絡まれた。
「おぉ〜、良い部屋じゃん。相部屋かと思ったけど、まさか個室とは」
学校に来たエルムはその足で事務に向かい、寮へと案内されて一息ついた。
エルムが確認して無いだけで、普通の生徒は相部屋である。個室が貰えるのは最上級クラスに入れた者だけであり、この部屋もエルムが成績を落とせば取り上げられる。
「2DKくらいか? 学生寮としちゃ破格だな。……あぁ、使用人の部屋もって事か? まぁウチは一緒に寝てるしどうでも良いか」
与えられた部屋はエルムの言う通り2DKの間取りで、部屋二つとリビングを兼ねるダイニングにキッチンが付いてる。もし日本の東京でこの間取りの物件を借りようとしたら、かなり良い家賃を取られるだろう。
エルムの言う通り、学生寮にしては破格だった。
「キッチンは食料庫も付いてるのか。……氷は有料か? まぁ仌法で出せば良いか。コンロは薪を使うタイプだな。魔導式の物は流石に無いか」
「…………おりょーり?」
部屋の設備を確認してると、ふいにタマがエルムの裾を引いた。
「ん? ああ、料理を作る場所だぞ。ある程度は俺も出来るが、せっかくだから覚えてみるか? 一応二人は召使い要員だし」
「……がんばぅ」
小さな手を握ってフンスと鼻息を飛ばすタマ。ポチの方はキッチンに興味が無かったらしく、他の部屋を確認していた。
「さて、部屋の確認は一通りしたし、次は寮の中を見て回ろうか。二人とも、制服に着替えろ」
「ぁい……!」
「んっ!」
二人の為にエルムが全力で作ったメイド服と執事服は、控え目に言って輝いて居た。
キースの店で買った適当なガラス玉などをカットして擬似宝石なども作り、制服の装飾に利用していた為に相当に豪華な仕上がりとなってる。特にメイド服の方は「そう言う趣味だったの?」と聞かれても否定しずらい程である。
「うーん、可愛い」
「…………ぇへへ」
ストレートに褒めれたタマは照れ照れし、妹だけ狡いとポチがエルムの裾を引く。ちなみにエルムは二人と比べて普通の服なので、衣服のクオリティで判断するならどちらが主従か変わらなくなっている。
「ポチもちゃんとカッコイイぞ。そんなに拗ねるな」
「……ん〜、すねてなぃ」
着飾った二人を存分に楽しんだエルムは、その後に自分も制服に着替える。これは合格通知と共に送られてきた学生服である。
見た目は紺色のローブの様なデザインをブレザーっぽく寄せた物で、この制服に着替えてもクオリティで双子に負けている。エルムがどれだけ力を入れて服を作ったか分かろうものだ。
「んじゃ行くか」
二人を連れて部屋を出て、しっかりと鍵を閉める。入学が決まり、自重も止めると決めたエルムの腰にはしっかりとハルニレが装備されて居る。もちろん触媒の種と
学生寮は四階建ての石造りで、一階は食堂や風呂などの共用スペースが集まっている。二階から上は学年別に生徒が詰め込まれていて、最高学年が卒業する度その階に一年生が入る形だった。
今年の一年は二階に入り、それより上は上級生の住む階なので用が無い。エルムは二階を適当に見回った後に、一階へ降りて食堂や大浴場の確認に向かう。
ちなみに男女は別棟なので、この建物に女子生徒は居ない。
「…………ん? あれは」
食堂に来ると、テーブルに座ってる上級生に見知った顔を見付けたエルムは、そちらに向かおうとして誰かにぶつかってしまった。いや、ぶつかられてしまったと言うのが正確か。
エルムは腐っても元勇者なので、周囲の気配なんて息をするよりも当たり前に読んでいる。なのでぶつかりそうだった気配を避けて歩いて居たのだが、向こうがわざと突っ込んで来たので当たってしまったのだ。
「むむっ! この高貴な僕にぶつかるとは、生意気な平民も居たもんだな!」
「…………あ? その生意気な平民に自分から当たりに行くのが高貴さの秘訣なのか? 随分特殊な頭してんだなお前。さぞご立派な教育を受けたんだろうな。納得する頭の悪さだわ」
もはや条件反射で煽り始めるエルムに、まさか平民が逆らってくるとは考えてなかった男子生徒は唖然とする。
「お、お前……、この邪法使いが良くも……!」
「邪法じゃなくて樹法な。言葉は正しく使えよ
ガトリング砲の様な煽りを食らった男子生徒は、言葉の全てを理解するのに時間が掛かってる。人生でここまで侮辱された経験が無いのだろう。
「というか、なんでここに居る? 樹法なんて簡単な言葉さえ覚えられない残念な頭だったら試験で落ちてるだろ。裏口入学か? でも残念な頭のお前が裏口で入学したって良い事無いと思うぞ? だってお前馬鹿じゃん。魔法学校に入学したのに魔法系統の名前すら正しく覚えてないとか正直ゴミだよな。恥かく前にお家に帰ってママのおっぱいしゃぶってた方が良いと思うぞ? お前ってママのおっぱいしゃぶる才能はありそうな顔してるもん。そのおっぱいしゃぶってそうな卑猥な顔でコッチ見ないでくれる? 気持ち悪過ぎて背筋がゾッとするんだけど」
ガトリング砲どころかフレシェット弾だったかも知れない。止まることの無い暴言の嵐に、脳のキャパを超えた男子生徒はとうとう泣き始めてしまった。
イキがっても所詮は十二歳なのだ。気合いで越えられる悪意にも限度がある。
「うわ鳴き声ブッサ……! 公害だから鳴くの止めろよ迷惑な奴だな! 斬られたモンスターみたいな声しやがって、もしかして人間ですら無かったのか?」
しかし子供が泣いた程度で口撃の手を緩めるほど、エルムは性格が良くない。子供に優しいのは相手が可愛いからであって、可愛くない子供なんて何の価値も無いと言い切れるエルムだ。泣こうと喚こうと口撃でボッコボコだ。
「…………ちょ、おいエルム。その辺にしとけって」
「あ、次男ちゃん」
あまりの凶事にいたたまれなくなった生徒の一人が、エルムに声をかけた。エルムが見掛けた見知った顔であるエアライド家次男、ノルドラン・エアライドだった。
(関わりたく無かったのになぁ……)
(マジかよ次男ちゃん居るのかよ。オモチャまで完備されてるとか魔法学校最高か?)
ほぼ真反対の事を考える兄弟が、不運にも再会してしまった瞬間である。
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