なのは、キースの店が多数の商会に影響力を持てる点だ。
「………………クククッ、潰してやるからなぁ」
正攻法で、正面から叩き潰す。そしてあの時に見た男にエルムは聞くのだ。
ねぇどんな気持ち? 見下してた中規模商会に影響力ぶち抜かれて今どんな気持ち?
NDKをキャンセルされたエルムは、チャンスに飢えていた。
店に帰ると、忙しさにてんてこ舞いなキースがエルムに気が付いた。
「あ、エルムくん! 西の方に土地確保したよ!」
「あいよ。場所だけ詳しく寄越せ。すぐ行ってくる」
次の予定が入ったエルムはすぐに店を出た。そして本格的に王都の外が死の大地になるんじゃないかと少し冷や汗をかく。
「………………手を打った方が良いかなぁ」
さすがに不安なので、移動しながら術式を組み始めた。
最寄りの森に生えてる木に魔法を構築し、その辺に居る害獣をぶち殺して勝手に栄養を補給するような仕組みである。
各属性に長けた勇者が居たなら、もっと楽なのにと愚痴を口の中で転がしたエルムは、キースが用意した新しい土地に自動生成樹を生やす。
既にエルムの中では発展系がいくつも展開されてシュミレーションされている。新しいキャラクターをリリースする時など、確実に反響が出る時に広告の仕事も拍車をかければ相乗効果が見込めるだろう。
影響力が強まったら、あとは敵の商会と繋がりのある商会を順次切っていけば良い。アソコと繋がってるとウチに切られますよ、と言うだけである程度の効果が見込める。
魔法使い特有のマルチタスクをぶん回しながら、魔法の構築と計画を同時に組み立てていく。一見は地味だが、もし手練の魔法使いがエルムの脳内を覗いたら発狂死するような状態になっているのだ。
「よし、こんなもんかね」
エルムは庭がやたら広い屋敷に自動生成樹を生やした後、敵の行動に対してのカウンターとしてサーヴァントまで用意した。
「ほんの少しの反撃も許さん。徹底的に潰してやる。根回しも済んでるしなぁ」
エルムはにやぁっと笑って一人、王城を見た。
◆
キースの店では今も客がひっきりなし。それを手伝うのはポチとタマだ。
珍しくエルムと別行動しているが、この世で最も早く二人に優しくし、力いっぱい抱き締めてくれたのは誰なのかと言えば、それはラプリアだった。
二人はエルムが大好きだ。しかし、同じくらいにキースとラプリアも大好きだ。
子供の居ないラコッテ夫婦が双子を我が子のように可愛がるのと同じように、双子も夫婦を実の親みたいに思ってる。
兄がエルムで、父がキース。母がラプリアで、自分たちは末っ子。
それが二人の共通認識であり、実を言うと今回の件で誰よりもブチ切れてるのは双子だった。
まさか、エルムを罵った実父に対するのと同じレベルでキレる事件が頻発するとは、双子も思ってなかったのだ。
そんな双子は少しでもキース達の力になりたくて、必死にお店のお手伝いをする。そして双子のファンとなった
そんな店に一台、凄まじく豪華な馬車がやって来た。今では生徒を通じて貴族にもスマシスの存在が知られる事となっていて珍しくもない光景だったため、タマにゾッコンとなったビンズが外に出て対応しようとした。
「…………さ、宰相閣下っ!?」
しかし馬車から降りて来たのは、国の中枢を担う人物だった。慣れもクソも無い。
「……ふむ? ブレイヴフィール家の嫡子、ビンズだったか。ここで何を?」
「い、いえ、そのっ、友人を手伝っております……」
「なるほど。学生のウチから社会を知るのは決して無駄にはならないだろう。励むと良い」
思わぬ激励の言葉を貰ったビンズは背筋が伸びる。ほぼ中央集権が成功してるこの国では、国王や宰相の力がとても強い。本来なら嫡子とは言え当主ですら無い子供にこんな言葉を貰えるのは異例である。
「して、店主は居るか? 御用達の書状を陛下から預かっておるのだが」
「ご、御用達ですかっ!?」
「うむ。陛下から私が直接渡せと口を酸っぱく言われておる」
もはやビンズの処理能力を大きく超えた事態に、「呼んで参ります!」と大声を上げて店内に逃げ込むしか無かった。
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