第39話.出発と急報

 翌朝、アルフレッドとリリアーナがリカードの屋敷やしきの前に行くと、すでに多くの者たちが集まっていた。


 リカードのパーティである、ランドルフ、ダニエル、ココ、エミリアの四人はもちろんのこと、ルーファスとカルロス、そしてジャンの姿もあった。


 ジャンは先日の魔族との戦いで大怪我を負ったはずだが、こうしてこの場に来ているということは回復したのだろう。


 リカードはまだ出てきていないようだった。


 こころなしか、場の空気が緊張しているように感じられた。


 アルフレッドとリリアーナが到着して少し経つと、屋敷の中からリカードとオズワルトが出て来た。


 全員の視線がそこに集中する。


 そのリカードだが、いつもの飄々ひょうひょうとした雰囲気がりをひそめて、その表情は厳しい。


「先ほど、ミズリーノ遺跡の調査隊が魔族に襲われたという急報が入った」


 静かにそう切り出したリカードのその表情には、抑えられない後悔こうかいと怒りの感情がにじみ出ていた。


 ミズリーノ遺跡というのは、アルフレッド達が、イーリスの封魂結晶アニマ・クリュスを見つけたあの湖の底にあった街のことだ。


 魔族を撃退して追い払った後、主要な魔導具などの宝を回収してはあったのだが、他に何か無いかと継続して調査隊を派遣していた。


「被害は、調査隊のうち二名が死亡。怪我人はいない」


 主要な魔導具が無いことと一度魔族を撃退したことによる油断が災いした。まさか、再び魔族に襲われることになるとは。


「僕の失態だ。一度、魔族を撃退しただけで油断してしまっていた」


 その言葉には明らかに懺悔ざんげの様な響きがあった。


「アル。すまない。もともと皆でカテリーナ嬢の救出に向かうはずだったんだが、魔族の襲撃があったからには、そうもいかなくなってしまった。ここからは、チームを二つに分けさせてもらうよ」


 アルフレッドは、とんでもございません、と言うように首を横に振った。カテリーナ救出に人員を割いてくれるだけでも、じゅうぶんにありがたいのだ。


「アルとリリアーナ嬢。それからルーファスとジャンは予定通りカテリーナ嬢の救出のためイーリスを追ってくれ。それ以外は、僕と一緒にもう一度、魔族の撃退に協力してもらう」


 それぞれが返事をしたり、頷いたりするなか、カルロスだけが一人リカードの前に出た。


「すまねぇ。リカード様。俺をイーリスの方に行かせちゃくれねぇか?」


 一同の視線がカルロスに集まった。


 カルロスは今まで、リカードの決定に異を唱えたことはなかった。それなのに、自分の意志を主張しているのがめずらしかった。


「ふむ。今回カルロスは魔族に捕まっていたから、あっちの顔ぶれにも詳しいと思ったんだが、まあいいか。ジャン、カルロスと代わってやってくれ」


「ありがてぇ」


 カルロスは、深々と頭を下げてリカードに感謝する。


「それじゃ、ルーファス。そっちは頼んだよ。アル、無理しないでルーファスの言うことをしっかり聞くんだよ。リリアーナ嬢も」


 ルーファスをはじめ、アルフレッド達は姿勢を正してリカードの言葉に、それぞれ返事を返す。


「僕たち魔族対応組は、もう少し準備してから出発かな。出来るだけ早くこっちを片付けて、アル達を手伝いに行くよ」


「おう、俺たちが行くまで頑張れよ」


「リリィ、気をつけて」


「俺たちの出番も少しは残しておけよ」


 リカードに続いて、ランドルフ、エミリア、ダニエルがアルフレッド達に声をかけていく。


「はい。ありがとうございます。皆さんも気をつけて」


 アルフレッド達も口々に言葉を交わした後、ルーファスを先頭に街を出発した。

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