冒険者の格付け。
冒険者がダンジョンで稼ぐには、資源を持ち帰る必要がある。
その資源とは主に鉱物資源や食料などだが、モンスターの素材も持ち帰れば金になる。そして法具と呼ばれるドロップアイテムが見つかれば、一攫千金も夢では無い。
それらの資源がどの様にして産出するかと言えば、階層によって違う。例えばダンジョンの浅い階層は森林系エリアであるが、階層をくまなく探すと鉱物資源が木の実の様に樹木からぶら下がってたり、木の幹に埋まってたりする。
時にはゴーレム系の魔物素材が丸ごと鉱物資源として取れたり、通称『宝箱』と呼ばれるコンテナが樹木や壁にめり込む様にドロップしたり、その形は様々だ。
なので冒険者は稼ぎ方のテンプレートが作り難く、各々が自分の稼ぎ方と言うものを確立させて行かなければ、あっと言う間に業界からフェードアウトしてしまう。
「んー。やっぱ浅い階層で出る鉱物なんて銅とか鉄が精々だよなぁ。ファンタジー金属なんて深く潜らなきゃ出ないんだろうし、思ったより稼ぐの面倒な仕事だな、これ」
木の幹に埋まってた鉄鉱石を見付けたエルムは、力任せに引き抜いたソレをウェルンに背負わせた荷袋に詰め込んだ。駆け出し冒険者はこうやって金を稼ぐのが基本で、ここからプラスアルファ何か出来る物が上に抜けていくのだ。
より効率的的な採取方法を見付けても良いし、単純に腕を磨いて下層に降りても良い。ただ下層に行くなら相応の準備が必要なので、腕があっても誰彼構わず降りれる訳でも無いのだが。
(…………あー、樹法を自由に使えない世の中が思ったよりも面倒だな。いっそこの風潮をぶっ壊す方が楽じゃねぇか? どうすれば良い? 元凶であるブイズの子孫達をボコって公然の前で謝罪させるか?)
ネットでもある世界ならそれでも効果があっただろうが、情報の広がりが遅い文明では有効な手とは言えないだろう。しかしキレ気味のエルムは効果の程よりも相手をぶん殴りたいから考えてるだけだった。
「……おっ、トレントじゃん。やったぜラッキー」
途中、上層では格段に美味い獲物であるトレントを見付けたエルムは、そのまま樹法で掌握して殺した。植物属性のモンスターは基本的に、樹法使いには勝てないのだ。魔法で掌握されるだけで即死させられる。
「荷台を樹法で作って、それをウェルンに引かせれば持ち帰れるな。………………あれ? もしかして人造モンスターなんて使わなくても、荷台を樹法で操作すれば
人知れずショックを受けるエルム。もしこの気付きをもう少し早く得ていれば、稼ぎも違っていただろうに。
◆
「昇級ですね。おめでとうございます」
「あ、そっすか」
今日も今日とて回収して来た資源を冒険者ギルドで売却したエルム。
冒険者にはランクが存在するが、それは物語に良くある様な強さの指標では無く、稼ぎの指標である。
例えばドラゴンを倒せる様な冒険者が居たとして、しかし毎回ドラゴンをひき肉にして1ミリも売れない様な有様だった場合は当然、最低ランクの冒険者である。
逆に、モンスター討伐が苦手な冒険者でも、資源の回収が上手くて良く稼げるならば高ランクにも至れる仕組みになっている。
エルムは未だ低階層で仕事をする駆け出しながら、襲って来るモンスターに手こずらないので探索に時間が割ける。そうすると資源の回収に回せる時間が増えて、他の駆け出しに比べて多く稼げるのだ。
そのお陰で素早いランクアップを果たしたのだが、当の本人は大して嬉しそうじゃない。ランクアップを告げた受付嬢は不思議そうにするが、準備さえ整えば余裕で深層まで行ける自信があるエルムからすると、低ランク帯ならどのランクでも大差無いと考えていた。
(さっさと双子を育てて、より稼げる階層を目指せる様にしなきゃなぁ。いつまでも薄給じゃ、魔法学校の入学資金が貯まらねぇ)
冒険者のランクは全部で七つ。星の数で区分される。
駆け出しはゼロ。無星と呼ばれる、位が一つ上がる度に星も増える。
そして最後は五つの白い星から黒い一つ星になり、無星、白一、白二、白三、白四、白五、黒星の七ランクが全てになる。エルムは今回無星から一つ星に昇格したので、見習い扱いの駆け出しから一人前の新人扱いに変わる。
無星が駆け出し。一つ星で新人、または初心者。二つ星で一人前。三ツ星まで行くとベテラン冒険者。四つ星で歴戦の勇士扱いされ、五つ星だと英雄級。最後の黒星は完全なランク外。もちろん良い意味でのランク外だ。要するに人外扱いを受ける。
ランクアップする条件は二つあり、一つは一定期間にどれだけ稼げるかの平均値。もう一つは冒険者になってから稼いだ総金額。この二つを精査してランクが決定する。
ランクが上がると様々な特典があり、三つ星以上であれば登録した冒険者ギルドが所属する国のダンジョン都市に貴族用の門から出入り出来る。要は順番待ちしなくて良くなる。
四つ星以上なら、同じく所属国のダンジョン都市でランクに見合った割引を受けられ、五つ星は免税を初めとした様々な優遇があり、黒星まで行くと子爵相当の貴族待遇になる。実際に子爵以下が相手ならタメ口で会話しても許される程だ。
昇格の話をサラッと流したエルムは、さっさと売却金を受け取って踵を返す。しつこい勧誘が待っているがそれも捌いてすぐに帰宅。
ラコッテ家に帰れば、すぐに双子の様子を見に行く。魔法を教えても大丈夫な精神状態かを確認するのだ。
「ポチ、タマ。帰ったぞ」
「…………ん」
「………………ぉかぇ──」
一応、返事はしてくれるようになった双子を見てニッコリするエルム。しかし双子はペット扱いである。警戒していた猫が懐いて来たくらいの考えなので、もしかすると双子はエルムに心を許すべきでは無いのかもしれない。
声が小さ過ぎて後半が聞こえなかったタマの頭を撫で、「ん」しか言わなかったポチも「せめて挨拶はしろ。妹を見習え」とおでこをつつく。それすらも「ん」と返されてエルムか苦笑いした。
「あら、おかえりなさい」
「ただいまっすぅ〜。ガキ共は良い子にしてたかな?」
「えぇ、もちろん。まだあまり喋ってはくれないのだけど、とっても良い子ですよ」
ラプリアにも挨拶をしたエルムは、そのまま双子を連れて与えられた自室に向かう。二人はエルムと同じ部屋で寝ており、殆ど喋らないが言うことは聞くのだ。
「よし、聞け。二人はまだ俺の事を信用して無いと思うが、とりあえず聞いとけ」
二人の顔色や声のトーンから、そろそろ魔法を教えても大丈夫だろうと判断したエルムは、今日から魔法を教えて行く事にした。
なぜ奴隷商で教えた様に、二人にもさっさと教えなかったのかと言えば、それは二人がまだ幼いからだ。人間を信用しておらず、力の使い道が分からない子供に魔法を教えると、暴力に走る可能性が否定出来ない。
エルムとしてはそんな子供が居ても良いと思うが、下手するとその矛先がラコッテ家の二人に向かう可能性を考えると無茶が出来なかった。いくら性格がクズ寄りのエルムでも、恩人の人生をすり潰しても気にしない程じゃ無い。
すり潰して良いのは、すり潰し甲斐のあるゴミに限る。エルムの数少ないポリシーである。
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