便利なペット。



 エルムが王都に来てから、二ヶ月近い時間が経過していた。


 目的であった魔法学校入の学試験が目前に迫る中で、エルムは双子を連れた冒険者稼業でラストスパートに入っていた。


「良いぞ、人造モンスターサーヴァントの制御はまぁまぁ出来てる」


「んっ!」


「…………ぇへへ」


 エルムにとって双子は樹法を使うに当たっての隠れ蓑であり、仮にエルムが樹法を使ってるのを見られたとしても、「え、この子達の魔法ですよ?」としらばっくれる為に購入した奴隷である。


 今では可愛らしい自慢のペットとしての意味合いが強いが、それでも元は魔法の使用についてストレスを減らす為、そして見た目の上ではパーティを組んでるように見える為に勧誘が減るだろうと言う打算の元に二人を購入した。


 なので、エルムは二人に教える樹法の方向性を絞って教育していた。具体的に言うと人造モンスターを生み出して操る魔法である。


 エルムが特に好んで使ってる魔法だけあって教えるモチベーションも高く、元勇者から全力の教育を受けた二人は急速に魔法を覚えていった。


 使う魔法もいつまでも『人造モンスター』じゃ色気が無いと、二人のやる気を出す為に『サーヴァント』と名付け、あたかもカッコイイ魔法感を演出した。


「二人はまだ魔力量が少ないし、体も小さい。いや体の大きさは柔牙族なら当たり前だし仕方ないんだけど、自分の体で戦うにはまだ不安が残る。でもサーヴァントを上手く扱えれば、体の大きさなんて関係無いからな」


 流石にまだ触媒を自作出来る程の高みには至ってないが、充分に『魔法使い』を名乗っても良いレベルに達した双子は、エルムに連れられてダンジョンへ入り、モンスターを倒す事で魔力量の強化に勤しんでいる。


 当然、訓練による魔力量の増加も並行して行っているが、強化率が低い内はモンスターを倒した方が効率が良く、魔力量さえ増えれば大型のサーヴァントを使って荷物持ちポーターの仕事も十全に行える。


「ほれ、次のモンスターだぞ」


「……んっ!」


「たぉ、す」


 エルムが与えた触媒の種で双子が生み出したサーヴァントは、地球で言う所の柴犬サイズの獣型サーヴァントで、一人二匹ずつ操って森のゴブリンをボッコボコにしている。


(実力が上がれば樹法独自の確殺攻撃も出来るようになるんだろうけど、それは流石に望み過ぎかね)


 攻撃が成功した時点で相手の体内に毒や種を残して内側から殺す一撃必殺は、勇者並みの魔法技術があって初めて可能となる。エルムもいつかは二人をそのレベルまで育てたいと考えるが、流石に一朝一夕で身に付くものでは無い。


(よしよし、樹法はもう基礎レベルを超えたな。二人とも筋が良い。後は俺が知ってる基本の基本しか出来ない刃法と霊法も少し教えれば、雑用を任せる奴隷ペットとしては充分なスペックになるだろ)


 エルムは樹法特化の元勇者だが、基礎程度なら全部の系統を扱える。本当に基礎しか出来ないが、基礎すら出来てない初心者に教えるならば問題無い程度には魔法に精通している。


(ポチは樹法と刃法を組み合わせればハルニレで戦うスタイルで確立出来るだろうし、タマは霊法と組み合わせたサーヴァントでパワープレイとか行けそうだな。出来れば俺が欲しかった系統だが、まぁ良いだろ)


 樹法自体がそこそこレアな系統で、二系統持ちダブル自体もレアである。そこに刃法と霊法と言うレア中のレアを持った双子と言う、確率のジャックポットみたいな存在がポチとタマなのだ。


 二系統持ちレア樹法レア刃法・霊法激レアを持った双子激レア。借金のカタに売られた不運が信じられない程のガチャ運である。むしろそれだけ神引きしてるから親ガチャを外した可能性まで存在する。


(まぁ俺も、元勇者の転生って言う激レアを神引きしたとも言えるし、だから親ガチャ外したって思えば、案外俺たちは似た者同士なのかもな。こんなクソみたいな共通点は誰も喜ばんと思うが)


 ダンジョンの三層にて、強くなったゴブリンを狩らせながら指導するエルム。今は二人が居るのでウェルンはキースに返却していて、この場には三人しか居ない。


 もっとも、ダンジョンの三層はまだ底辺冒険者のボリュームゾーンでもあるので、少し気配を探ればその辺に同業者がチラホラと居るのだが。


(…………誰かに見られてるな。めんどくせぇ、さっさと浅層抜けてぇわ)


 周囲の人間が減れば、もっと大々的に樹法が使える。そうすればもっと多くを稼げる。つまり今のエルムは、ダンジョンを潜れば潜るほど実力が解放されるイベントキャラの様な仕様になっている。


(テレポートなんて便利なシステムが無い以上、大量の物資を運べる体制を整えないと深く潜れねぇもんな。…………入学試験も近いし、最悪はオッサンに金借りるかなぁ)


 魔法学校に入るため必要な入学金は金貨十枚。その後は年に金貨五枚の学費が掛かり、最短三年で卒業しても金貨二十枚が必要になる。初年度は入学金で賄われる為に金貨五枚の学費は必要ないので金貨二十枚だ。


 エルムはギリギリ金貨十枚稼ぎ終わってるのだが、それを払ってしまうと手持ちが消える。それでもラコッテ家の世話になってるなら家賃なども要らない為に何とかなるが、残念な事に魔法学校は全寮制。


 しかも、寮費は入学金とは別なので、そっちはそっちで稼がねばならないし、食費や雑費も自腹なのでそれも稼ぐ必要がある。


 貴族も多く通う為に使用人を入れる事は許されてるので、奴隷である双子を連れて行くのは問題無い。しかし、それなら双子分の生活費も必要になるので、今のままだと『入学は出来ても生活出来ない』状況なのだ。


「…………よし、明日からはもう少し下に潜るぞ。荷物を沢山持って貰うから覚悟しとけ?」


「んっ、わかた」


「がん、ばぅ……!」


 双子に明日の予定を伝えながら、エルムはハルニレを地面に突き刺す。双子の意識外で小さな悲鳴が聞こえたが、それを認識したのは悲鳴を上げた本人とエルムだけだった。


(クソうぜぇな。俺が今更バックアタックの弓程度で殺られる訳ねぇだろ)


 ここ数日、稼ぎが一気に増えたエルムを狙ったお行儀の良い冒険者が増えており、今も遠くからエルムを弓で狙っていた冒険者を遠隔で殺したところだ。


 エルム一行は全員子供であり、最年長のエルムでも十二歳。双子は十歳にも届かない幼子である。それが大金を稼いでるとなれば、当然そう言った行動に出る者も増える。


 利用して稼ごうにも、エルムは勧誘を全て断って居るので、こうして暗殺して稼ぎを奪うくらいしか手が無いのだが、その手の行動に出た者に対してエルムが容赦する事は一切無い。


 なにせ、前世は裏切りで殺されたのだ。もう二度と後ろから刺されたく無いエルムは過敏に反応し、少しでも怪しければその時点で殺す。酌量の余地があろうとも関係ない。


 どうせダンジョンの中では証拠なんて残りはしないのだから、木の槍で串刺しにした後、乾涸びて朽ち果て消えるまで植物の養分として絞り切ってから殺す。天日に干されたミミズの様な死体が地面に転がってても、誰も気付かないのだ。


(全集が植物に囲まれた場所で、樹法使いに勝てると思うなよクズ共が)


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