壊れちゃった。



 え? 妻を愛してた?


 いやいや、そんな分かりきった嘘は口にしなくて良いよ別に。


 本当に? 嘘じゃない?


 まったまたぁ〜、そんな訳ないじゃ〜ん。


 本当に愛してたら


 本当は憎んでたんでしょ? 心の底から嫌いだったんでしょ?


 じゃないと


 理由は知らないけど復讐するほど恨んでたんだろ? 結婚したのも子供を売り飛ばして奥さんの人生を台無しにするためだろ? 大丈夫ダイジョブ完璧に復讐できてるって安心しろよ。


 きっと奥さんもあの世でお前と結婚した事を死ぬほど後悔してるから! 死ぬほど後悔ってもう死んでるんだけどな!


 ………………え? そんなつもりじゃ無かった?


 死んだのは子供のせい? 子供に復讐? お前何言ってるの? 馬鹿なの?


 


 


 え? 違う? 殺してない?


 いやいや、見殺しにしてるよね?


 出産なんて双子じゃなくても死ぬ事もあるの、ご存知ない?


 そうならない為に死ぬほど働いて山ほど稼いで、治癒院から霊法使いでも派遣してもらってれば、今頃は奥さんも死なずに済んだよ?


 苦しむ妻のために出来る事があったのに何もせず見殺しにしたお前と?


 腹の中に居て何も出来なかった双子のどっちが悪いかって?


 語らなくても分かるよな?


 そう、


 ! 


 そんな事された悔しくてあの世でもう一回死んじゃうだろ。憤死するわ。


 絶対あの世で奥さんもお前のこと恨んでるって。


 お前なんかと結婚するんじゃなかった。私の人生を返してくれ。


 きっと血の涙を流してそう叫んでるだろうね! どうよ、メシウマだろ?


 いやー復讐大成功じゃん! 凄いね!


 ここまで徹底的に相手の人生を否定するなんて、中々出来ねぇよ!


 お前と結婚した時点で、奥さんは世界で一番不幸な女だったろうな! 良かったな目的が叶って!


 ◇


「みたいな感じでイジメてたら、なんか壊れちゃった」


 夜の野営地で、新しいゴスロリ風ミニスカメイド服を着た双子を侍らせたエルムは、少し離れたところでヨダレを垂らして地面を見つめる柔牙族の男を指さした。


「あぁ、うん…………」


 冷ややかな目で男を見るノルドは、対して興味が無かったのか食事に戻る。


 男はもう菌糸操作は解除してあるので自由に動けるのだが、心が折れたらしくて何もしない。


 逃げたら逃げたで別途エルムが地獄を見せるのだが、何も無いならそれはそれでつまらない。エルムはワガママだった。


(せっかく売り払うまでのオモチャにしようと思ったのに)


「まったく、 


「プランターを敵に回すと、壊れたあとまで煽られるのか……」


 他のメンバーに引かれたエルムだが、そもそも評価を気にしてないので無視した。


「ところで、結局アイツの素性は分かったの?」


「やっぱり隣村の狩人らしいよ。森の魔物に対抗する為の応援要員だったんだってさ」


「ふーん? あんな雑魚で使い物になんの?」


「……………………悔しいけど、腕は良いんじゃないかな。僕らは手玉に取られたし」


 それを聞いたエルムは眉を少し上げた。実戦の経験が無いとは言え、魔法使いが三人がかりで負けそうだった事を思えば、男の実力は決して侮って良いものでは無い。


「まぁもう壊れちゃってんだけどさ」


「そうね」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る