史上最高に下品なショータイム。



 これだけ盛大に侮辱され、それを観衆に見られた中で逃げれば、それは侮辱された以上の恥になる。それが貴族社会と言うもので、もし今逃げてしまえば、「あ、そう言えばあの時に逃げましたよね。負けそうだったんですか?」と一生言われ続けるのだ。


 だからビンズは逃げられなかった。もう勝つしかない。そして勝つ自信はある。自分は選ばれし勇者の系統である刃法を手にし、魔法学校でもトップクラスの成績だと言う自負がある。


 つまりは学生最強。ならば恐れることなど何も無い。実力を発揮して戦えば、魔法学校を去るのはエルムであり、自分は何の損害も受けない。


 ビンズ・ブレイヴフィールは、決闘が始まるまで本気でそう考えていた。


「喰らえぃッ!」


 気合と共に剣を振るうビンズ。


 刃法の初歩、飛ぶ斬撃がエルムに向かって放たれる。ビンズはこれで勝つつもりだった。自分の魔法を新入生程度が防げるなんて考えもしない。


「………………えっ、よっわ」


 だからその光景をまず疑った。幻覚か何かじゃ無いかと。


「えぇ〜、予想の五千倍くらい弱いんだが。むしろもう雑魚って呼んだら雑魚に失礼な気がしてきたわ」


 エルムが手に持ったハルニレを一閃すると、当たり前のように斬撃が掻き消された。ビンズには何が起きたのか分からず、もう一度同じように飛ぶ斬撃を放つ。


「え、防がれたのに同じ攻撃ってマ? もしかして学習能力が備わってない? 随分可哀想な頭なんだなぁ」


 そしてまた消される。当たり前のように、なんでも無いように、蝋燭の火に息を吹きかけるが如く軽い力で自慢の魔法が消されてしまう。


「んじゃ、こっちからも行くわ。怖くても泣くなよ〜?」


 エルムは触媒の種を五つ、地面に放る。一瞬でキラープラントが五体生まれ、一体一体が夥しい量の触手ツタをうねらせてビンズに向かう。


「うっ、うゎぁぁああっ!? なんだコレはぁ!?」


 突然生まれた化け物が全力で向かって来る。かなりの恐怖映像がリアルで迫る中、ビンズは何回も剣を振ってキラープラントを倒そうとする。


 飛ぶ斬撃でキラープラントの触手は数本切れるが、しかしそれだけ。あっという間に新しい触手が生え変わって、速度を緩めずビンズに迫る。


「…………ハルニレ持ってくる必要も無かったな」


「クソッ、来るなぁ! 来るなぁぁあッッ!?」


 必死に抵抗するビンズだが、あっという間に周囲をキラープラントに囲まれてしまう。剣一本で捌くには物量しょくしゅが多すぎた。


「やめっ、止めろぉおおおおッッ……!?」


 そして始まる蹂躙。幸いながら血は流れないが、しかしビンズにとってそれは何の慰めにもならなかった。


 むしろ、血が流れて瀕死になる方がよっぽど優しかっただろう。


「はい終わり。それではご来場の皆様! 今から始まります、股間の勇者ビンビン元気なビンズ君のビンビンショーをお楽しみくださーい!」


 観客席に聞こえるように叫ぶエルムは、五体のキラープラントに指示を出して本当の蹂躙を始めた。


 キラープラントの触手が波のように押し掛け、あっという間にビンズを飲み込む。大量の触手に囲まれたビンズはもう抵抗らしい抵抗さえ出来なくなってる。


「────なぁ!? きさっ、貴様何をするつもりだっ!? なぜ脱がせっ……!?」


 そう。まずエルムが行った事は、ビンビンビンズ君の強制脱衣。

 

 ビンズを飲み込んだ触手の群れの中で、ビンズは着々と衣服を脱がされて行く。その様子はキラープラントの体が邪魔で見えないが、そんな事じゃ安心出来るはずも無い。


 というか、エルムが「見えない」なんてヌルい現状を許すはずが無かった。


「やっ、止めてくれぇぇえええええええ!?!?」


 キラープラントの束ねられた触手が噴水の様に天に向かって吹き出し、その先端には半脱ぎ状態になったビンズが居た。当然、触手に絡め取られて身動きは出来ない。


 観衆に晒された状態に移行し、そして強制脱衣は終わらない。


「さぁさぁ皆様! そろそろビンズ君のビンビンな剣が見えてくる頃でしょう! 仮にビンビンじゃなかったとしても触手で強制的にビンビンにするのでご安心ください!」


 悪夢である。控え目に言っても凄惨極まりない悪夢である。


 決闘を見守る為に集まった観衆の元、化け物に脱がされて全裸を晒し、その上股間にまでされる様子を白日の元に晒す。これ以上の悪夢が存在するだろうか?


「そこの顔を真っ赤にして手で目を隠したご令嬢! 遠慮なんて要りませんよ! どうぞご自由にビンビンビンズ君のビンビンな剣をご覧になって下さい! そっちのビンビンビンズ君の友人っぽいご令息! 我慢なんて要りませんから、どうぞ腹を抱えて笑い転げてくださいな!」


 決闘のはずだった。誇りを賭けた決闘のはずだったのだ。


 しかし、。最初から賭けなんて成立するはずも無かったのだ。


「さぁさぁさぁさぁ! そろそろ見えて来ます! 剣の勇者が残した栄光の剣を、子孫であるビンズ君が今!」


 今、じゃない。完全にイジメである。


「うわぁぁぁああぁあぁあぁああぁぁぁああッッ!?」


 ビンズも既にガチ泣きしている。恥も外聞もなくギャン泣きしている。あと少しで絶対に消えない汚名が生まれる。観衆の元フ○チンになったと言う伝説が生まれる。


「いやだぁぁぁあああぁぁぁあああッッッ!」


「嫌じゃねぇよ。さっさと負けを認めろや。本当に晒すぞ? はいさーん、にー、いー…………」


「まけっ、負けだァァァ!? 私の負けだからァぁああ!?」


「あー手が滑ったァ〜」


「ぎゃぁぁあああああああっっっっ!?」


 隠されし禁断の立派な剣が、観客の前に晒されてしまった。


 ◆


「さぁビンビン勇者君、契約の通り自己紹介してくれるかな? 出来ればご来場の皆様に聞こえる大きな声で」


「おまっ、やめっ──股間の剣に誇りを託し、今日も明日もずっとビンビン! 栄えある剣の勇者が末裔にして、いきり立つ刃法の正当後継者! 我が名はビンズ! 股間の勇者とは我の事なり! うわぁぁぁあああんママぁぁぁあぁあッッ!」


 ビンズ・ブレイヴフィール、不登校確定。


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