論争。
「やっぱ、そぼろ丼が至高だと思うんだよ」
「あ? どう考えても唐揚げだろうが。お前の舌は腐ってるのか?」
「皆は何を言ってるの? ローストテールが一番なのは確定的に明らかでしょう?」
旅も三日が過ぎ、ノルドチームの旅団は現在、内乱が起きていた。
「くだらない理由で喧嘩してるなら二度と作らねぇぞ」
「ごめんなさいでした」
「二度と生意気言いません」
「お許し下さいお母様」
「誰がお母様じゃてめぇコッチ見ろオイ」
しかし内乱は秒で終息した。エルム政権は強いのである。そしてエルムは双子を甲斐甲斐しく世話する姿から「お母様」のアダ名が浸透しつつあった。もちろん料理が上手い事も理由の一つだ。
「何言ってるのよ! ポチちゃんよ!」
「いいえ、絶対にタマちゃんの方が可愛いです」
「二人揃った姿が一番可愛いに決まってんだろニワカ共めが」
また別の論争が起きていたが、そちらもエルムが黙らせた。双子は二人揃ってこそである、異論は認めない方針だ。
女の子と言うことでチヤホヤされているタマだが、初日の夜にパンを叩き落とされてしまった時のポチが女子のハートを撃ち抜いたらしく、何故かポチ派とタマ派が生まれてしまったのだ
エルムが気付いてブチ切れるまでの間、ポチは大好きな
地面に落ちて踏まれてしまったローストテールサンドを見て、んぐんぐと涙を堪えて飲み込んで、それでも悲しすぎてまたジワジワと涙が出てきて口元がモニュモニュする。
ポチのパンを叩き落としてしまった生徒もワザとでは無く、そのパンを偶然踏み付けて台無しにした生徒もワザとじゃなかった。なので必死に泣くのを堪えてるポチを見てアワアワしていたが、結局はエルムに制裁された。
「全く、なにも分かって無いなお前ら。二人が揃うとどれだけ可愛さが跳ね上がるか教えてやる」
そんな事件があったので、ポチは普段の三倍ほどエルムに可愛がられたし、泣くのを我慢してた姿にハートを撃ち抜かれた女子にも可愛がられた。
もちろんタマと差がつくのを良しとしないエルムなので、ポチと同じぐらい可愛がられたタマもニッコニコだった。
ともあれ、エルムは双子どっちが可愛い論争を負わされる為に双子をキャリッジに連れて行く。
────そして、出て来た双子はどちらも新しいメイド服を着て居た。
「…………んぷひゅッ!」
「これ、かわぁ……」
「あっ、死…………」
エルムが即席で作ったチャイナ風メイド服を着た双子が、エルムの指示で両手を握り合いながら女子達の方へ顔を向け、ほっぺをぷにっとくっ付けて体を寄せた。
それはまるで百合の花。
そんな格好でポチは嫌がらないのかと言えば、特に嫌がって無かった。と言うよりも理解してないと言った方が正確か。
そもそも強く性差を気にする性格でも無く、双子の妹と自分がそっくりな事もあるだろう。何より「大好きな
翻ってタマはと言えば、兄が自分とお揃いの可愛い服を着てるのか嬉しかったのかルンルンである。要するに二人ともルンルンの笑顔で可愛いポーズを取っている。
双子は感情が表に出にくい性格だが、それでも嬉しければ笑うし悲しければ泣く。その少ない表情の変化が儚げな笑顔を演出し、とても尊い雰囲気を醸し出す。
「と言うか、何その服。いつの間にこんなの用意してたの……?」
「いや、似合うと思って今その場で作って来た」
「作ったの!? しかも今!? えっ、プランターくんって本当になんだったら出来ないの!?」
「知らん」
かくして、双子は二人揃った時が一番可愛いと理解して貰えたエルムは、四日目の昼飯作りを始めた。
旅の目的地はもうすぐそこで、明日の昼には辿り着けるだろう。
(やりたい事やるなら今晩しか無いか)
エルムは昼飯を作りながら、夕食の仕込みも始めた。
旅の食事は日を重ねると質素になっていくのが常であるが、樹法で植物性の生鮮をいつでも生み出せるエルムには関係なく、肉もヤキニクが居るから問題ない。
ちなみにヤキニクはあれから桃に夢中で、桃さえ食べさせとけばエルムにメロメロである。
「おら欠食児ども! 飯だぞ!」
「それなに!?」
「カツ丼だ!」
チームの男子はもう、カツ丼なんて料理は知らないのに「いぇーい! かつどぅーん!」とはしゃぎ回っている。そぼろ丼と語感が似てたから少しは予想出来たのだろうか。
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