第22話 初デート 前編
目を開ける。
カーテンから差し込む光に、寝坊をしたかと若干焦りつつも時計を見る。午前6時半。
今日着ていく服は全て洗濯し、朝ごはんも昨日買ってあるやつをチンするだけだ。
洗面所で顔にジャブジャブ水をかけ、鏡に映る自分を見つめてみる。
……今日、なんかイけてるかもしれない。
この自信はどこから来るのか、差出人は不明ではあるが、ないよりはマシであろうと、勝手に自己解決する。
昨日買ってきたおかずを温めながら、テレビをつけて、お天気予報を確認する。
「今日は雲一つない快晴です、気温も上がりすぎず、運動するにはこれ以上ないくらいピッタリの日でしょう」
朝から満面の笑みでお天気キャスターが言う。
なんだかお天道様も味方についているような気がする。
ご飯を食べ、歯を磨く。
普段であれば、あとは服を着て、ため息をつきながら仕事に向かったりするのだが、今日は休日、しかもデートである。
このテキトーにとかしただけの髪の毛をうまくスタイリングしなければならない。
美容師さんに教えてもらった簡単なスタイリング術を試してみる。
うん、これで良い。
どこに格好良さを感じるかは甚だ疑問ではあるが、世の中のおしゃれそうな男子の髪型に似ている。
買いたての服に着替え、荷物を持ち、玄関前の鏡でもう一度確認をする。
髪よし、服よし、気合よし。
まるで電車の運転手が確認するような感じで鏡に映る自分を指差した。
鍵をかけて、家を出る。
最寄りから目的地であるワンダーランドまでは電車で1時間半くらいだ。時間に換算すれば長いが、たまたまではあるが、ワンダーランドの最寄りまで直通で電車が通っている。
現在時刻は7時40分。如月さんと待ち合わせの時刻である10時まではあと2時間以上ある。
普段は朝なんて辛いのが普通で、なかなか起きられないのも関わらず、今日は目覚ましが鳴る前にすんなりと起きることができた。
世の中のカップルはこんなワクワクを毎日のように感じて過ごしているのだろうか。今更であるが、俺もその仲間入りをさせてもらうぞ。
そんなことを考えながら、駅までの道を歩く。駅に着くと、目的の電車はすでにホームに止まっていて、中はガラガラであった。
しばらくして、電車が動き出す。電車内の生暖かい空気と、特有の揺れで眠ってしまいそうである。
絶対に寝過ごしてはならない、遅刻などもってのほかである。寝ないようにイヤホンに大音量のロックを流す。
音楽を聴きながら窓の外を眺めてみる。
停車するたびに車内にカップルが入ってくる。
そのカップルたちが電車内でイチャイチャするのを見て、いいなと感じつつも、本当に自分が如月さんとそんな関係を作り上げることができるのか、不安になる自分もいた。
俺は男としての魅力はあるのだろうか、如月さんが今回のデートをO Kしてくれたのは、話の流れ的に断りづらかったからではないのか?
考えれば考えるほど、ネガティブになっていく。
‥‥‥いや、だめだ、今日はとにかくポジティブに行こう。
朝あんなにやる気に満ち溢れていたことを忘れていた。今日で絶対に関係を進展させたい。
「次は、
ワンダーランドというワードが聞こえてきて、思わずハッとなる。
電車がホームに入っていく。と同時に、車内の乗客のほとんどが身支度を始めている。
ドアが開くと同時に、車内からどっと人が出ていく。俺も降り損ねないようにその流れに加わる。
その流れのまま改札を抜け、入場門から少し離れた位置に移動する。
携帯を取り出し、如月さんに到着したと送る。すぐに既読がつき、
「私も到着しています、どこですか?」
と返事がきた。
溢れんばかりの人、人、人。いくら知り合いと言えど簡単には見つけられない。さらに今自分がいる位置も正確に把握できていない。
近くにコンビニはあるが、ワンダーランド周辺だけでも四つコンビニがある。
どう伝えようかメッセージ画面で躊躇していると、電話がかかってきた。
「も、もしもし」
「おはようございます、今、どちらに?」
「い、今、門の近くに‥えっと、大きな噴水がある方のコンビニの近くです」
「噴水の近くのコンビニ‥‥。あ、、わかったような気がします、向かいますね」
「わかりました」
電話が切れる。それと同時に、俺は後悔した。
なぜ自分が迎えに行かないんだ。いつまでもお客様気分だと、うまくいくわけがないぞ。
気分を切り替えよう、これからは俺がリードするんだ。
「新谷さん?」
突然後ろから声をかけられた、振り向く。
如月さんだ。紺色のズボンにクマが描かれた白のプリントシャツに上からベージュのカーディガンを羽織っている。
「あ、如月さん、こんにちは」
「こんにちは、いい天気ですね」
「はい、で、では行きましょう」
2人で入場券売り場に向かう。
「すいません、大人2人、当日券で」
受付のおばさんに、右手で人数分の指を立てて意思表示すると、
「かしこまりました、大人2名で、13000円になります」
「はい」
俺はカードを差し出して、トレーに置いた。
おばさんは素早くカードをカードリーダーに差し込み、カタカタとパソコンに打ち込み、後ろの印刷機から出てきたチケットを取り、こちらに渡してくれた。
「お待たせしました、いってらっしゃいませ〜」
おばさんがこちらにニコニコ笑顔で手を振る、それに如月さんも笑顔で応えている。
俺たちは人の流れに身を任せて、入場門を潜り抜けた
電車で隣の女子に肩に寄りかかられたから起きるまで待ってたら俺の妻になりました。 にゃんちら @nyanchira
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