新たなる……敵!?
つまり、話をまとめるとこういう感じですね。
アマリリスは昔、世界筆頭の国だった。
けれど今、三大国家にも数えられていない。
アマリリスが誇れるものは伝統しかない。
だから一万年以上の歴史を持つ神器は使える使えないを問わず大事なものだった。
それを消し飛ばしてしまったのは、王族と言えど許されることではない。
しかし、功績があるのも事実。
よってメル姫とその子孫が王族を名乗る資格を剥奪する、と。
だから姫は城に居られなくなった……なんて姫は言っているけど、セレナ曰くそんなことは全然なく、姫は城で暮らしてても別にいいけど、世直しと贖罪のため街に出ることを決めた、と。
国と人に貢献し、国に与えた途方も無い損害を埋めるために生きていきますと宣誓し、周囲への示しをつけつつ、メル姫は私物を抱えて城を出て、この事務所を頼ってきた……と。
メルちゃん……皆を、紫山さんを助けるために……かわいそう……なんとかしてあげたいけど……なんとかできるものじゃないようにも感じちゃう。
ううっ。
でも半分くらいしたいことしてるだけですよね?
顔がめっちゃめっちゃに楽しそう。
《そういう話だな。原作でこんなん起こってるわけねえだろ……》
「腕輪様はいつも空と喋っていらっしゃいますね。ね」
《オレの中にはもう一人のオレがいるからな、一人相談も余裕よ》
「まぁ……」
こうやって普段から適当な口からでまかせ言ってると、中村さんが本当に失言した時も周りの人は簡単に騙されちゃうんですよね……本当に。
セレナは事務所の扉を通らないほどの大量の荷物(1tくらいありそう)を抱えてきていて、事務所の外に一時的に置いたそれを指差した。
「とりあえずミナアキ殿、これは姫様の私物です。貴族達からの贈り物が多いですが……高級なものゆえにそれぞれ特殊な管理と手入れが必要です。徹夜で全ての手入れ方法を暗記してきました。どうかお聞きください。まずは」
「運んでもらってるセレナに悪いから黙ってたのですが、これ全部さっさと売り払おうと思っています。資金にしましょう」
「何故!?」
「フフフ、それが一番バレずに合理的に沢山城外にお金を持ち出せるからです。あと面倒臭いですからね。ね。売り払って得た売却額は全てミナアキ様にお譲りします。それで何かしてほしいわけではありませんよ? 全ては善意で、厚意で、感謝の気持ちです。ミナアキ様のアマリリスへの貢献を見れば当然の報酬です。私はミナアキ様が私に優しくしてくれることを、これまでもこれからも疑いませんよ。ね?」
にっこりと、姫が可憐に笑った。
こわい。
「……ありがとうね、メル姫。でもそんな多くのお金は受け取れないな。ここにはいつまでも居ていいよ」
「まあ……無欲な方ですね。私、改めて心酔してしまいそうです」
《この女、こういう所マジで油断できねえんだよな……恋人にするのは絶対に嫌だが、仕事仲間には欲しいタイプ》
「勇者登録を行い二つ名もいただいてきました。ふふっ、あの楽しそうな名乗り、見ていて参加してみたかったんです」
《こ、こいつ……》
わ、分からない……|言葉の裏の意味が……でもたぶん目を凝らすと見える高度な心理戦が行われてる気がする……!
