絶好調。



「ええっ!? まさかぁ!? あんなに自信満々だったのにぃ!? 僕たちに助けて欲しいんですかぁぁぁあ!?」


 エルムは絶好調だった。夜に助けを求めて来た金髪に対して、一言一言の区切りでポーズを変えながら煽っていく。


 ええっ!? のところで両手を上げて驚く仕草。

 まさかぁ!? のところで両手を広げてスシザンマイ。

 あんなに自信満々だったのにぃ!? で駆け寄ってしゃがみ、右手で指差し左手で口を抑えてプププ。

 僕たちに助けて欲しいんですかぁぁぁあ!? の瞬間には両手の親指を自分のこめかみに当て、白目を剥きながらピロピロする。


「うっわ、ムカつく顔の完成系かい……?」


「あんなんされたら秒で殴るわ。…………殴ったら死ぬけど」


「最後のピロピロ、ウザさが芸術的よね」


「煽れる空気を感じた瞬間、皿置いて駆け寄ったよな」


 体を引きずるようにして野営地まで訪れたボロボロの少年に対し、エルムは全力のピロピロをする。知性の欠片も感じない煽り方であるが、その分ストレートにムカつくタイプだ。


 そも、何を助けて欲しいのかも聞いてない状況であり、エルムが発作的に煽っただけだった。本当なら事情を聞いた上で「身の程知らず」と痛烈に皮肉って煽るタイプのエルムにしては珍しい煽り方だった。


「ふぅ、スッキリした」


 そして煽るだけ煽ったら事情も聞かずに立ち去る。そこはやはりエルムクオリティだった。


「たすけっ、たすけてくれぇ……!」


「え、やーだ♡」


 明らかに生命の危機も孕んだ懇願であるが、エルムは振り返って満面の笑みで断る。他人がどんな死に方してもエルムは基本的に気にしない。


「エルム、事情くらいは聞こうよ……」


「やだよメンドクセェ。カスが何匹死んでも俺に関係無いもん。どうせアレだろ? 調子乗って実力に見合わない事してモンスターにボコられたんだろ? だったらそのまま死ねよ。俺達が加勢したら作戦勝ちしたモンスターさん可哀想じゃん」


 ノルドに諌められるが、むしろモンスターの味方をするエルム。


 エルムにとってモンスターとは倒すべき敵だが、同時に親友の魔王が作った配下なのだ。見ず知らずの人間よりは好感度が高い。


「ちが、違うんだ! ダプラが出たんだ!」


 ダブラ。獣を人型にしてローブを着せたような見た目のモンスターで、人間のような魔法を使ってくるのが特徴だ。


 手札も手数が多いモンスターであり、学生が相手にして良いモンスターでは無い。


 だがエルムには関係無かった。


「えぇ〜!? 魔法学校の生徒なのに魔法でモンスターに負けたってマジっすかぁ〜!? もうそれ才能無いから魔法学校辞めた方が良いっすよぉー! 生きてる価値無いですってー!」


 また目の前にしゃがんで両手を頭の横でピロピロ。今度は唇をプルルルっとするオマケ付きだ。


「なんで生きてるんですかセンパーイ!? モンスターに魔法で負けるようなクソザコなのに生きてて恥ずかしく無いんですか!? 今ここに居るって事は逃げ出したんですよね!? あんなに沢山の仲間が居たのに見捨てて来たんですよね!? どの面下げて呼吸してんスか!? 仲間を見捨てて吸う空気は美味いっスか!? 流石っすセンパイ! とても真似出来ないっすぅ!」


 そんな風に三十分ほど盛大に遊んだら、金髪少年は「ちがう……、ちがう……」「にげてない……」と呟くだけの置物になってしまった。


「まぁた壊れちゃった」


「いやおい、エルム? これじゃ情報聞けないじゃないか」


「はぇ? 聞く必要あるの? もしかして本当に助けに行くつもり?」


「えっ、いや、流石に助けるだろう?」


「いや、別に? なんで?」


 エルム・プランターとはこう言う人間である。


 モンスターとの戦いは基本的に自己責任。相手を殺しに行ってるのに、自分は殺される覚悟が無いなんて舐めた事は許さない。エルムはそういう人間である。


「エルムくん…………」


 不意に、エルムへ近付いたアルテミシアが裾を引いた。


「た、助けてあげよう?」


「…………はぁ? なんで?」


 アルテミシアは試験の時に助けてくれたエルムを善人だと思ってる。だからこそ話せば分かると思ったのだが、しかし返ってきたのは凍えるような冷たい目だった。


「いやまぁ、助けたいならご自由に? 別に止めねぇよ。なんで俺に言うの?」


「えっ、だって…………」


「だってじゃねぇだろ。荒事だって分かってる? 可能性は低くても命懸けなのは変わらないんだぞ? それとも何、お前って俺の命を勝手に使えるほど偉いん?」


 無責任に人を巻き込むな。要約するとそう言う事だった。


「待っ、私そんなつもりじゃ……!」


「はぁ? じゃぁ何、無自覚に人の命使わせようとしてたん? うっわ引くわ。稀代の殺人鬼ですらもう少し命に敬意を持つぞ? もしかして学友の事を喋る人形だとでも思ってる? 壊れても替えがきくと?」


 今度はアルテミシアがズタズタにされて行くが、そんな中でノルドが一人でエルムの隣に立ち、肩を叩いて提案する。


「なぁエルム。せっかく作ったビンズおもちゃ、死んだらもう煽れ遊べないぞ?」


「あ、マジじゃん助けなきゃ。せっかく作って、実家まで巻き込んでやっと不登校を止めさせたオモチャなのに、確かに死んだら勿体ねぇな」


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