第27話.追跡

「カティが徒歩なら、次の街までの街道で見つけられるかもしれないな」


 アルフレッドがリリアーナに馬を寄せて大きな声で伝える。


「うん、そうだね。見落とさないように気を付けなきゃ」


「少し走るペースを落とそうか?」


「ううん、大丈夫。カティに近づけば、たぶん分かると思うから」


「そんなもんか?」


 アルフレッドが首をかしげながら言うと、リリアーナは自信ありげに大きく頷いて見せた。


 双子だからなのか、リリアーナには不思議な自信があるらしい。幼馴染のアルフレッドでもそこまでの自信はない。服装や髪型を変えているはずだから、よく見ていないと見落としてしまいそうな気がする。


「リリィ、あれ。次の街じゃないかな?」


「うん。でも、カティいなかったね」


 その後も軽快けいかいに馬を飛ばしたアルフレッド達は、遠くに街の外壁が見えるところまで来ていた。ここまで、多くの旅人を追い抜いてきたが、カテリーナらしき人物は見ていない。


「街道を進んでいるなら、この辺りだと思うんだけどな。街道沿いはけてるのかな?」


けるって言っても、街道からはずれたらすごく歩きにくいでしょ。山とか森もあるし」


 そう、リリアーナの言う通り、街道から少し外れるだけで歩けたものではない。雑草は伸び放題ほうだいで、人の背より高いものも少なくない。雑草が無いところでも、けわしい岩山だったり、深い森だったりして、とても人が立ち入れないような場所も多い。


 当然、そんな場所ばかりでも無いのだが、ここに来るまでに通った街道から見た限りでは、平坦な場所の方が少ないように思えた。


「そうすると、もっと先に行っちゃったのかな」


 アルフレッドがそう言った時、リリアーナが、身を乗り出すようにして、前方に目を向ける。


「あれ?アル、ちょっと待って」


 フロースが何かを感じとったのか走るスピードを落とす。それにつられて、アルフレッドの乗るシルワもスピードを落とした。


 二頭の馬は、ゆっくりと並走する。


「どうした?」


 アルフレッドは、リリアーナの方を振り返った。その時、リリアーナは前方の一点を見つめていたが、やがて、そちらを指さした。


「あれカティかも?」


「どれ?」


 アルフレッドもリリアーナが指差した方向を見る。だが、旅人が何人か前を歩いるものの、どれを指しているのか分からない。


「こっちから見て、3人目。黒っぽい服の子」


「あれか、たしかに背格好せかっこうは似ている気もするけど、どうだろう?」


 正直なところアルフレッドには、まったく分からなかった。あれがカテリーナだと言われれば、そうかもしれないとも思うが、リリアーナのような自信は無い。


 だが、リリアーナの中では、ある種の確信があるようだ。フロースもシルワも、何かを察したのか、今は足を止めている。


「ねえ、アル。どうしよう?」


 助けを求めるようにリリアーナがアルフレッドを見る。


「あれが、カティだとした場合だが、彼女を攻撃するわけにもいかない。今は、リカード様が言ったように封魂結晶アニマ・クリュスのネックレスを取り上げてみるしかないんじゃないかな?」


 それで、カテリーナが戻るかは分からないけど、それ以外考えられないとリカードが言っていたのを思い出した。アルフレッドも、ここに来るまでに考えてみたが、特にこれといっていい考えは浮かばなかった。


「逃げられたら?」


「そりゃ、追うしかないよ」


「じゃ、抵抗されたら?反撃されたらどうしよう?」


 不安そうにアルフレッドを見るリリアーナ。


「無理はしない。こっちから手を出すわけにはいかないから、まともに応戦はできないと思う。もし危ないと思ったらすぐ逃げる。いいね?」


 優しく諭すように言うアルフレッドに、リリアーナは不安そうな面持おももちちで首を横に振った。


「でも、逃げたらカティを助けられないじゃない?」


「昨日のハンスさんの話。もし、スラムで三人を殺したのが本当になら、こっちが危ない。頼むから無理しないでくれ」


 少し強めの口調に、リリアーナは泣きそうな顔になる。だが、アルフレッドの真剣な顔を見て、しぶしぶうなずいた。


「もし、ここでイーリスに逃げられたとしても、きっとリカード様達がまた見つけてくれるさ」


「うん。そうだね」


 頷いたリリアーナだが、なんだかちょっと不満そうな顔だ。


「でも、アル。ちょっとリカード様を頼りすぎじゃないかな?アルだって本気出したらすごいのに」


「それは、買い被り過ぎだよ」


 そう答えたが、アルフレッドの脳裏のうりにふと回顧かいこの念がよぎる。今までに、もっと本気で剣や魔法の鍛錬をしていたら、あの時カテリーナを守れただろうか?


 アルフレッドは、何をやっても、そこそこ器用にこなす。剣術にしてもリリアーナには敵わないが学年では上位に入るし、魔法にしてもカテリーナには及ばないが、それなりに使いこなすことは出来る。


 ただ、どちらも本気で取り組んだかと言われると、そうではない。むしろ、まったく頑張って来なかったと言うべきか。リリアーナは、そういうことを言っているのだろうか?


 そこまで考えたところで、アルフレッドは軽く首を振った。


 今、考えることじゃない。今は、すぐそこまで迫ったイーリスに集中すべきだ。


 カテリーナらしき人物はもう次の街のすぐそばまで進んでいた。もう少しで、南門へと到達しそうだ。


「リリィ。あれがイーリスだとすれば、街に入らずに外壁に沿って街を迂回うかいすると思う。外壁の角を曲がった辺りで仕掛けるのがいいと思う」


 そう言って見ていると、カテリーナらしき人物は街の門かられて右へと向かっていった。


「ほんとだ。さすがはアルね」


 どんどん外壁に沿って歩いていくのを見て、二人はより確信を強めた。


「僕が、イーリスから封魂結晶アニマ・クリュスを奪うから、リリィはカティの意識を引いてくれ。もしかしたらカティに呼びかければ効果があるかもしれない。乗っ取られているとはいえ、中にはカティもいるはずだからね」


「分かったわ。任せて」


 リリアーナは真剣な表情で頷く。


「ある程度近づいたら、馬は乗り捨てる。できれば、こいつらは巻き込みたくないからな。シルワ、フロース。おまえらは、ちゃんと逃げてくれよな」


 アルフレッドが、シルワの首筋を軽く叩く。シルワは鼻を鳴らして返事をした。


「さあ、行くか」


 アルフレッドが言うとシルワが走り出す。すぐ後ろをフロースが続く。カテリーナらしき人物は、もう少しで外壁の角へと差し掛かろうとしていた。

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