第57話.決着

「……かはっ」


 ルーファスは、肺の空気を全部吐き出しながら、盛大に後ろに吹き飛ばされる。


 それを、先ほどの青白い光球が追っていき、ルーファスの左大腿部だいたいぶと右肩に命中する。


 ガッ、ゴッという音を立てて、ルーファスに命中した光球は、一度大きく離れると、再び戻って来てルーファスを襲う。


 なんとか立っていたルーファスも、それでひざをついた。


「なかなか楽しませてもらったが、もう充分じゃろう」


 勝ちほこるアルフスは、ゆっくりと膝をついたルーファスのもとへと進む。


 ――


 時を同じくして、アルフレッドとリリアーナも追いめられていた。


「きゃはっ。ねばるわねぇ、でも、これならどうかしら?」


 パチン


 セーレが指を鳴らした。


 縦横無尽じゅうおうむじんに飛び回る無数むすうの炎の矢が、一瞬ですべてき消える。


 そして、次の瞬間、二人の周りには一斉に炎の矢が出現した。四方八方しほうはっぽうからの同時攻撃。けきれるものでは無い。


「きゃあ!」


 リリアーナが悲鳴を上げる。何本もの矢がリリアーナに直撃し、その身体を焼いた。


 ぼろぼろになったリリアーナは、ついにその場に倒れ込む。


「リリィ!」


 悲痛なアルフレッドの叫び声が重なる。だが、そんなことはおかまいなしに炎の矢は容赦ようしゃなくリリアーナに降り注いだ。


 アルフレッドは、咄嗟とっさにリリアーナにおおいかぶさった。


「ぐああああぁああああああ」


 アルフレッドの背中に、何本もの炎の矢が降り注ぐ。それは、着弾と同時に小爆発を起こしアルフレッドの背中を蹂躙じゅうりんした。


 魔力活性により強化された肉体でも防ぎきれない。


 それでも、痛みに耐えながら、リリアーナをその腕に抱きしめた。


「アル……ダメ……逃げて。アルが死んじゃう」


 アルフレッドはリリアーナを抱きしめながら首を振った。


「きゃはははは。もう、死んじゃえ!」


 セーレは指をパチンと鳴らした。


 その瞬間、空中にあったすべての炎の矢がアルフレッド達の頭上に現れる。その数は十数本。


「リリィ……」


 アルフレッドは全身を強張こわばらせて、リリアーナを守るようにその腕に力を込めた。


 十数本の炎の矢が二人に降り注ぐ。


 二人はかたく目を閉じた。


 もうダメだ。そう思った瞬間。


 ちゅどどどどどどーん。という轟音ごうおんが頭上で響き渡る。だが、アルフレッドをおそ衝撃しょうげきはいつまでってもおとずれなかった。


「やばっ」


 セーレが引きつった声をあげる。


「アル、リリィ。大丈夫?」


 駆け寄ってきたのは、エミリアだった。


「今、治療するわね」


 暖かい光がアルフレッドとリリアーナを包み込む。エミリアの治癒魔法だ。


「どうしてエミリアさんが?」


 少しだけ回復したリリアーナが聞いた。たしか、リカードたちと魔族の対応に向かったのではなかったか?


「その話は後にしましょう。今は、あの魔族を」


 エミリアは治癒魔法を行使しながらセーレの方へと視線を送る。


「これは、旗色はたいろが悪そうね」


 そう言ってセーレは逃げ出そうと背を向ける。


「逃がさない」


 そう言って姿を現したのは、魔術師のココだ。杖をセーレに向ける。


 ココの周囲には無数の氷の矢が出現する。


「フリーズアロー」


 力ある言葉が解き放たれると、三十本を超える氷の矢が、一斉にセーレに向かって放たれた。


 それが当たる瞬間、セーレの姿は空気に溶け込むように消えた。


「逃げられた……あの魔族、空間を渡るみたいね」


 念のため周囲を警戒しているが、もう周囲にはセーレの気配は無かった。


「そうだ、ルーファスさんは?」


 アルフレッドは、ルーファスを探す。


 まず目に映ったのは、上下真っ二つに切り裂かれたアルフスの死体。それが、血だまりの中に無造作むぞうさに転がっていた。


「あっちは、一瞬でダニーが片付けたみたいね」


 ココが、そちらを見もしないで言った。その目が見ているのはセーレの消えた方角。まだ、警戒けいかいを解いていない。


「ルーファスも無事よ」


 治療をあらかた終えたエミリアが、そちらに視線を向けながら立ち上がった。


 エミリアの視線を追うと、リカードに支えられて回復薬を飲んでいるルーファスの姿があった。


「よかった……」


 アルフレッドは、力が抜けたようにその場に座り込んだ。

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