テンプレ展開は煽りと共に。
当主の執務室は、場合によっては応接室の側面も持つ為にかなり広く、そしてソファーやローテーブルも相応の品質で
そんな部屋にはエルム以外のエアライドが勢揃いしており、蹴破られた扉の音で大半が驚いてエルムを見た。
「おぉ〜、なに、全員揃ってんじゃん。って事は俺が最後? なんだ良く分かってんじゃん。やっぱ格下は先に待っとくのが礼儀だよな。出迎えご苦労」
エルムは紆余曲折あった二度目の人生で性格がかなり攻撃的になってる為、記憶を取り戻してからは嫌いな相手に対して一切敬う事をしない。何を言われても煽るし、煽られたら三十倍くらいにして煽り返すし、なんなら相手が口を開く前から煽る。
殴られる前に殴れ。それが救世勇者のジャスティスである。ちなみにエルムの人生で一番酷い煽りが飛び交ったのはプリムラ時代で魔王戦の時であり、お互いにゲラゲラ笑いながら煽り合戦をしていた。
当主は執務机に、残りはソファーに座ったり窓の傍で外を眺めてたりと、思い思いに過ごしている。エアライドの血縁以外では家令のみが同席しており、あからさまに重大事を話し合うような席になってる。
「エルムぅぅう…………!」
そんな中で、ソファーに座っていた金髪の青年が怒りながら立ち上がってエルムを睨む。
「おお、長男じゃん。なに、どしたのその顔。随分カッコよくなってんじゃん?」
「テメェのせいだろがぁッッ!」
青筋を限界まで立てた男が怒声を上げる。その男はエアライド家の長男であり、嫡子でり、つまりは次期当主だ。
その顔は一部が痛々しく真っ青に染まり、所々が腫れ上がってる。勿論、犯人はエルムだ。
前世の記憶が薄かった幼少期に死ぬほどイジメを受けた為、今でも同じ様な対応を続ける兄弟達には痛烈な仕返しをしているのだ。当然ながら物理的な話であり、精神的な話でもあり、要するにボッコボコにしていた。
今世のエルムは前世の記憶と魔法系統を引き継いでおり、流石に魔力は引き継げなかったがそんな物は訓練でどうにでもなる。つまり技術関連は殆ど救世の勇者スペックなのだ。基本的には誰が相手でも負けないし、精神的な強さも魔王討伐を経験したエルムは実質勇者スペックである。高々ちょっと位の高い貴族の嫡子程度は簡単にあしらえる。
「ふむ、ガラドの怪我に付いて聞くつもりだったが、その様子を見るに聞くまでも無いようだな」
怒り過ぎて憤死するんじゃ無いかと思うほどに煽り散らされる長男を尻目に、エルムを呼び出した当主は無駄に雰囲気を出しながら口を開いた。
「お、なに? 脳が下半身に詰まってると噂のご当主様が
呼吸をするよりも滑らかに煽りが口に出るエルムに、現当主に相応しい威厳を醸し出す男が鋭い視線を投げる。実際にギンギンか否かは机に隠れて誰も確認出来ない。
現当主は見た目だけならば威厳たっぷりのやり手貴族といった風体で、節制とは無縁の生活にも関わらず引き締まった体である。しかしその立派なスタイルを維持する理由が下半身を有効活用する為である事はこの場の誰もが知っている。末の妹さえ知っている。
筋肉質であった方が女性受けが良いし、何より筋肉があれば無茶な体勢でも色々出来るのだ。
「エルム、お前の奔放な性格を
「ふーん、こっちはお前の奔放な下半身を静観して捨て置いてやってんだけどな。長男のツラがちょっと歪むより、お家騒動の種をバラ撒く方が罪重くね? 頭大丈夫か? もしかしてギンギンだった息子さん萎んじゃった?」
一を言えば十を返すのがエルム流だった。もしかしたら百だったかも知れない。
当主は内心で苦虫をグロス単位で噛み潰した様な顔をしながら、しかし当主としての威厳を損なわずに真顔で対応する。
「ガラドは我がエアライドを継ぐ尊き子である。害する事はまかりならん」
「その尊さを下半身で安売りしまくってる男の言うことは説得力あるなぁ。もしかして供給過多になると需要が下がる経済の基本をご存知ない? 尊いって言葉の意味ちゃんと理解してる? 児童用の教本でも持って来てやろうか?」
「今回の事は、
「多分
「下賎の者に流されるほど、我がエアライドの血は安くない。暴力による流血など、以ての外だ!」
「もしかしてその下賎の者に流れてる血の半分がエアライドなのご存知ない? 自分が伯爵家を一番貶める発言してる自覚ある? もしかして狩猟民族の血が流れてる?
