天空戦隊

 見せ場、見せ場!

 こういうところでいいとこ見せないとずっと見直してもらえない!

 うおー!

 やるぞー!


《イリスとクーカも拾って、事情を説明して参戦してもらえ!》


「クーカちゃんもか?」


《戦えるなら、システム的にはあいつは見切り数少ない今のイリスより強えよ!》


「えっ、そうなのか」


 全力で走り、道中でイリスとクーカを拾っていく。

 軽い説明をしただけで、一も二もなく二人は頷いた。


「分かったよおにーちゃん! 見ててね、今日も私の大活躍!」


「魔族……! つ、強かったら、巨悪カウント一つ稼げますね……!」


「そういう動機で戦う人は俺も初めて見るな……ああ、そうだ。イリス、体調悪いんだろう? 俺の上着をその白赤ローブの中に着ておくといい」


「? ありがとう、おにーちゃん! ふふっ、おにーちゃんの匂いがする」


 ……?


 疾走すること、五分足らず。


 街の郊外に出た彼らは、高台に陣取る"鋼鉄のイタチ"のような、二足歩行の魔族と接敵した。


「お前か? こっちを見ていた魔族は。俺達に一体何の用だ」


「おうおう、マジで来るとはな……来るとは思ってたが、僕はマジで隠れてたんだぜ? まったくこわいこわい……まあ、もう終わったんだがね」


《何? ……こいつ、原作未登場のモブ魔族か》


「もう終わってるんだ、ゆっくり僕と話そうぜ」


 紫山、イリス、セレナ、メル、クーカに睨みつけられ、魔族はなおも悠々とした余裕を見せる。


 周囲に罠はない。伏兵もない。仕込みもない。それは女神の力で断言できる。


 何かあるとするならば、紫山らがここに来る前に、能力を発動してたなどの場合だろうか。


「ファンタスティックバイオレット。その能力は不明だが、ククッ。ヒントはあった。『全知の勇者』。お前のその腕輪……かの男の成れ果てとか。何もかも見通す恐るべき男。魔族にも恐れられた人間。真に全知ならば僕の企みなど何も通じまい。しかし……真に全知ならば、そもそもそんな腕輪になど成り果てていないだろうさ!」


《ゲッ……よく下調べしてやがる。こういう奴が一番嫌なんだよな……》


「その不完全な全知を利用させてもらったぜ」


《……!》


「僕の能力は説明が必要で、前か後かに当人への説明が要る。まあだから、もう発動してるわけだからあらゆる対処は無駄だ。僕の力は二択即死デスオルタナティブ。他人の二択の結果を予言し、予言が当たればその人物を即死させる。今回の発動対象はバイオレット、お前だ。スーツを着てない時のお前はやや優れた人間程度の耐久しかない。技が優れていても、肉体は普通だ。そして……お前は俺の予言に沿った行動をし、発動した力がお前を即死させる」


「発動したら、即死……!?」


《あークソが! こういうのがあるからクソゲーだってんだよ! 素直にエロ能力だけ使え!》


「僕の能力はあんまりにも確定した事象だと効果が薄くてね。客観的に、どっち選ぶか分からない二択じゃないと発動しないから効果がない。分の悪い賭けにしとかないと殺せないんだわな。そこで僕は考えたのさ。僕はバイオレットがどう不完全全知なのか知らない。じゃあ、その不完全全知を前提にした二択なら、僕はお前に能力を発動できるんじゃないか」


「……」


《不完全全知を前提にした……?》


「僕は能力を発動した。成功したよ。『奴はこのイリスとクーカのどっちに上着を貸すか?』ってね。不確定だろう? どっちに貸すかなんて客観的に分からないだろう? 分の悪い賭けだろう? だから発動した。でもな、僕は分かってたぜ。調べた限り、これまでのお前達の全知は、どっちが微妙に風邪気味かくらいは見切ってた」


《……!》


「本人に風邪の自覚症状もない時点で、見抜いて行動する。身体の奥まで見抜き、風邪気味の女の子に上着を貸す。ファンタスティックバイオレットは、二週間前にもそういうことをしてたからな。正義のヒーロー様は遠く離れててもそれを知り、必ず上着を貸すと思ってたわけさ」


 ああああ! 私の存在が与える恩恵を見切って、逆利用してくるなんて……!


「だから、僕の二択予言は必ず当たる。今回だけは絶対に。お前だから当たるんだ。他の奴相手じゃこんなに確信持って当てられないよ、僕は」


「……反則だな、お前は。これはまいった。殺されたのが仲間でなく俺で、幸運だったと思うべきか……」


「はっはっは、お前を殺せる以上の大当たりがあるかよ! 死ね紫野郎!」


「おにーちゃん!」


 紫山さん!


 魔族の手が、空間が、光って、能力が発動して―――紫山さんっ!


 ……。


 あれ?


「……死んでないな、俺」


「あれ? あれ? 僕の力が……なんで?」


《ん?》


「そんな馬鹿な! 僕の計算は完璧だったはずだ! お前は風邪気味のリムステラクーカに上着を……ん? あれ?」


「え?」

「え?」

「え?」

「え?」


《え?》


 え?


「おいちょっとファンタスティックバイオレット、横にどけ。お前が邪魔で後ろの女が見えてない。そうそうどいて。……あれ?」


《相棒が上着貸したのイリスだぞ》


「ああ」


「はあああああああああああ?!!?!?! 風邪気味じゃなかったろイリスは!」


「え……いや……俺に言われても……」


「私は嬉しかったから上着借りてただけだけど……」


《……オレはちょっと読めて来たぞ。おい、おい、おい、おい、聞こえてるだろ? 分かってるな?》


 ……すみません、なんか分かった気がするので、物凄い嫌な予感がしますけど、これまでの私の発言を掘り返してみます。




―――焦点合わせるまでは気付かなかったけど、二人の会話見てると、イリスちゃん風邪気味なのかな……? クーカちゃんが心配してる。お大事に。




 ……あっ。


 す、すみません! 間違えて二人を逆に言ってました!


