第43話.螺旋階段

 四体よんたいのガーゴイルを倒し終わったアルフレッド達は、部屋の中を見渡みわたした。


 通路は入って来たところ以外には無い。そのうえ見える範囲には、先へと続くとびららしきものも見当みあたらなかった。


「あれ?行き止まり?」


 リリアーナが不安そうな声をらす。


「それは無いんじゃないかな。フランツさん達も、イーリスは、入ったっきり出入りした形跡は無いって言ってたし」


「そうだね。それに入り口と、この部屋しか無いっていうのも不自然だ。どこかに先に続く扉か何かがあるはずだよ。みんなで手分けして探そう」


 アルフレッドの言葉をルーファスが引き継いで、全員に指示を出す。四人は手分けして壁を調べ始めた。


「さっきの入り口みたいになっていたら、よく見ないと分からないわよね?」


 リリアーナが言っているのは、岩壁いわかべにあった入り口のことだろう。確かに、あれはわずかな切れ込みがあっただけで、ぱっと見だけでは分からなかった。


「そうだね。少しでも切れ込みみたいなのがあったら教えてくれ」


 アルフレッドも壁を念入りに調べながら、そう言った。


――


いね」


いわね」


ぇなぁ」


「見あたりませんね」


 三十分ほどったところで四人は床に座り込んでいた。あれから手分けして壁を念入りに調べていったが、なめらかな壁には、切れ込みどころか傷一つ見つけられなかった。


いはずはないんだけどなぁ。でも、一通り壁に魔力を流してみたけど、何の反応も無かったよ」


 アルフレッドがため息をつく。


「この台座に仕掛しかけがあるのかも?」


「それも調べてみたんだけど、特に仕掛けは無さそうなんだよね。ルーファスさん、何かありました?」


 アルフレッドが調べていた時、ルーファスも台座を調べていた。


「僕も調べてみたけど、何も見つけられなかったよ」


 ルーファスは力なく首を横に振った。こころなしか、尻尾も元気が無さそうにしおれている。


「あと調べてねぇところは、ゆか天井てんじょうくらいか」


 カルロスがやる気無さそうに言うと、アルフレッドとルーファスが同時に口を開いた。


「「ゆかだ!」」


 二人は、四つの台座の中央にいくと、くだけた石像せきぞう破片はへんはらい始めた。


「あった!」


 そして、わずかな切れ込みを見つける。後は、その切れ込みに沿って石像の破片を払っていくだけだ。


 四人が手分けして破片を払うと、四つの台座のちょうど真ん中に、長方形の切れ込みがあらわになる。


 その切れ込みは、部屋の入り口から見ると、縦二メートル、横一メートルほどの大きさだった。


 アルフレッドがその切れ込みの中央に触れて魔力を流すと、長方形の切れ込み部分が沈み、奥へとスライドした。


 現れたのは、下へと続く階段だった。


「よし!」


 アルフレッドがめずらしくガッツポーズをとる。


「行ってみようか」


 ルーファスを先頭に階段をくだる。もうお決まりになった順で、アルフレッド、リリアーナ、カルロスが後ろに続く。


 相変あいかわわらず壁や天井がほのかに光っているようで、明かりには困らない。


 その光のおかげで階段の先の方まで見通せるが、階段の終わりは見えなかった。


 かなり下まで続いているというのもあるが、なだらかに右へとカーブしているせいで、途中までしか見えないのだ。


 コツ、コツ、コツ、コツと、くつかたゆかに当たる音だけが響いている。


「どこまで続くのかしら?」


 階段を下りはじめてだいぶった頃、リリアーナが不安をにじませた声で言う。


「もう十階分くらいは降りたんじゃないかな。いや、もっとか。でも、まだ終わりは見えないね」


 アルフレッドが答えるが、その声も自信が無さそうだ。階段はゆるやかな螺旋階段らせんかいだんのようになっていて、大きく円を描きながら地下へと向かっている。


 最初の十段くらいは急な下りだったのだが、その後はとてもゆるやかで、一段一段の幅が広く、段差も小さい。


 しかも、その後は幅も段差もずっと同じだ。


 それがずっと続いているのだから、距離感も方向も麻痺まひしてくる。もはや彼らには、どれくらい地下にりたか分からなくなっていた。


「もっと下まで降りたんじゃないかなぁ?」


「俺もそう思うぞ。そうだなぁ、二十階分くらいじゃねぇか?」


「さすがにそこまでじゃないと思うけど、十五階くらいかな」


 リリアーナ、カルロス、ルーファスの順で予想を言い合う。実際に一番近かったのはカルロスなのだが、彼らにそれは知るすべはなかった。


 それからしばらくして、永遠に続くかと思われた地下への階段が、突然終わりをげる。


 ついに、階段の終わりが見えた。


 実に三十階分以上。100メートル近くも地下にもぐったことになる。


「やっと終わりか」


 アルフレッドがうんざりしたように言った。それだけ、階段が長かったのだ。


 その先は、階段と同じ幅の通路が、まっすぐに奥へと伸びていた。かなり先の方だが、一番奥が行き止まりになっているのが見える。


 曲がり角というわけでもなさそうなので、あの行き止まりのところに扉か何かがあるのだろう。


 一行は、休むことなく、通路の先を目指した。

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