第51話.魔術師殺しの弾丸

「アル、ごめん。身体の自由が効かないの」


 あやまりながらも、リリアーナはアルフレッドに対し、細剣さいけん連撃れんげきを放つ。


「おっ……あっ……くっ」


 リリアーナを傷つけるわけにもいかないアルフレッドは、細剣の攻撃を身をひねってかわし、かわしきれないものは連射式魔銃インサニアの銃身で受け流して、なんとかその攻撃をしのぐ。


 操られたその動きは、本来のリリアーナの動きには程遠ほどとおく、さばくのはそれほど難しくない。だが、このままではイーリスに手を出すことすら出来ない。


「リリィ、すぐに解放かいほうしてやるからな」


 アルフレッドはそう言うと、リリアーナの手足に伸びているチェーンを狙って連射式魔銃インサニアの引き金を引いた。


 しかし、カチッという音がしただけだった。


弾切たまぎれか」


 アルフレッドはそう吐き捨てると、リリアーナの攻撃をけながら連射式魔銃インサニア弾倉マガジンを抜き取って交換する。


 からになった方の弾倉マガジンを投げ捨てながら、連射式魔銃インサニア銃身じゅうしん手前てまえに引いた。


 カシャンという音がして、弾丸がセットされたことを知らせる。


 直後、リリアーナの細剣がアルフレッドを襲った。


 それを右前方に大きくんでかわし、床を一回転。リリアーナの斜め後ろに出ると、振り返りざまに連射式魔銃インサニアの引き金を引いた。


 タァーンという音とともに、リリアーナの左足に繋がっていたチェーンが断ち切られる。


 すぐに銃身を手前に引いて再装填さいそうてん


 再び引き金を引く。


 今後は、左手に繋がっていたチェーンが切られる。


「ちっ」


 イーリスの舌打ちが聞こえた。同時に、リリアーナの動きが止まる。その隙にアルフレッドが3発目、4発目を撃ち全ての鎖を断ち切った。


 解放されたリリアーナは急いでイーリスとの距離を取る。


「アル、気付いてるか?君の魔術師殺しの弾丸モルスマギだけが、唯一妖精達の祝福フェアリーズブレスの魔力障壁を傷つけていることに。他の攻撃は全部はじかれているけど、魔術師殺しの弾丸モルスマギだけが魔力障壁にめり込んでるんだ」


 ルーファスが身体からだを寄せて、小声でそれを伝えると短槍たんそうを構えてイーリスに向かっていく。


 アルフレッドはハッとした。


 妖精達の祝福フェアリーズブレスの魔力障壁に完全に防がれていると思っていたが、そうではなかった。


 いや、防がれていたのは間違いないが、魔力を乱す魔術師殺しの弾丸モルスマギの効果はちゃんと出ていたのだ。


「それなら……」


 ルーファスの攻撃により、妖精達の祝福フェアリーズブレスの魔力障壁が展開される。


 アルフレッドは、その障壁を確認すると連射式魔銃インサニアの引き金を引いた。


 狙ったのは、魔力障壁そのもの。その先には、イーリスの左足があるのを確認して。


 魔術師殺しの弾丸モルスマギは、アルフレッドの狙い通り、ルーファスの攻撃によって展開された魔力障壁に当たり、障壁にめり込む。


 その間に、銃身を手前に引いて再装填さいそうてん


 間髪置かんぱつおかずに2発目の引き金を引いた。同じ動作を続けて3発目。アルフレッドは立て続けに同じ場所を狙って3発の魔術師殺しの弾丸モルスマギを撃ち込んだのだ。


 その弾丸は、寸分すんぶんの狂いも無く同じ弾道だんどう辿たどる。


 一発目が魔力障壁にめり込んで薄くなったところを、2発目がさらに削り障壁に穴をあける。2発目はそこで力尽きたが、その穴を通って3発目がイーリスに命中した。


「いっ!」


 イーリスに命中した魔術師殺しの弾丸モルスマギは、その太腿ふともも貫通かんつうする。それは、イーリスの魔力をいちじるしく乱した。


 周辺に浮いていた光の球、妖精達の祝福フェアリーズブレスが短く明滅めいめつした後に、その力を失ったように光を霧散むさんさせる。


 その隙をルーファスは見逃さない。


 短槍たんそう石突いしずきで、イーリスの腹を強く突いた。妖精達の祝福フェアリーズブレスは力を失っていて、彼女を守るものは無い。


「かはっ」


 イーリスは、肺の空気を吐き出して、力なくその場にくずれ落ちた。


 アルフレッドはイーリスを拘束こうそくするために駆け寄ろうとした。


 だが、その時。


「きゃあ」


 後ろでリリアーナの悲鳴が上がる。反射的に振り返ると、リリアーナに炎の球が迫っているところだった。


 いったい誰が?


 そんな疑問がアルフレッドの脳裏に浮かぶ。リリアーナは炎の球を避ける。直撃は避けられたが、すぐ近くの床に着弾。炎の球は大爆発を起こし、爆風でリリアーナが吹き飛ばされる。


「くぅっ、なぜ、あなたが?」


 今度は、ルーファスの苦しそうな声。


 前を見ると、剣の切っ先を背中から生やしたルーファスと、その剣を握るカルロスの姿があった。


 カルロスの顔が愉悦ゆえつゆがむ。


「どうして?」


 それを見たアルフレッドが小さな声で呟いた。


「ほっほっほっ。ここまでご苦労じゃったな。ずっと仲間のふりをするのは疲れたわい。じゃが、それもこれで報われるというものじゃ。イーリスはもらってゆくぞ」


 普段のカルロスの口調ではない。しかも、その表情もカルロスとは思えなかった。


「お前は誰だ?」


 アルフレッドが叫ぶ。カルロスの肌はみるみるしわまみれになっていく。そして、ほほはやつれ、鷲鼻わしばなの周りにはシミが浮き出てくる。髪が白くなり、皮膚ひふ全体が浅黒あさぐろく変わっていく。


 もはや、そこにはカルロスの面影など微塵みじんも残っていなかった。


 カルロスだった者は、老人の姿に変わる。


 その老人は、アルフレッドの問いには答えず、ルーファスを貫く剣を手放すと、イーリスをかかえあげて、肩にかついだ。


 そしてきびすを返すと出口に向かって走ろうとする。


「この……。カティ放せ」


 アルフレッドは、カテリーナに手を伸ばした。あと少し、というところでカルロスだったものが振り向く。


「無駄じゃよ」


 そう言うと、老人はアルフレッドめがけて後ろ回し蹴りを放った。その蹴りは、想像よりもはるかに威力が強く、アルフレッドを壁際まで吹き飛ばす。


 そして、再び出口に向かって走り去った。


「カティ」


 アルフレッドは何とか立ち上がる。その手には、真紅の宝石が付いたネックレスが握られていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る