仲間を買う。
「ソロ活だるっ……!」
エルムが冒険者となった日から、既に一週間が経ってる。
未だにラコッテ家のお世話になっているが、毎日ダンジョンへと赴いて着実に金を稼ぐエルム。
順調過ぎる冒険者稼業に思えるが、しかしエルムは思うように行かない仕事にイライラしていた。
その理由は、自分がソロである事に他ならない。
「なんで俺が足でまといに
冒険者は危険な仕事であり、リスクを分散する為にはパーティを組むのが常識である。そんな仕事の中で、腕が良くてソロ活動をしているエルムはとても目立っている。
そのため、メンバーに余裕があるパーティが毎日こぞってエルムを勧誘する様になった。それが凄まじいストレスであり、エルムはせっかく冒険者になったのに早速辞めようかと悩むほどだった。
(せっかく
樹法らしい樹法を使わずに試験をクリアし、今も基本的にハルニレの性能ゴリ押し剣術で仕事をしてるエルム。
人造モンスターを使えれば
ウェルンはエルムが樹法で使い魔に改造した存在だが、本物のウェルンが残した遺体を使って居るので馬にしか見えない。ほぼ丸ごとの毛皮で覆われた使い魔は動物にしか見えないので、樹法を使ってるとバレにくいのだ。
そこまでしてトラブルを回避してるのに、勧誘合戦がウザすぎて結局は努力が意味の無いものになりつつある現状、エルムはブチ切れる寸前だった。
「……………………ん?」
ふと、冒険者ギルドからの帰り道に気になる物を見つけたエルム。それは粗末な服を着て労働させられる奴隷であった。
「…………あぁ、そっか。俺が一人なのが問題なら、仲間を買えば良いのか」
思い立ったエルムは、行き先を変更して奴隷商を探し始めた。
◆
「ようこそおいでくださいました」
「邪魔するぜぃ。とりあえず、樹法持ちか霊法持ちの奴隷を見せてもらえるか?
三百年前では奴隷も凄惨な立場の『使い捨て』が基本だったが、今では扱いもある程度は改善されてる。そも、その手の事にあまり
それでも、扱いの良い奴隷は高く、未だに使い捨て同然にされる者は安い。稼ぎ始めで潤沢とは言えない手持ちのエルムは、大手を避けて小規模の奴隷商で買い物をしようと店を探した。
そうして見付けた店は借金奴隷をメインに扱う店らしいが、店の規模に見合った商売しかしてないのか店構えが絶妙に悪かった。
その分値段も相応だろうと選んだので、エルムとしてはむしろ望み通りの店だが、店主は久々の客だと精一杯の持て成しで張り切っている。
ボロ臭い店の中に案内され、応接室と言うにはあまりにも質素な部屋でお茶と菓子を出されるが、品質が不安なのでエルムは手を付けず、直ぐに自分の希望を伝えて用意を促した。
(樹法持ちは迫害傾向にある。つまり安く買える可能性があるし、樹法を使うのが俺じゃ無ければいざと言う時に損切り出来る。魔法も俺が教えれば荷物持ちくらい出来るだろうから、本命は樹法持ちだな。運が良ければ樹法持ちって
そんな事を考えながら待つと、用意が出来たと戻って来た店主に別室へ案内される。
そこには七人程の奴隷が居た。全員が樹法か霊法持ち、もしくは
「ん、獣人居るじゃん。双子かな? 可愛いじゃん」
全員をサッと眺めたエルムは、秒で順位を決めて最上位に入った双子の獣人に近寄る。十二歳でしかないエルムよりも大分幼く、どう見ても年齢が一桁の子供だった。
「借金奴隷を扱ってんじゃ無かったか?」
「この二人は借金のカタに売られたそうです」
「なるほどねぇ」
魔法はエルムが自分が教えられるので、購入する奴隷の質については気にしてない。むしろ質が悪い方が安いので、買い手が付きにくい子供の方がありがたいのだった。
最初から魔法を使える奴隷なんて存在は激レアで、当然ながら相応に値が張る。魔法とは他の追随を許さない程の専門職であり、本来なら奴隷落ちなんて有り得ないのだから。
エルムとしても、汗臭いオッサンや必死に媚びてくる女奴隷よりも、見た目が可愛い獣人の子供が買えるならそれで良い。質なんて自分でいくらでも教育出来るし、傍に置いてストレスが無いことを優先したかった。
ちなみに、ここで「こんなに小さいのに可哀想だな。助けてあげよう」なんて考えは微塵も無いのがエルムクオリティである。
「で、二人の系統は?」
「なんと、どちらも
「……………………マジ?」
思いっきり予想を外したエルムは若干焦る。もう既に、この場に居る他の奴隷なんて要らないと思ってるので、値段が高いと困るのだった。
樹法を持ってると言う事実と相殺されて安くなる事を期待してたが、『どっちも
「…………ちなみに、いくら?」
「こちら、バラ売りしようとすると抵抗しますので、抱き合わせが前提でございます。二人合わせてお値段が、金貨で五十……」
(…………思ったより安い。が、高い。金貨なんて持ってねぇぞ俺)
思考をぶん回して、どうにか双子を手に入れようとするエルム。時間にして五秒ほどだったが、元勇者が全力で脳味噌をフル回転させた五秒である。
「よし、店主。ちょっと相談したいんだが、聞いてくれるか? そっちに損はさせないと約束する」
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