第42話.部屋の守護者

「もう、カルロス。揶揄からかうんじゃない」


 ルーファスは後ろを向くと、必死に笑いをこらえているカルロスに注意する。


「はぁ。まったく、敵を前にしてるっていうのに緊張感が無いなぁ」


 後ろの三人を見て、ルーファスは呆れたようにため息をついた。


 それを見て、アルフレッドとリリアーナは反省して、ルーファスにごめんなさいと頭を下げる。


 だが、カルロスだけは、悪びれる様子もない。


「じゃ、そろそろいくよ。準備はいいかい」


 ルーファスがそう言うと、アルフレッドとリリアーナだけでなく、カルロスも真剣な表情で頷いた。


 各々おのおの、自分の武器をしっかりと握りしめる。


「Go」


 その合図で、全員が一斉に正方形の部屋へと足を踏み入れる。


 先頭のルーファスが、一歩部屋に入った時点で、台座の上にあった四体の石像に変化が起こった。


 石像の表面に無数のひびが入っていく。


 ピキピキピキ。


 パキパキパキ。


 そんな小さな音が聞こてきた。


 そして、いきなり表面ががれ落ちた。


 その身体が、石像とはまったく違う、生きているような質感しつかんへと変わると、本物の生き物のように動き出した。


 狼のようなその体躯たいくは黒い体毛たいもうに覆われ、茶色っぽい蝙蝠こうもりの様な羽には、血管のような赤黒あかぐろい線が無数にけて見える。口は大きく裂け、ぎぃぎぃと不気味な鳴き声を発していた。


 ガーゴイルが動き出そうとした瞬間には、ルーファスはすでに右奥の台座の前に到達していた。さすがのスピードだった。


 そして短槍たんそうを逆にすると、その石突いしづきでガーゴイルの胸の真ん中を突く。突く瞬間、短槍はわずかな間だけ黄緑色きみどりいろの光をまとった。


 魔力の乗ったその攻撃は、見事にガーゴイルの胸を砕いた。


 胸を砕かれたガーゴイルは、二、三歩ゆっくりと前に進んだ後に、元の石像に戻った。


 ルーファスに一瞬いっしゅん遅れてアルフレッドは左奥にいたガーゴイルの前に出る。その時、ガーゴイルは既に動き出していた。


 眼前がんぜんに来たアルフレッドを見とめると、台座の上から飛びかかってくる。アルフレッドは、それをけようともせず、単発式魔銃アルプトラムを右手でかまえた。それがかすかに赤い光をまとう。


 アルフレッドは、ガーゴイルを十分じゅうぶんに引き付けてから、しずかに引き金を引いた。


 ダァーンという轟音ごうおんが鳴り響き、ほんの数十センチの距離まで迫ったガーゴイルの、胸の中央を正確に撃ち抜いた。


 ガーゴイルは、反動で後ろに大きく吹き飛ぶ。


 魔力で威力いりょく増幅ぞうふくされた弾丸は、ガーゴイルの硬い身体を貫いて、容易よういにそのかく破壊はかいした。ガーゴイルは、後ろに吹き飛びながら元の石像に戻り、後方の壁にぶつかると、盛大せいだいくだけ散った。


 によって強化された魔力は、武器に乗せることでその威力を跳ね上げる効果がある。アルフレッドは、それを立ち合い稽古中にルーファスから教えられていた。


 まだ、完全ではないが、単発式魔銃アルプトラムの威力は大きく上がっているはずだ。その証拠に、湖の遺跡でガーゴイルと戦った時は一撃で倒せなかったが、今回は簡単に核まで届いた。


 アルフレッドは、確かな手ごたえを感じていた。


 一方、後方にいたリリアーナも、ルーファスの合図で一気にガーゴイルとの距離を詰める。


 その時には、ガーゴイルは既に動き出しており、蝙蝠こうもりのような羽を広げて空中に飛び上がっていた。高い位置から、耳まで裂けた口で噛みついてくる。


 リリアーナは、それを軽快なステップでかわしながら細剣さいけんによる刺突しとつを叩き込む。その刀身は、わずかに青白い光をまとっていた。


 アルフレッドのそれよりも弱い魔力だが、それでも刺突しとつによる威力いりょくは以前のそれとは比べ物にならない。


 ガガガガガという激しい音と共に、ガーゴイルの身体をけずる。


 以前、アルフレッドに揶揄やゆされたリリアーナの剣技とは比較にならなかった。魔力の乗った一撃一撃が、がっつりとガーゴイルの身体を削る。


 一瞬で、ガーゴイルの身体を削りきると中に埋め込まれていた核を破壊した。


 次の瞬間、空中にあったその身体は停止し石像へと戻る。そして、そのまま落下して床に激突すると砕け散った。


「ファイアーボール」


 最後に部屋に入ったカルロスは、部屋に入るなり魔法を解き放った。

 

 カルロスの前には拳大こぶしだいの炎の球が出現し、それが向かってくるガーゴイルへと高速で飛んでいく。


 そして、炎の球はガーゴイルに当たると爆発した。


 ガーゴイルの胸は、爆発で大きく削られる。


 そこに向かってカルロスは剣を突き出した。見事に露出した核を砕くとガーゴイルは元の石像へと戻る。


 それらは、四人が部屋に足を踏み入れて、ほんの数秒の出来事だった。

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