試験。
さて、三日後の昼前である。
エルムは受付嬢に言われた通りの時間に、冒険者ギルドに来ていた。
「あそこかな?」
見ると、十五歳から二十歳程の年齢層で纏まってる団体を発見して、そちらに向かうエルム。装備も明らかに新品だったり、逆に誰かに譲って貰った整備済みの中古品だったりと、中々に初々しい出で立ちで統一されてる。
しかし、エルムが初々しいと思ってほっこりしてても、相手からするとやけに整った装備の子供にしか見えないわけで。
「なんだぁ、このガキ」
「おい、こっちは冒険者になる為の試験を受ける集まりだぞ。依頼なら受付に行け」
当然、絡まれる。
「あ、そう言う面倒なの要らないから」
だがエルムもそんなテンプレは欲してない。さっさと試験を終わらせて、ハルニレの試し斬りがしたいのだ。
「なんだこのガキ、礼儀も知らねぇのか?」
「自分が知らない事を相手に求めんなよ。恥ずかしいぜオッサン」
「なんだとテメェ……?」
テンプレは要らない。なのに癖で敵対的な相手は秒で煽ってしまうエルム。このままではテンプレ突入待った無しだが、幸いながら運が良かった。
「集まってますね。では試験に向かいます。参加者は着いてくる様に」
ちょうど二人の試験官が来て、運良くトラブルは回避された。今この場で問題を起こし、その場で失格にされては堪らない。絡んで来た冒険者候補たちも、渋々引き下がる。
なお、誰に取って『運が良かった』のかは見る人による。あと、絡んで来た冒険者候補達は少年か青年であり、断じてオッサンでは無かった。
(どこにあんのかと思ったら、都市の中にあるのか。王都の場所は変わってないっぽいし、ダンジョンに合わせて
ダンジョンとは魔王の呪いである。プリムラがトドメを刺した瞬間に発動し、世界その物に展開された超大規模術式。エルムが漁った文献では、魔王の死体がバラバラに弾けて、その肉片が落ちた場所にダンジョンが生まれたらしい。
プリムラは魔王の死と同時に絶命したので、その瞬間を見ていない。だが六勇者の五人はしっかりと見ていたのだろう。それが後世に伝わったのだとエルムは納得した。
(まぁ偶然なんだろうけど、一々都市の外に出るのは面倒だし、王都の中にダンジョンを仕込んだ魔王グッジョブって感じだよな)
王都の中を移動し、殆ど中央に位置する場所に到着した。エルムの記憶が正しければ元は大通りの交差する広場だったはずだが、今ではすっかりダンジョン専用の場所として整備されていた。
(ダンジョンは壁で囲まれてるのか。その辺は詳しくないけど、スタンピードとか起こすタイプなのか? 外からじゃなくて、内側からの侵入を防ぐ防壁? いや、資格の無い奴をダンジョンに入らない様にする目的もあるのか。雑魚が入って無駄死にすると、魔王復活が早まるからな)
考察を終えたエルムはそのまま集団の最後尾について行って、ダンジョンを囲う壁の中に入る。
(ふーん……。洞窟型、城型、魔法陣型、色々と想像してたが、穴型か。グローリーホールとまでは行かないが、巨大な穴を螺旋階段で降りて入るタイプのダンジョンか。ラノベで言うとダンジョンに出会いを求める白兎の世界にあるタイプか)
ダンジョンを囲う壁には二箇所の門が有り、少なくない数の門番が居て中々に厳重な警戒をしてる。そこから冒険者ギルドの職員として試験官が手続きをして中に入れば、地面に大穴が空いてるのが見えた。
壁の中は目測で大体80メートル程か。穴は直径30メートルは有り、ほぼ真円の穴は壁に螺旋階段が有る。そこから下に降りるとダンジョンに入れる形なのだろう。
試験受講者達は初めて見るダンジョンに浮き足立って居て、試験官に怒られない程度に近寄って穴の中を確認してる。
(中央は吹き抜けで、落ちたら助からないだろう深さがある。螺旋階段は幅が3メートルくらいか? パーティで降りてもストレス無く使える広い階段だ)
エルムは恐ろしい速度で情報を吸収し、精査する。何故か文献などから得られるダンジョンの情報は不親切な物が多く、詳細を調べ切る事が出来なかったのだ。
(今も潜って行く冒険者達は
行きは攻略必須だが帰りは魔法陣で一気に、なんて機能は今の所確認出来ないので、エルムは行きも帰りも自力で行うタイプのダンジョンだと判断する。
(階段を降りた先がエントランス的な場所で、そこからテレポート出来る可能性はまだあるけど、魔王の性格を加味すると自力で帰るんだろうな。…………あれ? だったら俺も
まだ試験も始まってないのに先々の事を考えるエルム。
ダンジョンで稼ぐと言う事は、つまり大量の資源をダンジョンから持ち帰らなければならない。
この世界にはアイテムボックスやインベントリなんて便利な魔法は存在せず、その手のアイテムも聞いた事が無かった。
(うーん、面倒だな。駆け出しの魔法使いでも霊法の系統持ちならバフを使って重い荷物も運べるだろうけど…………)
そんな事を悩んでる内に、一行は螺旋階段を降りてダンジョンに入る。
降りた先では真円のエントランスになっていて、壁には幾つもの横穴が空いている。冒険者の殆どはその穴を歩いて進み、または大荷物を持って穴から帰って来るのが伺えた。
「はい、注目」
試験官が手を叩いて受講者を集める。
「ここはダンジョンの
始まった説明を素直に聞く受講者達。もちろんエルムもその一人だ。ダンジョンに関する情報は不自然な程に流通しておらず、この場で詳しく知れるならエルムとしても願ったりだった。
「お前たちは今から、私と共にダンジョンの一層に向かってモンスターと戦ってもらう。当然、相応の結果を出さねば失格だ。ダンジョンで多くの人間が死ねば、
その後もいくつか注意点を説明され、五分も使って情報を詰め込まれた一行はやっとダンジョン一層へと向かう。
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