第34話.不安
翌日の夜、アルフレッドはリカードの執務室を訪れた。
魔力活性の練習を開始して三日目になる。
「すごいね、アル。本当にあれから一日で、ここまで来るなんて」
「いえ、もっと早く来るつもりが……」
「十分だよ。むしろ早過ぎて心配になるくらいだよ」
痛みに顔をしかめながら悔しそうに言うアルフレッドに、リカードは目を細める。アルフレッドの
その一方で、アルフレッドは焦っていた。
痛みにはある程度耐えられるようになったが、それで強くなったかと問われれば、答えは否だ。
早くカテリーナを追いかけたいのに、どうなればそれが
気ばかりが焦ってしまう。
リカードをはじめ、オズワルトやロズウェルにも、成長が速いと言ってもらえるのだが、アルフレッド自身は、まったく実感が
それでも、さすがに、このままで本当に強くなれるのかとは、リカードには聞けなかった。
「この
そう聞くのが精一杯だった。そんなアルフレッドの気持ちを知ってか、知らずか。リカードは真剣な表情で答える。
「とにかく、その状態に慣れることが重要だね。魔力活性による
「
さすがに、それは出来る気がしなかった。リカードは出来るのだろうか?そんな疑問が一瞬脳裏に浮かぶ。
「まあ、さすがにそれは難しいかな。とにかく、起きている間だけでもいいから、その状態を
「はぁ」
アルフレッドは、つい気の無い返事をしてしまう。それは、今やっていることと何も変わらなかったからだ。
「これで強くなっているのか不安なのかい?」
リカードは、そのアルフレッドの気の無い返事から何かを察したのだろうか。首を
「はい。いえ……。あの、すみません。不安です」
「あははは、アルは正直だな。まあ、今はまだ痛みでろくに動けないだろうからね。あと二日、いや一日もすれば、だいぶ痛みをやわらぐだろうから、そうすれば実感できると思うよ。まあ、
珍しく歯切れの悪いアルフレッドの反応を、リカードは楽しそうにわらいとばす。
「はぁ」
リカードのことを信じないわけではないが、それでもどうにも実感がわかないアルフレッドは、またもや、気の無い返事を返した。
ただ、リカードが言うのだから、引き続き頑張ってみようとは思う。
「それはさておき、リリアーナ嬢が戻ってきてるよ」
「本当ですか?リリィの具合はどうですか?」
アルフレッドは身を乗り出すようにして、リカードに詰め寄った。
後ろ髪を引かれる思いで、リリアーナをジリンガムに残してきた。あれから四日
気にならないわけは無い。
「さすがエミリアだね。リリアーナ嬢の怪我はすっかり良くなったみたいだよ」
それを聞いて、アルフレッドは胸をなでおろす。だが、次の言葉はひどくアルフレッドを驚かせた。
「今はエミリアについて、アルと同じように魔力活性の練習をしているみたいだ」
「リリィが!?」
あまりの驚きに、つい聞き返してしまう。
リリアーナも自分と同じように魔力活性を習得しようとしているとは。しかし、そうなるとリリアーナも、こんな痛い思いをしているのだろうか?
そうだとしたら、大丈夫だろうか?
「うん。でも、エミリアは僕よりも優しいからね。ある程度痛みは伴うと思うけど、アルみたいな激痛に耐えなきゃならないってことは無いんじゃないかな?」
アルフレッドの考えていることが分かるかのように、リカードが付け加えた。
「どういう経緯で、エミリアが魔力活性を教えることになったのかは分からないけど、なかなか
「そうですか」
リリアーナが、そこまで痛い思いをしていないのであれば、それは良かったのだが、魔力活性を習得しようとしていることにモヤモヤする。
それは、カテリーナ救出にリリアーナも同行するつもりなのではないかと思ったからだ。
先日のことを思い出す。胸から腰にかけて
一歩間違えれば、リリアーナを失っていたかもしれない。その時の恐怖がアルフレッドの脳裏によみがえる。
もう二度とあんな思いはしたくない。アルフレッドは自分のことは棚に上げ、カテリーナの救出にリリアーナを伴いたくなかった。
「アル。君は、リリアーナ嬢がまた怪我をするのが嫌なんだろう?それは、でも、それは僕らが君に向ける気持ちと変わらないよ」
浮かない顔のアルフレッドを見かねてリカードがそう声をかけた。
「君と同じで、止めたところで、止まりはしないんだ。彼女を守りたいなら、アル。君が強くなるしかないんだよ」
アルフレッドは、リカードのその言葉にハッとした。
その通りだとも思った。
リリアーナを守れるくらいに、必ず強くなってみせると、アルフレッドは、新たに決意を固めて、リカードの執務室を後にした。
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