「んぷひゅっ……!」
とうとう家令が吹き出した。当主は睨むが、家令は先代からこの家を支える超有能な人材である為、多少の無礼では罰する事も出来ない。
「…………エルム、お前をエアライド家から追放する」
机の上で手を組み、まるで汎用人型決戦兵器を運用する組織のグラサンを彷彿とさせる雰囲気で、当主が言い放った。
「あ? そもそも俺はこの家に帰属してねぇから追放もクソもねぇだろ。もしかして自分で処理した俺の戸籍も読めないくらい
そして遂に直接的な暴言も吹き出した。エルム的にはかなり我慢した方である。
「俺の名はエルム・プランターだろうがよぉ。最初からエアライドじゃねぇだろボケが。もしかしてガキ作り過ぎて誰がどの名前だか分からなくなったのか? それともマジで字が読めない? まだ文字も読めないご当ちゅちゃんのために書類読んであげまちゅかぁ〜〜〜?」
顎をしゃくらせながらの盛大な煽りである。恐らくエルム自身もこの顔で煽られたら秒でキレるだろう渾身の出来だ。惜しむらくはこの顔を保存する技術がこの世界に無いことか。唇のラインがかなりの芸術点を稼いでいる。是非とも写真に収めたい完成度だ。
「はっ! そんなに悔しそうにすんなって! 今更何を言ったところでお前の追放はもう決まってんだよバーカ! テメェの良く回る口でも、どうにもならねぇだろ! はははははっ!」
途中、良い気になった長男ガラドが鬼の首を取ったように笑うが、エルムはキョトンとした顔で見返した。あまりにもトンチンカンな事を言われたので、思考にバグが発生したのだ。
「………………ん? えーと、俺いま、そもそもエアライドじゃないから追放もクソも無いって、ちゃんと口に出てたよな? 心で思っただけで黙ってた訳じゃないよな?」
あまりにも発言がアレ過ぎて、逆に不安になるエルム。この時、逆でも何でもなく、本当に不安になっている。…………一瞬だけ。
「も、もしかして長男ちゃん、もしかしてだけどさ? あの、今の会話から『俺は最初から追放扱いを受けてるだろ』って言う、そんな簡単な言外のやり取りすら、分からなかったのか? 大丈夫か? 一応お前って、次期当主用の高等教育受けてたよな? 教育されてその程度なのか? 流石の俺もそれはちょっと心配になる無能さだぞ。本当に大丈夫なのか? 脳の病気じゃ無いよな? いや、むしろ病気であってくれ。頼む。もし素でその知能だったなら、可哀想過ぎて涙が枯れる自信がある。教育費が無駄だしお前に教えてる教師の時間が無駄過ぎて泣けてくる…………!」
今日一番の長文煽りコメントが炸裂して長男の顔色は真紅に染まる。
「大丈夫なのか長男ちゃん!? 顔が真っ赤だぞ!? 口紅でも塗ったのか!? それは唇に塗る物であって顔に塗りたくる物じゃ無いって
そこでエルムは一度、「あぁ、そうか……」みたいな『完全に納得した顔』を披露して、言う。
「現実を見たから、顔全体に
煽る煽る。煽られ過ぎて長男はもう、呼吸すらマトモに出来てない。
そもそも紅なんて塗ってないのに、ここまで一気に煽れるのは、もはや才能とさえ言える。こんな男が兄弟に産まれた長男は不幸かも知れないが、しかしその責任はやっぱり当主の下半身にあるのでエルムは悪くない。
ちなみに他の兄弟は既に、エルムに攻撃すると凄まじい反撃が来ると理解してるので見て見ぬふりだ。そしてエルムより年下の五男、六男、四女、五女はエルムに対してそこまで大きな
「とまぁ茶番は置いといて」
もはやエルムにとってオモチャである長男を煽り散らしたら、当主向き直って会話のやり直しをする。
「無能であるご当主ちゃんと俺の間に言語的な齟齬がある可能性を一応考慮して確認するんだが、要は屋敷から出てけって事だよな? まさか本当にエアライドの名を捨てろーとかってバカ過ぎる意味じゃ無いよな? もしそうなら無能過ぎて逆に恥ずかしいしコッチから縁切って二度と近寄りたくないんだが」
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