第13話.回収と探索

 アルフレッド達がミズリーノ湖に到着したのは、太陽が中天に差し掛かった頃だった。


「おお、本当に水が減ってやがる」


「湖の底に沈んだ街が、数百年ぶりに水面に現れるなんて、なんかロマンだよね」


「うん、それにすごく綺麗きれい


 ダニー、ココ、エミリアの順で感嘆かんたんの声をあげる。他のメンバーは何も言わないが、なかばほど水面に現れている古い街に目を奪われていた。


「例の屋敷は、あの辺りです。外壁の上から回り込めば水に濡れずに行けます」


「おう、そうか。水に濡れずに行けるのはありがてぇな」


 アルフレッドの説明に、カルロスが応じる。一日経って、湖から流れ出る水は落ち着いたのか、これ以上水位すいいが下がる気配は無い。


 それでも、まだ街全体からしたら半分以上が水中に沈んでいる。


 完全に水が引いているのは、少し高くなっている街の北側だけで、それ以外はまだ小舟でも無ければ街の外壁まで行くことは出来ない。


 アルフレッドは先頭に立って街の北側に向かった。昨日はぬかるみになっていたところも、今ではすっかり乾いていて歩きやすい。


「この辺から登れそうだな」


 外壁のそばまで来ると、ランドルフは近くにあった石造りの屋根をつたって、軽々と外壁の上に登る。アルフレッドを除く他のメンバーもランドルフに続いて軽々と登っていった。


 昨日は、鍵爪かぎづめ付きのロープを使ったアルフレッドだが、ランドルフ達の真似まねをしてなんとか登ることが出来た。


「ほお、これはまた」


「きれい……」


 外壁の上にあがった者達は、一様いちようにその景色に目を奪われていた。


 外壁の内側には、まだたっぷり湖水が残っていて、その湖水に浮かぶように白い石造りの建物が並んでいる。それを真昼の太陽がキラキラと照らし出し、幻想的げんそうてきな風景をいろどっていた。


「おまえら、見惚みとれてないでさっさと行くぞ」


 最初に外壁に登ったランドルフが、いち早く我に返ったのか一同いちどうを先へとうながす。


「へいへい」


 カルロスが不満そうにするが、それでもランドルフには逆らわない。言われた通りに先に進む。


 一行は外壁の上を南に回って、そこから中央通りに沿って、浮島うきしまのように点々と続く、建物の屋根を伝って、今度は北に進む。


 ほどなくして、一行いっこうは内側の外壁に降り立つと、例の屋敷の前に到着した。


「ここです」


「ほう、確かに他の建物とは、その劣化具合れっかぐあいがまったく違うな」


 遠くから見ればきれいな白い石造りの壁も、近くから見れば汚れや腐食ふしょくが目立つ。それなのに、彼らの前の建物だけは、そういったものは無縁むえんで当時のままの美しさを保っていた。


「アル、昨日と変わっているところはあるか?」


 ランドルフが視線で目の前の屋敷をしながらアルフレッドに問う。それに対し、アルフレッドは首を横に振って答えた。


「いいえ、特に変わっているようには見えません。昨日、僕らが来た時のままです」


「なるほど。ここに来るまでにも、アル達以外の足跡あしあと痕跡こんせきは無さそうだったし、まだ俺たち以外にここに立ち入った者はいないみたいだな。ダニー、どうだ。気配は感じるか?」


 ランドルフの問いに、ダニエルはゆっくりと首を振った。


「魔力の乱れも、今のところ無さそうね」


 これは、ココの言葉だ。


「ふむ。まあ、大丈夫そうだな。だが、それでも安全とは限らない。ここからは気を引き締めて行こうか」


 ランドルフの言葉に全員が頷くと、アルフレッドが代表して屋敷の扉を開いた。


 中に入った一行いっこうが最初に目にしたのは、砕けたガーゴイルの残骸ざんがいと戦闘の跡だった。


「これがガーゴイルの残骸ね。あぁ、できれば動いているのが見たかったな」


「ガーゴイルなんてなかなか見られないからな」


 魔法に造詣ぞうけいが深いココとカルロスにとっては、ガーゴイルの残骸も興味を引く存在らしい。


 だが、近づこうとした二人をランドルフが止めた。


「おまえら、気持ちは分からんでもないが後にしろ」


 ココとカルロスは後ろ髪を引かれる思いであきらめると、ランドルフの後に続いて、地下へと続く階段を目指す。


 途中の部屋は全て無視して進んだため、すぐに階段に到着する。ランドルフが先行して様子を見に行くが、一分もかからず戻って来た。


「大丈夫だ。誰も居ない。アルが言っていた通り、中は宝の山だな」


 ランドルフの言葉に、残りの面々は一斉に階下へと足を踏み入れる。


「すごい。すごいよ、これ。イーリスの魔導具以外もかなり混ざっているみたいだけど、旧魔法文明時代の魔導具がこんなに……」


「ああ、これはやばいな。リカード様がいたら大興奮間違だいこうふんまちがいなしだ」


「こんな状態がいいものが、これほど回収できればリカード様も喜ぶわね」


 宝物庫にずらりと並んだ、おびただしい魔導具を前に口を開いたのは、ココ、カルロス、エミリアの三人だった。


「さて、二手に分かれようか。ココ、カルロス、エミリア、それからアル。おまえらはここに残って、魔導具の回収を頼む。それ以外のやつらは屋敷の外に戻って周辺の調査だ。特に魔族の気配を感じたらすぐに報告してくれ」


 ランドルフは全員に指示を出すと、すぐに全員は行動を開始した。


 ――


 日が暮れる前に一行は屋敷のエントランスに集合していた。


「ココ、首尾はどうだった?」


 全員が集合したところで、ランドルフがココに水を向ける。


「まだ二割ってところね。よく分からない魔導具が多くて、取り扱いが難しいのよ。正直苦戦しているわ」


「そうか、でも二割は回収できたんだな。とりあえず、回収できた分だけでもリカード様の元に届けよう。それに、リカード様の危惧きぐした通り、近くに魔族の痕跡こんせきを見つけた。今は居ないようだが、その報告もしなきゃならねぇ。一旦フォートミズに戻るぞ」


 ランドルフの言葉にココをはじめ何人かは頷いた。


「しかし、ラルフさん、全員で戻ってしまっていいのでしょうか?」


 口を開いたのは、普段物静かな猫獣人みゃうのルーファスだった。


「と言うと?」


「私たちがいない間に人が来る可能性もありますし、魔族が戻ってくるかもしれません。ここに見張りを残した方がいいんじゃないですか?」


 ルーファスの言葉にランドルフは思い出したかのように頷いた。


「そうだな。ルーファスの言う通り見張りは残した方がいいだろう。ダニーそれからルーファス。悪いが今夜、ここの見張りを任せたい。明日、俺たちが来るまでだ」


「ああ、ラルフの旦那だんなの頼みなら、俺は構わないぜ」


「言い出したのは私です。もちろん見張りの役目はお受けします」


 ダニエルもルーファスも快く承知する。


 そんなやり取りのあと、ダニエルとルーファスを除く六人は、リカードの待つフォートミズの街に戻った。

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