木馬の勇者様?
「いや、だぁ……」
大樹の根元に横たわり、土に汚れた顔で敵を見る少女がいた。
「げひひ…………」
視線の先には、薄汚れた毛皮を身にまとった醜悪な魔物ダプラが
集団の中でも屈指の戦力だったビンズ・ブレイヴフィールは既に連れ去られた。残るのは既に折られた
最初は三十近い数のダプラが居た。村ではそんな数だなんて情報は無かったが、だからと言って現実が忖度してくれるわけでも無し。
「やだよぅ…………」
人のように魔法が使える魔物、ダプラ。そんな存在が三十も居て、包囲し、一斉に魔法を解き放ったらどうなるか。
その結果が今である。
十五人居た旅団員は全員が一撃の元に瀕死となり、辛うじて動ける状態だった一人が助けを呼びに行った。
攻撃直後で隙もあったのだろが、その一人を逃がした結果、ダプラも警戒が強くなって誰も逃げられなくなる。そして最も魔力量の多かった男子生徒一人が連れ去られた。
いまこの場に残っているのは、最初に居た三十体の内から二体ほどが残り、生徒で遊んでいる。
呻く女生徒は記憶を漁る。物の本で読んだ限りでは、ダプラは儀式として生贄を欲する生態がある。
連れ去られた生徒はビンズ・ブレイヴフィール。この場で最も魔力が多く、恐らくは生贄として最も適格だったのだと思われる。
ならば生贄の選定に漏れた者はどうなるのか? それが現状の答えであった。
既に遊び尽くされた生徒が二名、絶命した。この場に残ったダプラ二匹が一体ずつオモチャを選び、そして限界まで遊び尽くした結果である。
その二人の犠牲をもって残り十一人が命を繋いでると思えば、それも奇跡的な話である。だが、この場には霊法を実戦レベルで使える者も居らず、日が暮れるまで生徒が二人命を弄ばれて犠牲になっても、その時間で回復なんて出来なかった。
オモチャが壊れた事で、残ったダプラ二匹はまた別のオモチャを選び始める。その対象に選ばれた女生徒が、掠れる声で呟くのだ。
「…………だれ、か」
──たすけて、と。
「ん」
そしてその願いは聞き届けられた。
女生徒の華奢な脚を持って、ニタニタ笑いながら圧し折ろうとするダプラの脳天に、一本の木刀が突き刺さる。
「………………ん。ふたり、し? ……ぇと、びん、なし。じゅういち?」
「…………ぁ」
小型のサーヴァントに跨って現れた
下手に要救助者が死ぬとポイントが下がるので助けただけで、特に深い意味は無かった。
しかし、助けられた女生徒にとって、その小さな体が誰よりも頼もしく見えた。
ポチ用の小さなスイカズラは馬じゃないが、女生徒はポチの事が
一応、生命は残ってるかと女生徒の顔を確認するポチに見詰められ、その無表情が薄く微笑んでる様にすら見え、女生徒は色々と落ちた。
危機的な状況にあったのも災いしたのだろう。それはもう、ストンと落ちた。
更にポチが、残ったダプラ一体をサラッと殺して見せたのだからもう取り返しが付かない。
「…………ゆぅしゃ、さまぁ」
「ん?」
一体目のダプラに突き刺したハルニレ・ナイフを引き抜いて二体目にぶん投げて殺したポチは、抱えたままの女生徒が何かを喋ったので振り返った。
しかし何を言ってるのか分からない。命の危険を訴えてるなら聞かねばならないが、それ以外なら面倒なので黙ってて欲しい。ポチの偽らざる本心だ。
死にかけの癖に何故か頬を染めて息を荒くしてる女生徒は、端的に言って気持ち悪かった。あまり他人に興味を持たないポチでさえ、ちょっと気持ち悪くて放り出したくなる。
そんな気持ち悪い女生徒が黙ったので、改めて周りを見渡す。確実に絶命してるだろう挽肉が二人分。残り十一人にもピクリとも動かない者が地面に横たわっていて、ポチはこの場に何ポイント残ってるのかは運次第だと判断した。
こういった状況だと、自分より妹の方が適してるのに。少しだけ面倒だとそんな考えを持ったポチだが、しかし人数的に全員連れ帰れば勝ち確なのでコレはコレで良しとした。
「…………ん。なぉしゅ」
ポチの系統は樹法と刃法。霊法は不得手である。
しかしタマと一緒に授業は受けてるので、系統外だが少しは使えるのだ。同じくタマも使おうと思えば少しだけ刃法を使えたりする。
「ぁぅ…………」
ふわっと、ポチの手から発する優しい光に包まれた女生徒が声を出す。その魔法は優しく、心にまで染み渡るような繊細な回復魔法だった。
魂に干渉して結果を肉体にフィードバックさせるのが霊法の基本なので、心に染み渡るのは当たり前なのだが、落ちてしまった女生徒には関係無い。吊り橋効果も相まって、ますますポチを運命の人だと勘違いする。
ポチもそんな女生徒が気持ち悪いので、ある程度治したら地面に横たえて別の生徒を治しに行く。
ポチは勝負に勝ったかも知れないが、その代償はゼロとは言えないらしい。
余談だが、この時のポチはメイド服である。
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