樹法でも首席。
後日、試験結果がラコッテ家に届いたので確認すると、エルムは当然の様に首席だった。
(あ? 首席だと? 樹法だったのにどっかの権力者から
その結果を訝しむエルム。魔法学校には騎士を目指す貴族や、名家でも次男以下で家を継がない者が通って居たりする。そんな学校であれだけ派手に樹法を使ったエルムが首席に選ばれるとは予想外だったのだ。
(高位貴族の横槍が入らなかった? 樹法使いにトップ取られるなんざ、貴族に取っては恥以外の何者でも無いだろ。なぜ邪魔されなかった?)
学校側で何かしらの成績操作がされると判断していたエルムは、この結果を受けて逆に警戒する。何か裏が有るんじゃないかと。
「首席なんて、凄いじゃないか! さすがエルム君だね!」
「おにぃちゃ、しゅごぃ……♪︎」
「んっ!」
「今日はお祝いね! 美味しいものを沢山作りますからね!」
しかし、警戒するのはエルム一人。双子もラコッテ夫妻も素直に結果を喜んでいる。双子はまだ良く分かってないにしろ、中堅とは言え商人がそれで良いのかとエルムはキースに呆れた。
(この人、純朴が過ぎるだろ。なんで商人やれてんだ? 絶対に騙されて終わるタイプじゃねぇか。そんな不運が寄って来ない程の激運なのか?)
元勇者のエルムと出会えた時点で激運と言えば激運なので、ある意味正解である。
「…………まぁ良いか。どんな思惑であれ、邪魔なら食い破ってやる。もうどうせ樹法使いなのはバレてんだし、自重なんて要らねぇだろ」
せっかく双子を隠れ蓑にして体制を整えていたのに、魔法学校の無遠慮なシステムで台無しになった。しかしそれはそれで自重する理由が無くなったから逆に、エルムはどこかスッキリしていた。
「んじゃぁ、オッサン達にも世話になったな。予定通り、魔法学校の寮に移るけど、時たま遊びに来るわ」
「うん、待ってるよ。ポチ君もタマちゃんも、いつでもおいでね」
「んっ!」
「……あぃがと、ごじゃましゅた」
随分と増えた荷物を纏めて、王都に来てからずっと世話になったラコッテ家を後にする。その場に居たラプリアから挨拶が無かったが、彼女は去りゆく双子に涙していて挨拶どころじゃ無いだけだった。
双子がエルムに心を許してからは、何かと気にかけてくれるラプリアにも気を許していた。しかし『懐いた』と表現するのであれば、それは双子がラプリアにじゃなく、ラプリアが双子に、である。
ラプリアは大変な子供好きであり、双子も素直で可愛らしく一番可愛い盛りであろうサイズ感だったので、控え目に言って溺愛していた。
このまま去ったら心を病むんじゃ無いかと思う程に泣いてるラプリアに、エルムは絶対にまた遊びに来ると約束して落ち着いてもらった。
ラコッテ家を出て、双子の牛型サーヴァントに曳かせた牛車に乗って学園を目指す。
「ポチもタマも、俺の召使い用の奴隷として申請してあるから、向こうに着いたら専用の制服を着てもらうぞ」
「……ん?」
「どん、な?」
「タマはふりふりの可愛いメイド服。ポチはシャキッとかっこいい執事服だ。作っといたから」
本当は絹で作りたかったけどなぁ、と思うエルム。樹法でカバー出来るのは植物に関する事だけであり、残念ながら絹は動物性の繊維である。
植物性のセルロースを自由に操ってオーパーツ並の衣服を作れる癖に、変なところで凝り性な為に素材が気になってしまうエルム。元勇者の繊細な樹法で仕上げた綿素材は絹にも負けない手触りなのだが、納得してないらしい。
「二人とも、もうサーヴァントの操作はバッチリだな。こんな短期間でここまで仕上げたのは本当にすげぇよ。何かご褒美とか要るか? 欲しいものがあるなら考えるぞ?」
途中、綺麗に動いてる牛型サーヴァントを見たエルムは唐突に双子を褒めた。
双子がエルムのどこを好きになったかと言えば、魔法を教えてくれる事を除くと惜しみなく褒めてくれる点である。
褒めるとは、つまり認める事と同義であり、エルムは二人の努力を、結果を、実績を、事ある毎に褒めてくれる。認めてくれる。それは奴隷として売られてしまった二人にとって、掛け替えの無い事だった。
また褒められて嬉しくなった双子はエルムに抱き着き、何か要求して良いと言うので少し前に貰ったお菓子を要求した。
「飴ぇ? そんなんで良いのか? 水飴と飴玉、どっちが良い?」
「ん? みず、あめ?」
「なゃに、しょれ……」
水飴が分からないと言う二人に、エルムは魔法を駆使して水飴を生成し始めた。
まずは種から割り箸の様な木の棒を六本作り、その後に別の種で綿花を多めに作った後にセルロースを更に分解。
「
あっという間に水飴が完成し、それを二本の木の棒に絡ませたら二人にも持たせる。
「こうやって棒を動かして飴を練るんだ。ぶっちゃけどれだけ練っても味はそんなに変わらんけどな」
目の前で実践してみると、茶色っぽい水飴が練られた事で空気を含み、どんどんと白っぽくなっていく。その様子を見た双子は何やら面白い事なのだと感じて、すぐに真似して練り練りする。
その後に棒の先に絡まる水飴を口に含むと、なんとも言えない優しい甘みを感じてニコニコする。エルムは「あー可愛いんじゃぁ〜」と自慢のペットを可愛がる。
美味しいお菓子を貰えて、お菓子を食べただけで頭を撫でて貰える二人は更にニコニコする。優しい世界がそこには形成されていた。
「おっと、水飴に集中するのは良いけどサーヴァントの操作は忘れるなよ。他の馬車にぶつけでもしたらお仕置だからな?」
「んっ……!?」
「……きをつけ、るぅ」
二人ともお仕置は嫌だった。痛いのも苦しいのも、訓練なら頑張れる。しかし意味の無い苦痛は頑張り屋の双子でも耐える理由が無いのでひたすら辛いのだ。
頑張った先、我慢した先に求める物があるから努力で苦痛をねじ伏せてるのであって、耐性がある訳じゃ無かった。
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