みんなの妹。
「どるにぃちゃ、ぁりぁとぉ」
「んふっ」
哀しげな慟哭を上げるドルトロイだったが、エルムが思わずポチに「ちゃんとお礼が言えるなんて偉いなぁ」と呟いた為に、タマがわちゃわちゃと慌ててお礼を言いに行ったので大丈夫になった。
いや鼻血を吹いてるのでダメかもしれない。
ひとまず、エルムは奴隷として売り払う予定のボロ雑巾に死んでもらっては少し困るので、ヤキニクの元に連れて行って治療させた。霊法持ちの面目躍如である。
契約外の仕事だったがヤキニクもエルムが太っ腹なのは理解しており、快く引き受けて報酬をせしめていた。今のトレンドは小さく糖度の高いブランド苺を山盛り頬張る事らしい。もっしゃもっしゃ食べている。
治療した後はヒトタケを操作して全身ロック。もう二度と舐めた真似が出来ないように命令遵守モードに変更し、ヤキニクの傍で直立不動の置物にしてある。
そうしてひと仕事終えたエルムは、双子にデレデレになってる三人の元に帰ってきたところだ。
「あぁエルム。お前がクナイティアを異様に可愛がってる理由がやっと分かったよ。懐いてくれる妹の可愛いこと可愛いこと……」
「キャラ崩壊する程か。いやまぁ分かるけどさ」
クナウティアは可愛い。それはエルムとノルドの共通認識だったが、そこに含まれる情報の差がやっと埋まったらしい。ノルドは見たことがないレベルで双子にデレデレしていた。
よほどにぃにと呼ばれたのが嬉しかったのか、先日勝ち取ったマシュマロの残りを双子に分け与えてた。
「俺さぁ、兄弟がみーんな男でさぁ」
「ああ、分かるよガレッグ。うちもそうだし」
「こんなさぁ、にぃにとかさぁ、呼ばれたことなくてさぁ」
「と言うかお前、末っ子だもんな」
残る二人は更に深刻らしく、生まれてこの方『可愛い妹からにぃに・にぃちゃと呼ばれる』経験が鮮烈過ぎてふにゃふにゃになってる。
「どうでも良いけど、お前ら村で受ける仕事探さなくて良いのか?」
「は? 学校の評価より妹可愛がる方が大事じゃね? みんなの妹を可愛がることより優先する課題とかある訳ないよね?」
「これだから正妻は……」
「だれが正妻や」
エルムは長い溜め息を吐き出し、双子に向き直って聞いてみた。
「なぁポチ、タマ。お前らは仕事サボってる兄ちゃんと仕事頑張ってる兄ちゃん、どっちがカッコイイと思う?」
「ごめんプランター俺が間違ってた。速攻で仕事見付けてくるから」
「待っててくれタマちゃん! 世界一カッコイイお兄ちゃんの背中を見せてあげるからな!」
双子が返事をするまでもなく立ち直った馬鹿二人が村に向かって走って行った。
ポチもタマも、言うまでもなく働き者であり、それは二人を見ていた全員が知っている。なのに仕事サボってる兄ちゃんどう思うかなんてエルムが聞けば、それはもう聞くまでも無かったのだろう。
実際、双子はマトモな感性をしてるのでどっちが良いかと聞かれたら働いて頑張ってる方がカッコイイと思うのだ。ただ「世界一カッコイイお兄ちゃんの背中」は既に二人とも
「ノルドは良いのか?」
「良くは無いけど、現状無いって言われてるものを無理にほじるのもね。時間に余裕はあるからゆっくり村人と寄り添って見付けるべきかなって」
「なるほどね。まぁ困ったら言えよ。大抵の事は何とかできるし」
「その場合は評価が全部エルムの物になりそうで怖いんだよ」
「俺がそんなヘマするかよ。ちゃんと抑えるさ」
自分の元に帰ってきた双子がギュッと抱き着いてくるので、その喉をゴロゴロと撫でながら受け答えをするエルム。その様子を見ても今までは気にならなかったノルドだが、今はストレートに羨ましいと感じてる自分に思わず苦笑する。
「あぁ、せっかくだからあの男のことを村長に聞いてくるよ。流石に全くの無関係って事は無いだろうし」
「あー、それも有るか。て言うかポチ、タマ。この村に見覚えは無いのか?」
エルムが聞くと、喉をゴロゴロされてた双子は首を横に振った。つまり出身地では無いらしい。
「となると、隣村とかが出身地なのかね? 男はそっから来てたとか」
「それも含めて聞いてくるよ。エルムはどうする? 活動を止めてる僕が言うことじゃ無いけど、暇だろう?」
「まぁ、双子の魔法訓練とかしか無いんじゃね? あとは料理の仕込みとか。…………あぁ、森に入っちゃダメとは言われてないから、討伐対象の確認くらいは出来るか?」
「…………流石に相手の邪魔しちゃダメだよ?」
「しねぇよ。まぁ先に邪魔して来てるのは相手方なんだから構わんと思うが、こっちはそんなセコセコしなくても点数なんざ好きに稼げるからな」
「それもそうか」
少し話し、そのあとはまた村へと歩いて行ったノルドを見送ったエルムは、「あ、そうだ。俺は二人に新しいメイド服作りに来たんだった」と思い出し、二人を連れてキャリッジに戻った。
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