おめでとう!



「…………あっ! そうだ、次期当主に昇格おめでとう!」


「……いや、まだ捜索段階だから本決まりじゃないよ。僕も騎士になる予定だし」


 再会してすぐに満面の笑みでエルムから言われた言葉で、ノルドはやはり犯人がエルムなのだと確信した。


 ノルドが次期当主に昇格すると言う事は、嫡子であるガルドの死を確信してると言う事に他ならない。そんなセリフが真っ先に出て来る当たり、犯人以外には考えられなかった。


 しかしそんな事を言及したら、自分が次の獲物になるだけである。ノルドは苦笑いで本心を覆い隠して当たり障りの無い答えを返す。


「えっと、後ろの子達は?」


「ん? あぁ、奴隷買ったんだよ。一応身の回りの世話をさせようと思ってるけど、現状は愛玩動物ペットだな。魔法の弟子でもあるけど」


「…………ん!? 弟子!?」


 聞き捨てならない事を聞いたノルド。脳内では量産型エルムがどんどん増えて行く悪夢が想像されて悪寒が走る。


「可愛いだろ? クナウティア成分の補充に丁度良いかと思ってさ」


「えっ、ああ。クナウティアも寂しがってたよ。あの子の喜びそうなお店とか幾つか知ってるから、今度教えようか? 送ってあげたら喜ぶと思うよ」


「おぉ、マジ? 次男ちゃんやるじゃん」


 予定通り好感度を稼いだノルドは、そのまま泣いてる男子生徒を連れてフェードアウトするつもりだった。しかし泣いていた男子生徒も暴言の嵐が止んだお陰である程度は復活し、エルムにビシッと指をさして宣言する。


「おまっ、お前は絶対に許さないからなっ! 兄上に言い付けてやるっ!」


「…………えっ、よりによって捨て台詞がそれってマジ? 酷過ぎて逆に煽れないんだけど。事実上の敗北宣言って理解してる?」


 走り去る生徒を尻目に、ノルドは額に手を当てた。こうならない様に介入したのに無駄になったのだ。


「あぁ〜、エルム。大貴族を怒らせるなよ……」


「え? 俺が悪いの? 俺の機嫌を損ねたアイツが悪くね? 何様のつもりだよ」


「いやお前が何様だよ。一応は平民なんだから、貴族怒らせたらマズイだろ……」


「……………………え? 次男ちゃんお前、まさか俺の事を心配してんの?」


 エルムは驚いてノルドを凝視した。ポチが裾を引いて「……だれ?」と視線で問うがそれどころでは無い。


「次男ちゃんが、俺の、心配…………?」


「いやそこまで驚くなよ。一応家族だろう?」


「かぞ…………、く?」


 エルムは宇宙の真理を見せられた猫の様な顔になった。家族……? オモチャの間違いでは?


「あ、うん。分かった。エルムに取ってエアライドがどんな存在か」


「エアライドってオモチャの家系だろ? 俺専用の」


「言わなくて良いから」


 ちなみにクナウティアは愛人の子なので、エルムと同じように家名を貰っては無い。嫁に出される時に改めて養子として迎え入れてエアライドの名を与える形になる予定なのだ。


「ところで、アイツって大貴族なん? どこの家?」


「ん? なんだ、知らなかったのか? ブレイヴフィールだ──」


 その瞬間、学生寮の食堂全体に殺気が駆け抜けた。


「ブレイヴ、フィール…………?」


 ブレイヴフィール。それはエルムにとって無視出来ない名前だった。


「剣の勇者、ブイズ・ブレイヴフィールの末裔か……?」


 瞳孔が開き、確実に人を殺してそうな無表情になったエルム。あまりの様子にノルドは思わず一歩引いてしまった。


「へぇ、ほぉ〜ん。ブレイヴフィールねぇ……?」


 かつて樹法の勇者を裏切って謀殺した人物の血が流れる人間が、ついさっきまで目の前に居たのだ。エルムの心中は穏やかじゃない。


「くく、クカカッ……! お兄様に言い付けてくれるんだっけか? 上等じゃねぇかクソッタレ。一族丸ごと生きてる事を後悔させてやる……!」


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