メル姫が口元に手を当ててくすくす笑ってるのを見ると、なんだかなんでもかんでもごまかされてしまいそうな空気がある。
「騎士として忠言致します。しかしですね、姫。他に選択肢もあったのでは。たとえば宿だって他にいくらでもあるわけですし。高級宿、ないし普通の宿でも適当に泊まる選択肢はありますし、変な噂を立てられる可能性も無い分いいのでは……」
「治安の悪い時に女一人で宿に泊まるということは、男に体を差し出すのと同じですよ、セレナ。世間を知りなさい」
「!?」
《こいつ……! この世界の真理を……! セレナより遥かに優れた判断力……!》
「!?」
《流石だな、確かに原作でもお前にそういうエロは無かった……普通に宿に泊まって眠ってる間に男に襲われ処女を失うセレナ並の女どもとはレベルが違う……》
「ふふっ。大袈裟ですよ、腕輪様」
「俺、ゲームやってるマルからは宿は回復施設だと聞いてたんだが……回復のために泊まるとか……違うんだな……」
《宿屋の主人に襲われた女主人公マジ100人以上居ると思うぞこのゲームジャンル》
ふにゃっと微笑んでいる姫様を、セレナはずっと心配そうに見ている。
心配するのも当然だろう。
たぶん、姫よりもセレナの方が危なっかしいところがあったとしても。
「それに、私が城を出ることには他の意味もあります。テルーテーンが勢力を増したのも……お兄様と私のどちらを擁するかで、貴族派閥が別れたというのがあります。テルーテーンは一応ですが、お兄様を支持していました。それが崩壊したのが今です。今、私を推せば、一発逆転で次代の女王の後ろ盾筆頭になれる、権力を握れる……そう思う人間も出て来ます。しばらく私は国政から離れた方がいいのです」
「……そっか。君も苦労してるんだな。お茶をいれるよ、まずは少し休むといい」
「ありがとうございます。ミナアキ様の眼差しは、いつも優しくて心地良いですね」
お茶をいれている紫山の手首から、ブレスレットが姫に語りかける。
《ま、正解だったんじゃねえか。お前宮廷闘争向いてねえよ。一生苦労するだけだ》
「……そうでしょうか?」
《お前、政争が得意なだけで政争してる内は幸せになれねえ女だからな》
原作プレイヤーならではの重さを感じるコメントですね。
《ケッ。まあいい。セレナ、王はどんな感じだった?》
「自分が見る限り、姫様に感謝していたようです。あと、姫様が大暴れするのも予測しているように感じました。姫様は放っておけば色んな案件に首を突っ込む。そこで功績を上げたならば、姫様に恩赦を出し、王女に戻すことも可能だと……」
《なーる。方針としちゃ危ういが、セレナ付けとけば安心ってわけか》
「そうですね。……自分も今はそこまで自信はありませんが。鍛え直さないと」
ぎゅっ、と、セレナは私服のズボンを強く握った。
《おーがんばれがんばれ》
「俺も付き合うよ。一人じゃ強くなれないからな。日々の鍛錬こそが強さの下地だ」
コトッ、とお茶がテーブルに置かれる。
「あ、ありがとうございます、ミナアキ殿……あっ、暖かい……」
「ありがとうございます、ミナアキ様。今度は私がいれた紅茶をご馳走しますね」
「楽しみにしてるよ。……ん?」
《どした?》
どうしました?
「いや……なんだ……勘だな。勘。何かまた来てないかな、悪の気配……みたいな」
「?」
「?」
「肌が……とにかく、何か居る気がする。俺の気のせいだといいんだけど」
《気配を隠してる強い魔物かなんかか? ま、すぐに分かるだろ》
私がいますからね!
視界を広げてみせます。
どどん!
……あ、イリスちゃんだ。
クーカちゃんもいる。
あ、そっか、クーカちゃんは依頼人だから、たまたま会って雑談でそういう話題になって、そこで気付いたら、依頼人と請負人の会話になるんだ。
イリスちゃん流石だなあ。
もうクーカちゃんと仲良さそう。
じゃあもう依頼の話は伝わってるのかな。
あれ。
焦点合わせるまでは気付かなかったけど、二人の会話見てると、イリスちゃん風邪気味なのかな……?
クーカちゃんが心配してる。お大事に。
街中にそれっぽいのはないなあ。
依頼の酒場周り?
……違うか。
ちょっと街の外まで……ん!?
街の外!
上級の魔族が居ます!
魔王クラスではないです!
隠蔽と遠視の魔法で、高台から姿を隠してこの事務所を見ています!
「魔族か。じゃあ、戦闘だな」
「!」
「!」
《悪いがメル姫、セレナ、ちょっと手を貸してくれ》
「はい!」
「是非!」
《ここぞという時にそつがねえな、相棒。前も言ったが、女神の消耗を抑える方針で行く。本気の戦闘の衝突エネルギーをスカイクォンタムに溜め込み、解放。それで巨大ロボを呼び出すシステムにした、いいな? つまり今回の戦闘では溜めが間に合わず、巨大ロボは呼び出せねえ。今回溜めて次で使う。白兵戦で片付けろ》
「ああ、分かってる」
それぞれが戦闘装備を装着し、事務所を飛び出した。
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