入学試験。



 ダンジョンで稼ごうかと思ったら魔法の教師をして稼いでしまったエルム。


「んっふふ〜」


「…………きっも」


「おい! 流石に直接の罵倒は止めろよ!」


 仕事を終えた帰り道。ダンジョンの外まで送って行くと言うベルン達のパーティと共に地上を目指すエルム達。


 その道中、ベルンパーティのメンバーは確かに使えるようになった魔法をちまちまと試しながら、上機嫌で歩いていた。


 ベルンパーティは全員で四人居て、ベルン、ジェイド、マッペル、そして紅一点のルミオラ。ベルンとジェイドが燐法で、マッペルが泓法こうほう。紅一点ルミオラはなんとレア系統の霆法ていほうだ。


 燐法は火属性。泓法は水属性。霆法は雷属性である。見事にエレメント系の属性に固まったが、元々確率で言うとエレメント系が一番出やすいのだ。


 覚えたての燐法で手のひらから炎を生み出し、剣に纏わせて「魔法剣!」とはしゃぐベルンは子供にしか見えない。見た目は三十代なのに。


「まぁ、基礎でも冒険に使えそうな系統で良かったな。特に泓法なんて、ダンジョンの中でも水が好きに出せるんだから重宝するだろ?」


「ああ、本当に助かるよ。ありがとうエルム君」


「霆法も、ちょっと使うだけでもモンスターに隙を作れるものね!」


「実際に霆法は強力な属性だしなぁ。あんたは槍使いだっけ? モンスターをつついて電気流すだけでも結構利くだろうよ」


 地上に帰るまではベルンパーティが試し斬りのチャンスを最大限に使って護衛するので、エルム達はとても楽に帰れた。


「じゃ、また。もう会わないかも知れないけど」


「そんな事言うなよぉ! また魔法教えてくれよぉ!」


 地上に出た時点で別れを告げ、エルムはさっさと帰ろうとするがベルンがグズる。


「いや、暇だったら金次第で受けるけど。そもそも俺は魔法学校に入るから冒険者の仕事は頻繁に行けねぇんだよ」


「あ、そうなのか」


「だから単純に会う機会が無いと思うぞ。示し合わせて行くならまだしも」


 そこでベルン達と別れたエルムは、双子を連れて真っ直ぐ帰る。今回の仕事では殆ど資源を回収せず、魔法を教えることで直接現金を稼いだのでギルドに行く意味が薄かったのだ。


 そして予定通り試験の一日前に帰ったエルムは丸一日を休息に当て、その翌日に試験に臨んだ。


 魔法学校の試験は魔法の実技試験も存在するが、それは合否に影響しない。魔法を身に付ける為に通う学校なのに、魔法が使えないと合格出来ないのでは本末転倒だからだ。


 貴族や豪商など、教師を雇える家の子供はある程度魔法が使えるが、そうじゃ無い子供は魔法なんて使えないのが当たり前なのだ。


 なので試験で合否に影響するのは主に一般教養の筆記試験であり、要は「お前は魔法を学ぶ余裕があるんか?」と確かめる試験なのである。魔法とは専門知識で、その技術をしっかりと学ぶには時間が掛かる。


 その時間を作るには、既に計算や歴史などの一般教養を既にある程度学び終えてる事が重要であり、そこで躓く者には魔法なんて学ぶ資格は無いと言うのが魔法学校のスタンスだ。


 その上で魔法の実技試験を受け、どの程度使えるのかを確認してクラス分けを行う。そのための入学試験なので、魔法の腕が良くても一般教養が出来て無ければ入学出来ない。


「ここか」


 魔法学校は王都の中でも貴族が住まう区画に近い場所にあり、キースの家からは大分距離があった。


 エルムは一人で辻馬車に乗って試験会場である学校まで来て、かなり立派な建物を見上げて呟いた。


「これ、デザインが魔王城に似てね? これが許されるのになんで樹法が迫害されとんねん」


 見上げた建物のデザインは三百年前に乗り込んだ魔王城のリスペクトだと直ぐに分かるほど、所々に見覚えのある意匠がある。魔王の城をリスペクトするのが許されるのに、元勇者が使った系統が迫害されてる意味が分からなくてエルムは天を仰いだ。


「ある意味、俺に対する最高の煽りだわこれ」


 気を取り直して会場に入るエルム。魔法学校は高い壁に囲まれた城といった作りで、入口である正門では今日の試験を受ける者に対応する受付があった。


 そこで名前を伝えて手続きをする。なるべく樹法に付いては触れたく無いのだが、残念なことに手続きの時点で自身の系統を正直に申告する必要があった。


 昔から使われてる属性判別機まで用意されており、逃げられないと知ったエルムは正直に樹法と扇法の二系統持ちダブルだと伝えて手続きを進める。


「樹法ですか……」


 受け付けの女教師は案の定良い顔をしなかったが、それ以上は何も言わなかった。


 迫害されてるとは言っても、見付けたら即座に命を奪われたり捕まったりする程では無い。だが長男であっても樹法持ちだったら嫡子になれないくらいには強い迫害傾向にあるので、最初から系統がバレてしまったのはかなり痛いかもしれないと、エルムは深いため息を零しながら色々と諦めた。


 その後、案内されるままに試験会場の教室に入り、筆記試験が始まるまで大人しく待ってから大人しくテストを受けた。


(これでも三週目だしな。この程度のテストは余裕だわ)


 特に難しい問題も無く、エルムはほぼ満点を出した自信がある。


(流石に樹法持ちだからって理由で失格にはならないと思うが、もしそうなったら扇法の教師を雇って適当に学ぶか。その後はさっさと国を出よう)


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