第56話.苦戦

「リリィ、とにかく動き続けるんだ」


 アルフレッドは、そう言うとゆかった。走りながら連射式魔銃インサニアの銃口をセーレに向ける。


 その瞬間、セーレも動き出す。炎の矢をアルフレッドの方へと飛ばして、自分はリリアーナへと向かう。


 アルフレッドが炎の矢をかわして、再びセーレに銃口を向けようとした時には、セーレはリリアーナと剣をまじえていた。しかも、アルフレッドとセーレの斜線上しゃせんじょうにはリリアーナが入るように、たくみな位置取いちどりをしている。


 そしてセーレはパチンと指を鳴らす。


 その瞬間、リリアーナの背後に炎の矢が出現した。


「リリィ!」


 アルフレッドの声と同時にリリアーナは横に跳ぶ。


 しかし遅い。


 炎の矢の1本が背中に命中し、小さな爆発を起こす。


「きゃあぁぁ」


「リリィ!」


 リリアーナは、吹き飛ばされながらもなんとか体勢たいせいを整えつつセーレから距離を取った。


 彼女の背中は服がげ、少し皮膚ひふが焼けただれている。かなりの痛みだろうが、そんなことは言っていられない。


 少しでも隙を見せれば、セーレにたたみかけられる。


 セーレは、さらに数本の炎の矢を出現させた。


 それを、リリアーナに向けて放つ。まっすぐに向かう炎の矢は、リリアーナがかわそうと動いた瞬間、パチンという音と共に消える。


 直後に、リリアーナの前後、そしてアルフレッドの左右に炎の矢が出現する。慌てて回避する二人。


 しかし、その間にセーレはさらに炎の矢を出現させるべく左手をかざした。


「させるかぁ!」


 アルフレッドは連射式魔銃インサニアの引き金を引く。


 しかし、セーレは余裕よゆうの表情で弾丸をかわすと、目の前に炎の矢を出現させた。その炎の矢もはなたれる。


 指が鳴らされるたびに、何本もの炎の矢が前後左右からアルフレッドとリリアーナを襲う。


 その間にも、セーレは炎の矢をどんどん追加していく。


 いまや、無数の炎の矢がドーム状の部屋を飛び回るという状態だ。そのうえで、セーレが指を鳴らすたびに複数の炎の矢が、瞬間移動する。


 もうけきれない。


 数が増えていくにしたがって、アルフレッドもリリアーナもかわしきれなくて被弾ひだんする回数が増える。


 けた先にも炎の矢が現れるのだ。


「きゃはははは。まだまだ増えるわよぉ」


 嬉しそうに高らかな笑い声を響かせるセーレ。


 その視線の先には、満身創痍まんしんそういと言ってもいい二人が居る。セーレの目が、口元が愉悦ゆえつゆがんだ。


 ――


 その頃、ルーファスも苦戦していた。


 筋肉の塊のようになったアルフスだが、そのスピードはルーファスに引けを取らない。


 ルーファスの攻撃を、その巨大な体躯たいくに似合わない身のこなしでかわしては反撃する。


 武器は無く無手むてなのだが、その筋肉から繰り出される攻撃はあなどれない。一撃でも、いいのをもらってしまえば致命傷ちめいしょうにもなりかねない破壊力はかいりょくがあった。


 それでも、ルーファスのすばやい槍捌やりさばきは、何度かアルフスをとらえていた。その皮膚を、肉を切り裂き血しぶきが舞う。


 だが、分厚い筋肉のよろいはばまれて、致命傷には程遠ほどとおい。むしろ、攻撃をくらうこと前提ぜんていで、自身じしんの攻撃を優先ゆうせんしているかのようだった。


 短槍たんそうきを最小限の動きでかわすアルフス。穂先ほさきが浅く皮膚を切り裂くが、まったくかいさずカウンターのこぶしを突き出す。


 それに対し、ルーファスは身体をひねってかわすが、それを追撃するようにアルフスの左足がせまる。


 ルーファスはかわしきれないと判断し、短槍のつかでそのりを防ごうとする。


 アルフスの左足が、つかの上から叩き込まれ、その威力にルーファスの身体はちゅうに投げ出される。


 その隙を逃さず、アルフスはルーファスを追った。


 落下してくるルーファスに合わせて、アルフスは右腕を突き出す。そこに、空中でたくみに体勢たいせいを立て直したルーファスが槍の穂先を合わせる。


 アルフスは、拳を引っ込めると、左回し蹴りに切り替えた。


 左足が届く直前に着地したルーファスは、着地と同時に右に跳んでアルフスの回し蹴りをかわす。


 かわしながら短槍を横に払うが、それはアルフスの左足を浅く斬りつけただけだった。


「ほっほっほ。やりおるのぉ」


「くっ」


 余裕の表情で、戦いを楽しんでいるかのようにも見えるアルフスと違い、ルーファスには余裕が無い。


 対照的な二人。


 怒りと焦燥しょうそうられるルーファスは、持てるスピードを限界まで発揮して、アルフスを攻め続ける。


「ほっほっほ。いいのぉ。その怒り」


 アルフスは攻撃にさらされながらも、その笑みは崩さない。


「じゃが、少し飽きて来たわい。そろそろ終わりにしようかのぉ?」


 アルフスは、ニヤリと笑う。


 その直後、彼の目の前には青白い光球こうきゅうが2つ出現する。その光球は、ルーファスめがけて飛んでいった。


 ルーファスは、2つの光球を危なげなくかわすと、アルフスに接近し短槍を繰り出す。アルフスは、筋肉の鎧をまとった身体をすばやく動かしながら、槍の穂先を躱した。


 そして、またもやニヤリと笑う。


 その瞬間、ルーファスの背中に衝撃しょうげきが走る。


「ぐうぅ」


 ルーファスは背中の痛みにうめき声をあげた。


 ルーファスには分からなかったが、先ほどアルフスが生み出した青白い光球が背中に直撃したのだ。


「隙ありじゃな」


 一瞬だけ背中に意識を奪われたルーファスに、アルフスの右回し蹴りが炸裂さくれつする。


 ルーファスは、なんとか腕でガードするが、その威力に吹き飛ばされた。


「ぐあああぁ」


 ガードの上からだが、その蹴りは重くルーファスは痛みに顔をしかめた。それでも、アルフスの追撃に備えて体勢を立て直して着地する。


 だが、着地と同時にさっきの青白い光球がルーファスを襲う。


「おわっ」


 慌ててけるルーファス。


「こっちじゃ」


 避けた先にはアルフスが拳を振り上げていた。剛腕ごうわんが繰り出される。ガードが間に合わない。


 アルフスの拳がルーファスの腹にめり込んだ。

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