スマッシュシスターズ。



 大企業、呑天堂のんてんどうが世に送り出したパーティゲームの傑作。


 ノンテンドー64から始まり、その後もゲームボックス、vviiヴィー、ノンテンドーsketchスケッチ等々、後続のゲーム機ほぼ全てでシリーズタイトルが出され、売れ続けてる名作。


 パーティゲームで有りながらも格闘ゲームの色が強く、手軽に楽しめる内容で有りながらも深い戦略性も持ち合わせた神ゲーの一つ。


 スマッシュシスターズ、スマシスがこの世界にもやって来た。当然だが呑天堂非公認。ただの盗作である。


「まず、あの板にしか見えない物がステージだ」


 エルムは木に成ってる木の板をもぎ取り、バリを取る。


「この板をテーブルに置いて、その板の上に人形を置く。最後にコントロールを板に差し込めば、取り敢えず遊べるぜ」


 もぎ、もぎっと人形と歪な果物みたいな物コントローラーを収穫したエルムは、それもテーブルに置いてセットする。


 ステージとなる板にはUSBポートのような窪みがあり、H型コントローラーのコード先もUSBみたいになっていた。ちなみにコードは麻紐のようになってる。


 電気的な接続がされる訳では無い。だが差し込むと込められた魔法が繋がって反応するように構築されていて、下手しなくても現代ではオーパーツ級の道具になってる。


「この板は一人一枚が基本で、自分の板に乗せた人形をこのコントローラーで動かせるようになってる」


 エルムがコントローラーを操作してみると、板の上に置かれた人形が立ち上がり、動き始め、エルムの操作に合わせて機敏に走ったりする。


 あまりにも常識が通用しない光景に、キースは目を見開いてフリーズした。


「これを対戦者同士で同じ物を用意して、ステージを接続する。そしてお互いに人形を動かして殴り合い、敵をステージの外に出したら勝ちだ。今はこれだけしか無いが、後でステージに乗せる専用の障害物とか構造物も用意するし、戦う人形も種類を用意するぞ。全部別売りにして稼ごうや。バ○ダイ商法って奴だな」


 簡単なスターターセットを用意しておきながら、周辺アイテムをめちゃくちゃ細かく別売りする。この商品にハマればハマるほど周辺アイテムが欲しくなり、それを見た周りの人も段々欲しくなってくる悪夢のシステムだ。


 商品全体に宮廷魔導師すら泣き出す程に繊細で緻密な魔法が構築されていて、しかもそれが自動生成。と言うよりも、それだけの手間が掛かる商材だからこそ自動生成にしなければならなかったのだ。


 それらを見たキースは、流石に分かった。これは売れると。


 だが初見では意味不明過ぎてまず売れない。だからこそ宣伝が大事なのかとも理解した。


「ちょっと双子に遊ばせて見るか。使ってみないと問題点とか分からないしな」


 もはやその次元には無いと思うのだが、キースは何も言えなくなった。


 エルムに呼ばれた双子は、また新しいオモチャをご主人様おにいちゃんから貰って大喜び。遊び方も聞いたら早速二人で戦い始めた。


 エルムは初期キャラとして剣士と魔法使いと魔法剣士を用意した。


 剣士は近接攻撃しか出来ないが体重が重く、吹っ飛びにくい。


 魔法使いは魔法が使えて多彩な攻撃が出来るが軽い。下手すると剣士の一撃で場外に飛ばされる。


 魔法剣士は攻撃性能も体重も中間で、良く言えば万能。悪く言えば中途半端。


 ポチは剣士を選び、タマは魔法使いを選んだ。二人とも魔法剣士を選ぶかと思ったエルムは少し意外そうにゲームを見ていた。


 内部に込められた複雑怪奇な魔法によって人形は二段ジャンプまで再現されていて、足裏に展開される扇法がキャラクターを押し上げる。


 ポチはそれを利用して体の重い剣士を巧みに動かし、位置エネルギーまで使った切りおろしでタマの魔法使いを吹き飛ばそうとする。


 対してタマは多彩すぎる魔法を把握しきれておらず、スマッシュ攻撃に位置する強撃をこまめに当てて距離を保ちながら様々な技を試してる。


「うーん、いい勝負」


「こ、これは手に汗握るね……!」


「ちなみに、これ板も人形も未塗装なのはワザとで、買った人が思い思いの塗装とか改造を自分でやって『自分だけのキャラクター』を作れるようにしてある。もちろん改造用のアイテムも別売りするぞ」


 専用の塗料やデコレーショングッズ。小分けする事で一つ一つの値段を抑えて庶民でも手が出せるようにしつつ、長い目で見ると庶民だって知らぬ間に大金を注ぎ込んでる悪魔の商法である。


「魔法使いの派生で、魔法の矢を飛ばす弓使いとかも面白そうだな。後は魔物を連れて攻撃に使うテイマーとか? 魔物も別売りにして種類増やせば絶対沼るだろ」


(………………えっ、これで商売は素人とか言ってたのかい? 嘘だろう?)


 キースは思った。これが商人じゃなかったら、自分も商人じゃなくなってしまう。


 戦慄するキースを尻目に、エルムは商材が大丈夫そうだと判断して次の計画に動く。


「さて、次は宣伝だな」


「えと、どうするつもりなんだい? これは見れば楽しいけど、売られてる所を見ただけじゃ誰も欲しがらないと思うよ。想像を超え過ぎてるから」


 完全にオーパーツだが、しかし売られてる様を想像すると木の板と木の人形である。売れる訳が無い。


「任せとけって。このスマッシュシスターズを一瞬で大人気商品にしてやるから」


 エルムには勝算しか無かった。


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