第41話.侵入

「じゃ、入ってみようか」


 ルーファスはそう言うと、アルフレッドの真似まねをして、扉の右側にれて魔力を流してみる。


 すると、先ほどと同じように、扉の部分が音も無く奥へとへこみ、すっと左へスライドした。それと同時にルーファスの長い尻尾の先がぴくぴくとわずかに動いたが、それに気づいた者は居なかった。


「なんだか、すごいね」


 誰にも聞こえないほど小さな声で、そうつぶやいてから、ルーファスは先頭に立って入り口へと足を踏み入れた。


 入ってすぐに下へと続く階段があった。


 壁も床も天井も材質は同じで、外から見た岩壁と同じ岩が使われている。まるで岩壁をくり抜いて造られているかのようだった。


 実際に、そうなのかもしれない。


 内部の石材は、つなぎ目などは無く、磨き抜かれた大理石のように滑らかで、光沢こうたくすらはなっている。湖の底にあった屋敷と同じで、なぜかほこり一つ、砂粒すなつぶ一つ落ちていない。


 そして、石材自体せきざいじたいがほのかに発光しているようで、明かりに困ることは無かった。


 そんな壁や床を、アルフレッドは興味深そうに観察している。


 下へと続く階段は、それほど広くなく、人ひとりが通るのにちょうどいいくらいの幅で、まっすぐに下に伸びていた。それは、それほど長いわけではなく二十段くらいで終わりのようだ。


 ルーファスを先頭に、アルフレッド、リリアーナ、カルロスの順で慎重しんちょうに階段をくだる。


 ほどなくして、階段の一番下まで来た。


 その先は、大きめな部屋へと続いていた。十メートル四方しほうのほぼ正方形の部屋で、部屋の中央付近には、四つの台座だいざがある。


 その台座の上には、みにく妖魔ようまの石像が鎮座ちんざしていた。


 狼のような体躯たいく蝙蝠こうもりのような羽が背中から生えている。顔は、耳の辺りまでけた大きな口、目は無く、かわりに2本の角のようなものが額の上から伸びていた。


 湖の底の屋敷にあったガーゴイルと少し似ている。


「あの石像、ぜったいただの石像じゃないよな」


 カルロスが少し嫌そうな顔をした。


「間違いなくガーゴイルでしょうね」


 同意しながら、アルフレッドは腰につけたホルスターから単発式魔銃アルプトラムを抜いた。


「湖の屋敷に居たのと同じかな。あれ、硬いから苦手なのよね」


 以前の記憶を思い出したのか心底しんそこいやそうな顔をして、リリアーナは細剣さいけんを抜いた。


「一人一体でいいですよね?」


 ルーファスが短槍たんそうの柄を握りながら、後ろの三人に声をかける。それに対して三人は無言で頷いた。


「僕が右奥、アルがその左。カルロスが左手前で、リリアーナさんが右手前でいいかな」


「はい」


 アルフレッドが返事をして、リリアーナとカルロスは無言で頷いた。


「そうだ。ガーゴイルのかくはたぶん胸の中央付近だと思います。湖の屋敷にいたやつがそうでした。こいつらも同じなら、弱点の核は胸の中央です」


「そうか。そいつはありがてぇな」


「弱点が分かっているのはありがたいですね」


 アルフレッドの言葉に、カルロスとルーファスは感謝かんしゃした。しかし、リリアーナだけは、なんだか不満そうな顔をした。


「そういえば、あの時は一人で倒しきれなくて、アルがとどめをさしていたわね。今度は一人で大丈夫なんだから」


 リリアーナはくやしそうに言って、アルフレッドから視線をらした。


「リリィがしてたんだけどね。あの時は時間がしかったから」


「そういえば、あの時、私が戦っているのを見て『彫刻ちょうこく?』って言ったでしょ?」


「そんなこと言ってないよ」


 実際には、そう思っただけで口には出していない。だが、その時のことを思い出したアルフレッドは、笑いをこらえるのに苦労する。


「おかしいな。そう聞こえた気がしたんだけど」


 アルフレッドは、首を横に振った。何かしゃべったらき出してしまいそうで、首を振るので精一杯だったからだ。


「やっぱり笑ってたでしょ」


「ごめん」


 アルフレッドはリリアーナににらまれて、観念かんねんしたように謝った。それを見ていたカルロスが、二人にからかうような声をかける。


「まったく、痴話喧嘩ちわげんかなら後にしくれ」


「……痴話!」


 カルロスが言うと、リリアーナは顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る