出発。
「にしても、凄いよなコレ…………」
集合場所の正門前にて、エルムは旅団のメンバーに声を掛けられた。
いくつかの例外を除いて、魔法学園の生徒が全員揃っている場所に於いて、誰よりも何よりも目立っているのがエルムの用意した獣車である。
二両編成の超大型獣車が二台。それだけでも有り得ない目立ち方をしてるが、極めつけは獣車を曳いてる駄獣と、駄獣なはずなのに何も曳いてない利竜の存在だ。
もちろん、特に目立っているのは樹法によって作られた
表面が樹皮なので色味は多少違うが、フサフサの部分を再現する為に別の植物を生やしたりなど工夫がされていて、日本人が見たら十人中十人が「あ、ジ○オウガ……」と呟くだろう外観だ。
白い部分が綿花と
言ってしまえば色違いのジン○ウガである。流石にエルムも完全なモロパクリは怖いと思ったのか、色の他にも角の形や尻尾の形は変えているが、ほぼジンオウ○だ。
生やした花の名前をそのまま使ってスイカズラと名付けた大型サーヴァントが二頭。正門前の広場が騒然とするのは当たり前だった。
「まぁ発電能力は無いんだが……」
「なんの話し?」
「いや、こっちの話だ」
霆法を組み込めば帯電も再現出来たが、そこまでやると日本のメーカーが異世界まで殴り込みに来るんじゃないかと思ったエルムは自重した。しかし何事も手遅れというものはあり、誰が見ても○ンオウガであるスイカズラは端的に言って手遅れだった。
「まぁいいや、そろそろ出発だろ」
「そうだね。ところで今日のお昼って?」
エルムは名前すら覚えてない上級生男子にそう聞かれ、薄らと考えてある献立を口にする。
「ローストテールのサンドとスープ」
「夜は?」
「そぼろ丼とサラダ」
エルムは完全に「美味しい食べ物くれる人」認定されているらしい。そして実際に美味しい食べ物を提供するのだから認識を払拭出来ない。
顔合わせから数日経っているが、旅団メンバーがエルムの元に訪れて度々食事を強請るので、今日までに数回の餌付けが行われている。なのでエルムの地位はある意味不動となっているが、エルムが望んだ訳では無い。
攻撃的な性格をしていようと、元勇者である。表裏なく頼られると応えようとしてしまうのは恐らく生来の物で、藤原
もともと楡は、幽霊部員だったにも関わらず正規部員に頼まれた部活の買い出しに行って事故死したのだ。頼まれたら応えてしまう性格は、プリムラよりも前から根底にあった。
「ん、出発らしいな」
教師が広場にて号令を出し、課外授業に参加する者は順次出発し始める。
この後、一般人に扮した教師が指定された地域の村や町に居て、そこで活動する生徒の行動を評価する。だが旅の途中は完全に生徒の領分であり、当たり前だが場合によって命を落とす事もある。
少ないとは言え盗賊などもゼロでは無く、ダンジョンの外に居る魔物だって居る。そういった存在に対してしっかりと対応出来る事が魔法使いとしての第一歩だと、学校からスパルタ気味の期待が入った方針である。
もちろん護衛を雇う事も可能だし、実際にそうしてる者も居る。だが生徒達だけで行くよりも評価は下がる。
貴族、豪商が多い学校なので野営なんて耐えられないと言う者も一定数居る。もっと言えば食事も質素なのは嫌だと料理人すら連れて来る者も居る。当然それも評価が下がる要因なので、真面目な生徒は誰もやらない。
しかしやる奴はやる。実際にエルムの目の前で旅立って行く他のチームはいくつか、見るからにイカつい傭兵風の護衛を連れていたり、見るからに料理人だったり侍女だったりする者を連れている。
評価がガッツリ減っても困らない自信があるのか、そもそも評価を気にしていないのか、理解してないのか、どんな考えなのかは分からないが、それでも快適な旅にしようとする者は毎年必ず一定数居る。
「そんな中で、全部手馴れてるエルムくんが居るこの旅団は凄い運が良いよね!」
人数が人数なので、旅立つチームは順番に正門を抜けて行く。エルム達のチームも順番が近付き、雑談に興じていた女子生徒がエルムのキャリッジに乗りながらそんな事を言う。
「良いからさっさと乗れよ。置いてくぞ女子共」
今回の旅で、エルムが担当するのは料理と野営。そして女子組の輸送である。
エルムが顔合わせをする前では、普通に全員がチャーターした馬車にて旅をする予定だったのだが、エルムのキャリッジには客席が存在した。
その完成度は語るまでもなく、こんな上等な足があるなら馬車要らねーじゃんと言う生徒も続出。しかし席数は十人以上も座れる程じゃ無かった。
その結果、エルムのキャリッジに乗って旅をする権利を賭けて女子組と男子組が戦争を始めた。どちらが勝ったのかは、現在女子が乗り込んでいく様子が答えである。
豪華で快適なキャリッジに乗り込む女子組を羨ましそうに見る男子組も、ノルドに促されて通常の馬車に乗り込んで行く。その様子を見届けたエルムは、双子に運転を任せてるキャリッジでは無く霊法利竜の元に向かう。
「よし、出発だぞヤキニク。本当にキャリッジは要らないのか?」
「ぎう!」
今日やっと販売店から連れ出された霊法利竜は、ヤキニクと名付けられた。由来は語るまでも無いだろう。強いて言うなら肉屋だから。
今回の旅で、エルムはヤキニクに歩くことすらしなくて良いと伝えていた。だがヤキニクは知っていた。適度な運動こそが食事を美味しくする一番のスパイスだと。
だからヤキニクは今回、自分の足で歩いて旅について行くと決めた。そして沢山歩いた後に、エルムから貰う甘露の如き果物を食べるのだ。
なにより、エルムは今日から新しい果物を解禁してくれると言っていたので、ヤキニクは凄まじいモチベーションだった。なんなら自分の足で歩く以上に、エルムを乗せて歩いても良い程に。
「じゃぁ行くか。今日の昼から新しい果物を食わせてやるからな。白桃って言うめちゃくちゃ甘くてトロットロな果物だから楽しみにしとけよ」
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