競合相手。



 村長からの聞き取りや、エルムが絡まれた事件など色々あったが、概ね落ち着いたのは太陽が真上に来たあたりだった。つまり昼。


 エルム、ノルド以外のメンバーは村の外に滞在地を設営するのに忙しかったのだが、そちらも一段落して全員で昼食だ。


 本日のメニューはシカゴドッグのエルム風。


 シカゴドッグとはホットドッグの派生や亜種とも呼べる食べ物で、見た目はほぼそのままホットドッグである。定義は『ケシの実を振ったバンズ』と『牛100%のソーセージ』が使われている事だが、更に通な条件としては『トマトを挟みケチャップは使わない』や、『揚げたてのポテトを乗せてある』など、様々な条件がある。


 人によっては「それはシカゴドッグじゃない!」「いやコレが俺のシカゴドッグだ!」と喧嘩になる事もある食べ物だが、エルム的には「美味けりゃ良い」ので定義など知らないしどうでも良い。


 ケシの実は使ったがソーセージは牛100%じゃないし、ケチャップも使う。もう素直にホットドッグと呼べば良いのにエルムも何となくカッコつけて『シカゴドッグ』と譲らない。ただ揚げたてのポテトが挟まったそれは驚く程に美味である。


 具材は焼肉のテール肉ソーセージ(皮なしタイプ)にトマト、ピクルス、フライドポテト、ケチャップに粒マスタード。


 一個がかなりデカいので、エルムの料理に飢えた欠食児達も二つ食べたら満足する。双子も一つをペロッと食べたあと、二つ目を二人で分け合って仲良く食べてた。その姿は中々尊い。


「んじゃぁ、腹もくちくなったところで、ノルドの報告でも聞こうか」


「え、待ってくれよプランター。デザートは?」


「チョコでも食ってろ」


「わはーい!」


 投げ渡されたチョコレートに飛び付く欠食児達。この文明、この国ではチョコレートなんて胡椒よりも貴重な存在なのに、樹法のプロフェッショナルに掛かれば殆どタダで食べれる手軽な甘味に成り下がる。


 とは言え味が落ちるわけでも無く、その高貴な味わいは旅団のメンバー全員を魅了している。なので投げ渡したチョコレートを求めて争奪戦が勃発する。


「よし、報告よろ」


「…………まぁ良いけどさぁ」


 チョコが詰まった袋を奪い合う仲間を見て、ノルドは静かに嘆息した。そんなノルドは双子から直接チョコを貰っていた。着々とエルムポイントを稼ぎつつ、双子ポイントまで稼いでるノルドは二人からの好感度が低くない。


 まるで「お疲れ様……」と言うように労いのチョコを渡され、ノルドはほっこりした。


「えーと、まず村への手助けだけど、大部分は先に到着してた旅団が持っていってるっぽいね。普通ならある程度残しておくのがマナーなんだけど」


「ふむ。俺への攻撃って所かね?」


「まぁそうだろうね。で、あと大きなところだと、近くの森で魔物と見られる害獣が繁殖してるから、それの駆除くらいかな」


「…………害獣? そんなの傭兵使えば良いだろ。学生にやらせる事じゃねぇ」


「実際がどうかは知らないよ。もしかしたら教師の介入で学生向けに調整されてるかも知れないし。とは言え、駆除の方もあっちのチームが請け負ってるから、正直僕達の仕事は無いね」


「………………まぁ、ぶっちゃけ課外授業の評価とかクソほど気にして無いから良いけどよ。と言うか樹法使えば『困ってない事』も助けられるし」


 事実、例えば孤児院にやったような『家屋再生』だけでも充分に評価が貰えるだろう。年季の入った村の家屋が全て一日で新築同様の姿になるのだから、評価点も相応だ。


 問題は、その方法で評価されるのは『ノルドチーム全体』なのか、『エルム一人』なのかが分からない事だけ。


「段々、樹法が羨ましくなって来た」


「系統外でも学べば使えるんだし、ノルドも授業に来いし」


「考えとくよ」


 ◆


 結局、先行したチームに仕事を全部取られてる状態なのは如何ともし難く、そこにエルムと言う劇薬を投入したら本当に他のメンバーが出来る仕事が無くなる。


 そんな理由もあって、エルムと双子は待機となった。メンバーがある程度の評価を稼げるまでそのまま。エルムであれば一日どころか半日もあれば最大評価も稼げるだろうとの判断である。ノルドの大正解だ。


「………………しっかし、待機となると暇だな」


 双子はメンバーのテントを回って暮らしやすい設営の手伝いに出掛けた。コットやテーブル、荷物入れなどを樹法で作って回るのだ。


 今回もスイカズラを拠点化しても良いのだが、目的地に辿り着いてしばらく動かないのだからテントで良いだろと言うエルムの判断である。


 双子はエルムと一緒に待機の予定だが、村に手を出さなければ問題無いと考えて指示を出してある。野営地は村の外なので、この中で人助けをするなら別に問題は無いはずだから。


 エルムは時間が余ってしまったので、ヤキニクが寝泊まりする場所のアップグレードを始めた。今のヤキニクは毎日白桃を食べ過ぎて、一周回って野菜が美味しい時期らしい。


 現在のトレンドは葉野菜らしいのでキャベツ、レタス、白菜、小松菜、ほうれん草、ルッコラ、チコリ等々、思い付く限りの葉野菜を自動生成にしてやった。


 もちろん、空を見上げればそこにも木の枝から果物が自動生成である。デザートも忘れない。恐らくヤキニクは、現在この世で最も待遇が良い家畜だろう。


「ふむ。暇だ」


 そんなヤキニクの待遇改善も終わり、あとはヤキニクの体を拭いたりするしか仕事がない。樹法が優秀過ぎて仕事が一瞬で終わってしまうのだ。


「………………よし、煽りに行くか」


 ノルドは優秀である。しかし一つ大きなミスをした。


 エルム・プランターに問題行動を起こして欲しくないなら、自由時間を与えてはならないのである。エルムには仕事を渡しておくべきだった。


 自由になったエルムに、『待機』なんてふわっとした指示で縛られるほど大人しく無いのだ。


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