双子の趣味。
きゅっきゅっきゅ。エルムの自室に響く音は、ポチの手元から永遠に鳴っている。
ポチは真剣だった。とても真剣に作業している。
「……ぁに、なにしてゅ?」
「んっ」
現在外出中のエルムから教わった料理に勤しむタマは、そんな兄の事が気になって様子を見に来た。
するとポチは、まるで宝物の様にそれをタマに見せた。
「…………どーか?」
見せられた宝物は、ぴっっっっっっかぴかに磨きあげられた銅貨だった。
「んっ!」
それを「どうだ、凄いだろ!」と言わんばかりのドヤ顔で見せるポチに、妹のタマは困惑していた。
(ぁには、なにしてゅ……?)
結局、先の疑問は解消されてないのだ。何してるの? と聞いたら何してるのか分からない行為の成果を見せられただけだ。だからお前は何をしてるんだと妹は聞きたい。
「ぉしごと、ある」
「………………ん」
ん、では無い。タマは青筋を立てる。
今は主であるエルムから与えられた自由時間ではあるが、確かに自由時間ではあるのだが、それでも売られる前よりも良い生活を送らせてもらってる自分たちは、いち早く色々な仕事を覚えるべきだとタマは考えている。
幼さゆえ、流石にそこまでガッチガチに堅苦しい思考では無いものの、方向性としてはそうだった。エルムに対する恩返し、それが自分達の第一であるはずだ。
だから自分は早くご主人様でありお兄ちゃんであるエルムのお世話をするべく、料理を勉強中なのだ。勿論、魔法の練習も並行して行ってる。
だと言うのに、この兄は何をしているのか?
何故、銅貨を磨いているのだろうか? タマには何も分からなかった。
「なに、してゅ?」
なので何回も聞く。アナタは何してるのと。
「…………しゅみ」
「しゅみ」
思わずオウム返しにしてしまった妹。…………趣味? 銅貨を磨くのが?
「…………なんで?」
「ん。ぴかぴか、たのし」
ぴかぴかが楽しいらしい。タマは理解出来なくて首を傾げた。
「たまも、りょーり、しゅみ?」
仕事だが? ポチに聞かれたタマは静かに怒った。
確かに料理は楽しい。出来ないことが出来る様になって、昔の自分ではとても食べれなかったような美味しい食べ物を自分で作って、大好きなお兄ちゃんに食べて貰える。褒めて貰える。
しかし、自分はお兄ちゃんのお仕事を減らそうと思っての事だ。趣味扱い、つまりは遊んでるのと同じ扱いは遺憾である。タマはあまり動かない表情筋によって態度に出す。
「………………?」
しかしポチには通じなかった。ポチは話は終わったとばかりに銅貨磨きに戻る。既に顔が写るほど磨きあげられてるのに、まだ磨くと言うのか。
「ただいま〜」
その時、部屋にエルムが帰って来たので二人とも一瞬で駆け出した。
「おぉおお、突撃して来たら危ないだろが」
銅貨を磨いてたポチも、料理の途中だったタマも、全てを投げ捨ててエルムに突撃する。
その腰にしがみつき、二度と離さないと言わんばかりに抱きしめ、頭をグリグリと擦り付けたりスンスンと匂いを嗅いだりする。特にタマは、エルムのお腹がめり込む程に顔を押し付けて深呼吸する。
「なんだなんだ、そんなに寂しかったのか? ちょっと留守番頼んだだけなのに」
ぽんぽんと頭を撫でられるだけで心が震えて、他の事なんてどうでも良くなってくる。タマに何か趣味があるとすれば、それは料理でも銅貨磨きでも無く、エルムになでなでされる事だった。
褒めて欲しい。だから料理も勉強してるし、その他のメイドらしい仕事も全部覚えていきたい。
頑張った褒めてくれる。褒める時は頭をなでなでしてくれる。たまにぎゅっと抱きしめながら、極上の状況で徹底的に頭も喉も撫でてくれる。
タマは人の感情に敏感だ。だから何となく、エルムが自分を人として扱ってない事も理解してる。
だけど、こんなにも幸せならペットで良い。自分はお兄ちゃんのペットが良い。心のそこからそう思っている。
タマは今、幸せだった。
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