第21話 インスタント男磨き
今日は年明けの初めての土曜日だ。
如月さんと出会ったあの日から、もう2週間が過ぎている。
例の如月さんとの約束ではあるが、明日日曜日、場所はもちろんワンダーランドである。
基本スーツとスポーツウェアぐらいしかないことに今更ながらに気づいた俺は、外行きの服を買おうと思っていたが、仕事でなかなか時間が取れず、ようやく今日時間を取ることができた。
向かったのは最寄り駅から歩いて20分くらい歩いたところにあるショッピングモールだ。
ここにはレストランから家電量販店、雑貨、服、スーパーなど揃っている。
お目当ての服屋が入ったテナントは5階、6階である。
まず最初に入ったのは、カジュアル衣服店「ウニクロ」である。
日常的に使いそうな服からお洒落なメガネまで売っている。
店内をぶらぶら歩いていると、やたらと目につく広告があった。
「悩んだらコレで決まり! 冬のメンズコーデ」
と書かれた広告の下には、マネキンがそれらしきコーデを纏って立っている。
横の棚にマネキンと同じ服装が上下で置いてあったので、鏡の近くまで行って自分に合わせて見てみる。
……似合ってんのか? これ。
服なんて個人的にダサくなければ良い精神で適当に買って着ていたので、世の中の「オシャレ」という概念が俺にはわからない。
やはり、客観的な意見がなきゃな…。
まあ、自分で見てもオシャレかどうかはわからないけど、ダサい訳ではないような気がする。
無難にいくなら…いいかな。いや、それでは今日来た意味がないじゃないか。
とりあえず、他にも服屋はあるから、このコーデは保留しておこう。
そう思い、ウニクロを後にして、隣にある、少々イケてる雰囲気の服屋に入ってみる。
「いらっしゃいませ!」
元気の良さそうな女性店員が明るい笑顔で迎えてくれた。
ここはウニクロとは違い、若者が身に付けそうな服装重視のお店だ。
今度こそ、本当にわからない。どれも自分に合わなそうな感じがする。
俺が悩んでそうなのを感じ取ったのか、先程の女性店員が声をかけてきた。
「お客さま、どれで悩んでらっしゃいますか?」
これはチャンスだ、自然な流れでおすすめをチョイスしてもらおう。
「あぁ、なんか、オシャレしたいなーと思って、、探してたんですけど、なんか良いのありますかね」
「うーんと」
女性店員はそう言いながら、俺の方を舐め回すように見た。
「お客さまは…背が高いし、顔が小さいので、基本何でも似合うとは思いますが、おすすめと言われれば…これとか」
薦めてきたのは、白いフード付きの服とと黒いジーンズに橙色のジャケットである。
「前は閉じずに、白を見せる感じで、、後は、ネックレスとかも似合うと思いますが、なくても良いです」
店員に渡されたのを鏡の前で合わせて見てみる。うん、さっきよりなんか合ってるような気がする。
まあ正直、そんなのはわからないが、服のプロである店員がそう言うなら、合ってるのだろう。
「うん、似合ってますよ」
女性店員が言った。
うん、ならもう買うしかないだろう。
「ありがとございます、じゃあ、この3つお願いします」
「かしこまりました」
女性店員はそう言い、レジに向かって、ラッピングをしてくれた。
「お会計、1万500円になります。お支払いは?」
「あ、カードで」
「かしこまりました」
カードを店員に渡すと、すぐ返ってきた。
「完了しました。ありがとうございます、またお越しくださいませ」
俺はペコっと店員に頭を下げ、店を後にした。
……これで一万か。
ここで高いと思ってしまう自分がいる、そこの性格はなかなか変えられないものだ。
そんなことを考えつつ、腕時計を見てみる。
12時45分。
次の予定開始時刻まで残り15分だ。
そう、今日はもう一つ、美容院を予約していた。
髪が伸びてきたので、切ろうと思っていたが、どうせならおしゃれな髪型にしてもらおうと、予約した。
3階にある店舗を訪ねると、時間前ではあったが、前の予約が早く終わったとのことだったので早めに通してもらった。
椅子に案内され、待っていると、金髪の男性店員がやってきた。
「お待たせいたしました。本日担当させていただきます、中川と申します、お願いします」
鏡越しに挨拶されたので、俺も返す。
「お客さま、本日はどのような感じにいたしますか?」
どのような感じ…か、何がオシャレとかわからんからな、、。
「店員さんのおすすめでお願いします、でも切りすぎるのは控えてもらえたら…という感じです」
「わかりました」
店員さんは鏡越しに俺を数十秒見つめた後、ハサミを持って作業に入った。
俺は鏡越しの自分を小一時間見つめられるほど自分の事が好きではないので、テーブルの上の雑誌を取ってみる。
その間も「ウィィィン」というバリカンの音と共に、頭にかかる重量が軽くなっていき、何度かシャンプーにも案内された。
雑誌も終盤に差し掛かった時、
「お客さま、いかがでしょうか?」
店員さんに言われ、鏡を見てみる。
やる前とは一目瞭然だ、どこぞのアイドルみたいな髪型になっている。
「うおおおお…すげえ」
俺は思わず声が漏れてしまう。
「サイドは刈り上げて、少しだけ髪を残して隠れるようにしました、いわゆるマッシュヘアというやつです」
マッシュ? マッシュルームの形をしてるからか?
まあそんなことはどうでも良い、とにかく、カッコ良くはなっている実感がある。
「ありがとうございます」
俺はそう言って、5,000円近く支払い、帰路についた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます