残り二つ。



「ちなみにだが、俺が学校の奴らに掛け合って貴族とか連れてくれば音速で終わるけど、今回はマジで真正面から叩き潰すつもりだからよろしく」


 エルムは早速動き始めた。


 キースの家の庭を借りて、学校から連れて来た実態持ちの大型スイカズラを使って数本の木を生やす。


「それはコッチとしても嬉しいけど、エルムくんそれは何をしてるんだい?」


「商材作りだよ。宣伝するにも、宣伝するべき商品が無いんじゃ話にならんだろ?」


 世界が歪もうが経済がヒビ割れようが、エルムは一切気にせず最短距離を爆走する予定である。


 何故ならラプリアが思ったより参っていたから。双子セラピーによって多少回復しても、あまり元気になったようには見えなかった。


 それを双子は凄まじく心配していて、ラプリアが心配なのと双子が可哀想なのでダブルパンチを食らったエルムは全力疾走を決意したのだ。


 地球の発展した技術や発想、理論なんかをこの世界にぶち込めば必ずどこかに歪みが生まれる。急速な発展は絶対に何かを犠牲にする。


 だがエルムは気にしない。ラコッテ夫妻と双子が元気なら他など知らない。


「…………そういえば、残り二つって?」


「ん? あぁ、商売で大事な事? 宣伝の他二つはアレだ、一つはオッサンと同じく信用。これは宣伝力が強ければ強いほど同じくらい大事になってくる」


 エルムは魔法を構築しながら答える。宣伝する力が強くなり、規模が拡大すればそれだけチャンスは増える。だが同時に、名前が広がるならば悪名だって広がるのだ。


 何かを失敗して信用が落ちてしまえば、自分の持つ宣伝力によって自分の首が絞まる。


 宣伝をコントロールしてればある程度は抑えられるが、口コミだってバカに出来ない効果があるのだ。完全なコントロールは元より不可能。


 現代のSNSで炎上騒ぎが耐えないのは、それが「規模の大きい口コミ」だからだ。利用者のふとした呟きが口コミとなってネットの波に乗ってしまう。


 元々口コミとはそのくらいに力がある宣伝方法であり、ネットなんて無くとも都市一つ分くらいなら名声も悪名も簡単に広がる。


「なるほどねぇ。…………三つ目は?」


「三つ目は業種によって違うけど、今の俺たちで言うなら『開発力』だな。『商品力』とも言う」


 力強く宣伝出来ても、ゴミが売れたりはしないのだ。


 超一流の商人ならばゴミをゴミだと納得させて売り払い、それでも利益を出すものだ。しかし別にエルムは今、超一流の商人になりたい訳じゃない。


 敵の商人をぶっ潰せたらそれで良いのだ。


「つまり、エルムくんが凄まじい商品を作って、それを沢山宣伝して、沢山売るって事?」


「平たく言うとそうなる。だけどそれだけじゃねぇよ? 宣伝ってのは。…………よし、完成」


 ある程度の計画と自分の考えをキースに伝えたエルムは、やっと庭に生やした木に対して魔法を構築し終えた。


 元勇者がそれだけ時間を使って構築しただけあって、今そこに生えている木はかなりチートな樹木になっている。


「それで、これは?」


「簡単に言うと、商品の成る木」


 キースは空を見上げ、遠い目をした。どうやら自分の常識が通じない世界になってしまったと早々に理解した。


「えぇと、商品が成る? 果物みたいに、木から商品がポコポコと?」


「そうそう。こうしないと、俺が居ないと商品が補充出来ないだろ? かなり高度なオモチャを作ったから、自動生成出来るようにしておかないと、俺の日常が死ぬから」


「ああ、そう言うことか……」


「ほら、そろそろ商品がぞ」


 エルムに促されて木を見たキース。そこにはエルムの言う通り、木の枝からぷくぷくと何かが生まれてくる様子が見られた。


 生えた木の一本一本で商品の内容が違うらしく、それを見てもキースにはどんな商品なのか検討も付かなかった。


 ただ平たい板にしか見えない物もあれば、精緻な人形にしか見えない物もある。歪な形の果物みたいな物もあって、それは本当に何に使うのか予想も出来ない。


「エルムくん、悪いんだけど説明をお願い出来るかい?」


「まぁ分かんないよな。任せてくれよオッサン」


 エルムが絶対の勝利を求めて作った商品。


「これはな、スマッシュシスターズさ」


 それは楡も大好きだった大人気テレビゲーム、スマッシュシスターズ。スマシスを魔法で再現しただった。


 娯楽の少ない世界に、テレビゲームに近しい概念を持ち込んだエルム。あまりにもチートであり、あまりにも勝ち確だった。


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