第52話.魔族

 アルフレッドは、真紅の宝石をポケットにしまうと、老人を追って走りだした。


「リリィ。これでルーファスさんを」


 途中でリリアーナに回復薬かいふくやくを投げ渡す。


 それを受け取ったリリアーナは、無言で頷いた。


 ルーファスの方をチラッと見るが、さっていた剣を抜いて傷口を抑えている。


 まだ意識があるところを見ると、咄嗟とっさ急所きゅうしょは外したのかもしれない。


 そこまで見届けると、アルフレッドは部屋を出て走り出した。すぐに、先ほどゴーレムと戦ったドーム状の部屋とへいたる。


 そこに、カテリーナを担いだ老人の姿を見つけた。


 カテリーナを担いでいるためか、その動きはアルフレッドよりも遅い。


 アルフレッドは老人に連射式魔銃インサニアを向けると引き金を引いた。


 魔術師殺しの弾丸モルスマギが老人に迫る。


 老人は回避しようとするが、カテリーナを抱えている分、動きが鈍い。けきれないで、魔術師殺しの弾丸モルスマギが老人の脇腹わきばらをかすめる。


 それで老人の動きは目に見えてにぶくなった。


 アルフレッドは二発目を撃とうと引き金を引くが、カチッという音が響くだけだった。


 またも、弾切れだった。


「ちっ。肝心な時に」


 アルフレッドは舌打したうちちして、走りながら弾倉マガジンを交換する。


 そして、老人に向けて発砲はっぽうした。


 老人が振り返る。


 今度は、しっかりと弾丸を回避した。そして、諦めたのか、老人はその場で足を止めた。


 アルフレッドは、銃口を老人に固定したまま、じりじりと距離を詰める。


「貴様は何者だ?」


 アルフレッドは老人に連射式魔銃インサニア銃口じゅうこうを向けたまま、もう一度聞く。


「それからカルロスさんをどうした?」


 実際は聞かなくてもなんとなく予想はついている。だが、アルフレッドはそれを認めたくは無かった。


 出来れば間違まちがいであってほしいと強く願う。


「わしが何者かは、言わんでも分かるじゃろう」


 老人は意地いじの悪い笑みを浮かべる。


「……魔族まぞく?」


「いかにも」


 アルフレッドの答えに、老人は鷹揚おうように頷いた。


 何度も、あの湖の遺跡に襲撃しゅうげきがあったのだ。今の状況と魔族を結びつけるのは、そう難しくない。


 しかも、他人に成り代わるなんてことが出来る者はそうそういない。だから、カルロスから姿が変わった時にある程度は予想できていた。


 それでも、目の前の老人に魔族だと肯定されるまでは、予想が間違っていて欲しいと願っていたのだ。


 そして、カルロスの姿をしていたのが魔族だと確定したのであれば、本物のカルロスがどうなったかは想像がつく。


 カルロスは一度、魔族に捕まっている。


 おそらく、その時に……。


 その後のカルロスに不信な点は無かった。無かったはずだ。


「そうそう、あのカルロスという男のことじゃったな。わしの能力はな、った相手の容姿ようし記憶きおくを手に入れるというものなんじゃ」


「まさか、カルロスさんを……?」


「そのまさかじゃ。あやつは、わしがってやったわい」


 そう言って老人は愉悦ゆえつのこもった笑いを口に浮かべた。


「うああぁああああぁぁぁ」


 アルフレッドは、叫びながら老人に向かって、連射式魔銃(インサニア)の引き金を引いた。


 タァーンという音とともに魔術師殺しの弾丸モルスマギが老人へと突き進む。だが、今度は余裕でかわされた。


「ほっほっほっ。その怒り、憎しみはなかなか良いのう」


 なおも怒りに任せて2発ほど発砲したアルフレッドだが、そんなやけくそが当たるほど甘くは無い。


「いいのう、いいのう。じゃが、そう焦るでない。アル」


「くっ」


 名前を呼ばれたことに、さらに怒りを覚える。その呼び方は、カルロスと同じ響きをもっていた。それが、アルフレッドの心を逆撫さかなでする。


「そういえば、自己紹介がまだじゃったな。わしの名はアルフス。それがお主を殺す者の名じゃ」


 そう言うと、アルフスはうやゆやしくアルフレッドに一礼する。


 頭をあげたアルフスの顔には不敵な笑みが浮かぶ。そして、その周囲には十を超える火球が出現していた。


「さっきは、やってくれたのう。さすがは魔封石マキナタイトの銃弾じゃな。調子が戻るまでに、こんなに時間がかかってしまったわい。じゃが、今度はこっちの番じゃな」


 アルフスが言い終わると、十を超える火球は一斉にアルフレッドに殺到さっとうした。


 アルフレッドは慌てて地を蹴る。次々と飛来する火球は、アルフレッドの背後で盛大に爆発していく。


 その威力は、カルロスの魔法を軽く凌駕りょうがしていた。それどころか、イーリスの使った焔弾ほむらだまよりも威力は高いかもしれない。


「ほっほっほっ。頑張るのう」


 アルフスは、なぜか嬉しそうに目を細めて、け続けるアルフレッドをながめている。そして、右手を天に向かって突き上げた。


「これならどうじゃ?」


 すると、突き上げた右手の上に巨大な炎の槍が出現する。


 その長さは5メートルを超えるほどで、ここでゴーレムと戦った時に見せたカルロスのよりもはるかに大きい。


 その巨大な炎の槍がアルフレッドめがけて突き進む。


「ぐあああぁぁああ」


 直撃こそけたものの、フレイムランスは床に着弾ちゃくだんすると大爆発を起こし、爆風ばくふう熱気ねっきを周囲に振りまいた。アルフレッドはそれに巻き込まれたのだ。


「さすがに少しはいたようじゃの」


 アルフスはアルフレッドの苦しむ姿を嬉しそうに見ながら言う。アルフレッドの方は、服の一部が焼け焦げ、あらわになった肌が火傷で少しただれていた。


 だが、毅然きぜんとして立ち上がり、連射式魔銃インサニアの銃口をアルフスに向ける。

 

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