一石二鳥。



「野郎ども、準備はいいかぁぁぁぁっ!」


 晴天の元、王都にある一角の広場でエルムは叫んだ。


 その叫び声に呼応して野太い声が空に響き、その場の熱気が周囲に存在感を示し続ける。


「やる気は充分かぁぁあ!」


 エルムの声で会場はヒートアップし、まだイベントが始まってないにも関わらず燃え尽きてしまいそうな程である。


 エルムが始めた宣伝計画。それは簡単に言うとスマシス大会だった。


 始まりは冒険者ギルド。併設された酒場で顔馴染みを探し、スマシスを見せる所から計画をスタートした。


 ダンジョンの中で魔法の教練をした相手は何人か居て、そのツテを辿って多数の冒険者に物を見せて遊ばせる。


 ただ遊ばせるんじゃ芸が無い。その辺の冒険者をけしかけ、どっちが勝つのかを賭けさせた。お陰で酒場は大盛り上がり。


 俺にもやらせろと興味を持った男達にも触らせた。


 これはなんだ、どこで買える。そう聞いてくる相手にしっかりと教える。これは新商品で、まだ発売前だがもうすぐ買えるようになる。その時は大会も開いて、優勝したら特別な商品が貰える。


 瞬く間に噂が広がり、冒険者達はそれでよし。


 エルムが次に向かったのは高級娼館。塗装まで済ませた高級仕様のスマシスのフルセットを二十組ほど持って行った。


 高級娼館は金持ちが利用する教養高い娼館であり、ただ女性と寝るだけでは無く、教養高い女性と過ごす時間を楽しむ場所である。


 当然ながら金持ちが嗜みそうなボードゲームくらいは娼婦たちも嗜んで居て、客が望めば遊べるのだ。


 そんな施設に、最新のボードゲームを持ち込んで、無料で提供した。そして大いに遊んでもらう。もちろん、どこで売り始めるのか、その時にどんなイベントがあるのかを口添えするのも忘れない。


 最後は学校だ。エルム達が早めに帰って来ただけであり、少し待てばポツポツと生徒たちも地方から帰ってくる。


 なので寮の食堂を利用する者が増え始める絶妙なタイミングで、何人かにスマシスを遊ばせる。決して貸し出したりはしない。何回かだけ遊ばせて、その後は噂だけばら蒔いてもらう。


 そうして一ヶ月後の今。スマシス大会が始まった。


 優勝者には『スマシス用トロフィー型建造物』と特別塗装済みのスマシスフルセットが贈られる。トロフィー型建造物とは、ステージの上に乗せてステージの一部として使う建造物アイテムである。


 トロフィーとして飾っても良いし、ゲームにも実用できる。もちろん販売はしないから優勝者と遊ぶ時だけ利用出来る特別なステージとなるだろう。


 ここまでは完璧である。冒険者と高級娼館利用者、そして魔法学校の生徒。接点がバラバラの人間がここまで一つの物に集まれば、他の人間も気になってしまうのが人情だ。


 あれはなんだ。スマシスとはなんだ。そんな疑問を持った人間が会場に集まり、これから始まる大会を目にする。スマシスを知る。


 大会を開くことでスマッシュシスターズの遊び方を世間に知らせると共に、スマッシュシスターズその物の宣伝も終わらせる。


 計画の第一段階がここに完成する。


「第ゼロ回、スマッシュシスターズ王都最強決定戦開幕じゃゴラァ!」


 ◆


「エルムくん、あれ増産出来ない?」


「出来るけど土地が足りん。自動生成樹を生やす土地をくれ」


 スマッシュシスターズ最強決定戦が無事に終わった後、当然ながらスマッシュシスターズはバカ売れした。恐ろしい程売れた。


 孤児院でやった木の根を外に接続したゴリ押し魔法、あれの根がまだ王都の地下に残っているので、エルムは自動生成樹をそれに繋ぐことで生成に使う栄養や実体触媒を工面している。


 だがこの調子で売れていったら王都の外が禿げ上がるんじゃ無いかと思うほどに売れている。


「まぁ、テレビゲームなんてチート概念持ち込んだらこうなるよな」


 何やら嫌がらせも受けていたらしいが、今やそんな雰囲気は微塵もなく店は大盛況だった。


「じゃぁ、計画の第二弾行ってくるから後よろしく」


「あぁ、仕入れだけは断ってれば良いんだね?」


 売れ筋も売れ筋なので、今は小売以外を考えなくて良い。一次生産そのままで販売してるふざけたシステムなので、利益的にもどこかに降ろす必要が無いのだ。と言うよりそんな暇などない。


 生産したそばから売れていくので、別の店で売る必要なんて本当に全く無い。要するに独占販売だ。


 もちろんエルムの魔法で構築された道具なので、真似して複製品を売る事も出来ない。ある意味最強の商材だった。


「ごめんくださーい」


 エルムはキースの店を出てから、予め決めていた商会を尋ねる。


 計画の第二弾へ移行するのだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る