 イリスちゃんがクーカちゃんで、クーカちゃんがイリスちゃんでした!


 私が目を凝らした時にちょっと風邪気味だと気付いたのはクーカちゃんの方です! クーカちゃんを心配してたのがイリスちゃんです!


《このボケ女神があああああああああ!!!!!!》


 すみませんすみませんすみません!


《結果オーライだがな! 二度目はねえからな!》


 すみませーん! 一生ダメ女神名乗ってますー!


《成長してダメ女神やめろって言ってんだよおおおおおおおおおおオラあああああああああああああああ!!!!》


 ごめんなさいいいいいいいいいいいい!!!!!!


「ま、まあまあ、結果として俺は助かったんだし、いいだろ」


 し、紫山さん……! 一生推します……!


《何億年推すつもりだよ》


 いや本当にすみません。

 反省はずっとします。

 ぐすん。


「ありえん、ありえん……ありえるとしたら、僕の企みすら見抜く全知で、ずっと演技していたとしか……!」


《……はっはっは! その通りだ! オレ達には全知の女神の加護がある!》


「全知の女神の加護だとぉ!?」


 中村さんが凄いハッタリかましてる。


 これ真実分からないから本当タチ悪いですね。


「さて」


 紫山さんが、皆に声をかける。


「お笑いの時間は終わりだ。そろそろ、本当の戦いを始めようか」


 そして、皆が紫山さんの左右に並び立った。

 白赤のローブの主人公。

 青髪の騎士の騎士。

 金髪の魔法使いの姫。

 桜色の髪の女の子。

 うん。

 やっぱり、これだ。

 人間だけで五人並んでいると、やっぱり見てて気分がいい。


「―――という風に名乗りをやればいいんですよ、いいですね? 分からなければ自分を真似て下さい」


「ひゃ、ひゃわ……本日初対面の名前も知らない人が、厳格に名乗りと動きの指導してくるぅ……」


「名前は名乗れば分かります。自分も名前を名乗るので、そこで自分の名を覚えて下さい。戦隊ニュービーさん」


《セレナが完全に戦隊に馴染んでて、後輩に名乗りの動きの指導してるの、なんかめちゃくちゃウケるな。これが流されやすい女》


「……腕輪さん。自分はそんなに気が長くないと知ってるはずですよね?」


《暴力はやめろ。今のオレはマジで手も足も出ないんだ》


 セレナとクーカと中村が声を掛け合って。


「ふふっ、セレナの色んな面が見れて、やっぱり外は楽しいですね。ね」


「そうそう! 私も田舎出てそんな経ってないけど……やっぱり知らない世界に出ていくのって、楽しいよね?」


「はい。本当にそう思います」


「さあ、行くよ! 楽しく勝ったるぞー!」


「ふふっ、そうできたらいいですね」


 イリスとメル姫が、ほわほわと楽しそうに話していて。


 セレナに詰め込まれた動きを覚えきれなかったクーカが、真ん中の紫山にどてっとぶつかる。


「ひゃ、ひゃわ……すみません」


「いや、まあ、そんな気負うほどのもんでもないと思うよ、俺は。名乗りは儀礼みたいなものだから」


「儀礼……どんな意味の、儀礼ですか?」


「"正義、此処に在り"。それを世界に叫ぶんだ。それだけだよ。戦隊の名乗りは」


「……正義、此処に在り」


 真面目な顔になったクーカが、紫山の横に並び立つ。


「素敵ですね」


「そう思ってくれたなら、いい仲間になれるさ、俺達」


 五人。紫、赤、青、金、桜の変則五色の戦隊。


『スカイクォンタムセット!』


「青天霹靂!」


 中村が声を上げ、紫山がスカイクォンタムを空の太陽に重ねるように、拳を空に突き上げる。

 そして、胸の前に降ろして構え、スカイクォンタム中央のエナジーボールを擦って回した。

 回転するボールからエネルギーが迸り、その全身を天空のエネルギーが包み込む。

 一瞬で変身は完了し、天に響くは正義の名乗り。


「慈悲の勇者、ファンタスティックバイオレット!」


『全知の勇者! ガモン・ナカムラ!』


 勇者の女神! アルナスル・アルタイル!


「頑強の勇者、セレナミリエスタ・アリカリア・アフェクトゥス!」


「正義の勇者、イリスエイル・プラネッタ!」


「氷河の勇者、メルウィーウィック・エブルトゥス・アマリリス!」


「……あ、もしかしてボクが名乗るの待ってます!? ええっと、蛇尾の勇者、リムステラクーカ!」


 混乱するクーカの横で、"一番乗りです"と言わんばかりに、姫が叫ぶ。


「天に雲!」


 "負けるかー"と言わんばかりに、姫に続いてイリスが叫ぶ。


「地には花!」


 そして、誰もが譲る形で、最後の言霊を紫山が叫ぶ。


「この手に正義の礎を!」


 さあ、行け!


 女神が敬う、正義の光!




『「「「「「天空戦隊! ファンタスティックVII!」」」」」』




 きっと。


 今日も、明日も、明後日も。


 この天空に、正義は在る。


 私は、そう信じている。

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えっちなゲームのヒロインちゃんと日曜朝ヒーローさん、とポンコツ女神様、とD○siteを極めたオタク君 オドマン★コマ / ルシエド @Brekyirihunuade

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