第49話.フェアリーズブレス

 無数の紅い球が、アルフレッド達を襲う。


けろ」


 誰かが叫んだ。一つ一つは親指の爪ほどの大きさだが、とにかく数が多い。しかも、どこかに当たると、それが爆発する。


 小さいくせに爆発の威力は、そこそこあるようで、床の一部がその爆発でくだけているほどだ。当たったらただでは済まないだろう。


 四人は散開さんかいし、次々に飛んでくる紅い球をかわす。


「くっ、数が多い」


 紅い球をかいくぐりながら、まずルーファスがイーリスとの距離を詰める。槍の穂先は使わず、短槍のの部分と石突いしづきを使って、イーリスを攻撃する。


 武器に魔力は込めずに、攻撃を繰り出すルーファスだが、により強化された彼の身体能力から繰り出されるその攻撃は、かなりのスピードと威力いりょくほこる。


 だが、イーリスも負けてはいなかった。


 カテリーナの身体とは思えないほどの見事な身のこなしで、ルーファスの攻撃をさばいていく。


 そこへ、カルロスの放った炎の矢ファイアアローが襲い掛かる。ルーファスの攻撃とほぼ同時だ。


 火力はおさえられているが、直撃したらイーリスとてただではすまない。


 さらに、カルロスの逆方向からは、アルフレッドが連射式魔銃インサニアの引き金を引く。


 正面からはルーファスの槍、右からはカルロスの炎の矢ファイアアロー、そして左からは、アルフレッドの魔術師殺しの弾丸モルスマギが迫る。


 これで、追い詰めた。一瞬そう思った。


 だが、イーリスはルーファスの短槍を身体からだひねってかわし、炎の矢ファイアアローは例の魔力障壁まりょくしょうへきによって、霧散むさんさせられる。


 そして、魔術師殺しの弾丸モルスマギもイーリスの魔力障壁まりょくしょうへきによって防がれた。


 だが、はじかれて霧散むさんさせられた炎の矢ファイアアローと違い、魔術師殺しの弾丸モルスマギは、障壁しょうへきにはじかれるわけではなく、障壁にめり込んでいるように見えた。


 それでも、結局は障壁をつらぬけず、弾丸はポトリと床に落ちる。


「くそっ、またか」


 カルロスがそう吐き捨てると、さらに数本の炎の矢ファイアアローを放つ。


 前衛ぜんえいはルーファスに変わって、今度はリリアーナが前に出る。


 リリアーナは、カテリーナの身体を攻撃できないかもしれない。そうアルフレッドは思っていた。


 だが、それは杞憂きゆうだったようだ。


 アルフレッドと同じように、リリアーナなりに気持ちに整理ができたのだろう。狙っているのは手足だろうが、思ったよりも果敢かかんに攻めている。


 アルフレッドも、なんとかイーリスの隙をつこうと連射式魔銃インサニアかまえる。


 そして、リリアーナの攻撃に合わせて、連射式魔銃インサニアの引き金を引いた。


 魔術師殺しの弾丸モルスマギは、まっすぐイーリスの右足に迫る。だが今回も、イーリスに届く直前に光の膜にさえぎられた。


 イーリスの注意は目の前のリリアーナに向いていたはずだ。しかも、魔法を使っているような気配はなかった。


 光の膜は三角形で、イーリスから10センチほど離れた辺りに展開されている。その光の膜をよく見ると、三角形の頂点にあたるところには、とても小さな光の球が浮いているのを見つけた。


 その光の球は、魔力障壁が消えた後も、ふよふよと浮いている。それに気づいて、さらによく観察する。


 すると、その光の球は3つだけでなくイーリスの周辺に10個近くただよっているのが分かった。


 今までは小さすぎて気付かなかった。


 そこからは、光の球に注意を絞って観察を続けた。


 カルロスが放った炎の矢ファイアアローが迫るが、その小さな光の球が3つ、4つと集まって、それを頂点に魔力障壁を形成する。


 光の球が3つの時は魔力障壁は三角形で、4つの場合は四角形となる。


「光だ。やつの周囲に浮いている小さな光の球が、あの魔力障壁を形成している」


 ルーファスも同じところに気付いたらしい。


「よく気付いたわね。でも、それが分かったところで、私の妖精達の祝福フェアリーズブレスは突破できないわよ」


 あの、魔力障壁は妖精達の祝福フェアリーズブレスというらしい。


 それが特定の魔法を指しているのか、それとも魔導具を指しているのかは分からなかった。


 そして、イーリスが言う通り、アルフレッド達には、あの魔力障壁を無効化も突破も出来る見込みは無かった。


 いまや、ルーファスがイーリスの後ろにまわり、4人で前後左右から攻撃を仕掛けているというのに、ただの一度も攻撃がイーリスに届くことは無い。


「もう、さすがに鬱陶うっとうしいわね」


 イーリスはそう言うと魔力をる。


 先ほどと同じように、イーリスの身体がほのかに赤い光に包まれ、風も無いのに、服がたなびき、髪がふわりとれる。


蛇絞焔だこうえん!」


 力ある言葉をイーリスが唱えた。


 次の瞬間、虚空こくうに魔法陣が描かれ、そこから勢いよく炎の奔流ほんりゅうき出した。


 それは、またたくに、長く伸びて巨大な蛇の形をとる。


 以前、アルフレッドとリリアーナがクレモナの街のそばでイーリスと戦った時よりも、その炎の蛇は遥かに大きい。


 それだけ、イーリスの力が戻っているといことだ。


 炎の大蛇は、イーリスを中心にして戸愚呂とぐろを巻くと、威嚇いかくするように、その鎌首かまくびをもたげた。


 一度、炎の大蛇にひどい目にあったリリアーナは、警戒して大きく飛び退いた。以前、話に聞いたことがあるルーファスとカルロスも同じように警戒する。


 そんな中、アルフレッドだけは飛び退かず、連射式魔銃インサニアを片手で構えた。


 タァーン


 発砲音が響く。


 魔術師殺しの弾丸モルスマギは、まっすぐに炎の大蛇に向かっていく。それは、大蛇の右目に命中した。


 魔法で造られた大蛇なだけに、魔術師殺しの弾丸モルスマギは、その効果を存分に発揮して、右目だけにとどまらず、顔の半分ほどを削り取った。


 アルフレッドは間髪入れずに連射式魔銃インサニアの銃身を手前に引いて次弾をセットすると、もう一度発砲する。


 今度は、大蛇の左側の顔をごっそりと削り取った。


 頭のほとんどを失った炎の大蛇は、たいして活躍することも無く、その場で霧散むさんする。


「ちっ、やっぱり魔封石マキナタイトの弾丸はやっかいだったわね」


 イーリスは、忌々いまいまし気に舌打ちをした。

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