後編 縛られて、縛りつけて。
その日の夜。
両親が帰ってきて、ごはんとお風呂を済ませ、夜遅くなったのでそろそろ寝ようかと思い、ベッドに入って仰向けにして寝る態勢になる。
明里とは別の部屋だから、ひとりで考え込む。
色々と考えることはあるけど、色々ありすぎて考えるのも疲れちゃったかも。
もう寝よっかな。あとはどうにかなるさー。
★ ★
やった、やった。お姉ちゃんがわたしの気持ちを受け入れてくれた。
お姉ちゃんがわたしのことを好きになってくれさえすればいいんだよね。
それじゃあカラダでわからせちゃえば……
ううん、だめだめ。いきなりそんなことしちゃったら嫌われちゃいそう。
じゃあどうすればいいんだろ。ぎゅーってしたっていつもと一緒だし。
いっぱい好きって言うとか?
でもお姉ちゃんからしたら、わたしが普通に好きって言ってもあんまり心に響かなさそうなんだよねー。
なら愛してるとか?
うーん、愛してるって言葉だけ言っても伝わらないと思うしなー。
もっと、こう、心に響かせる何かを、何かを……
あー、ちょっとわかってきたかもしれない。好きって言っても愛してるって言っても響かなさそうな理由が。
お姉ちゃんからしたら、わたしが妹だって認識してるからだめなんだよ。
ひとりの女の子として見てもらわないと。
いや、お姉ちゃんは男の子が好きなんだからそれも違うなー。
ひとりの大切な人として見てもらわないとだめなんだ。
そしたら男の子とか女の子とか姉妹とか、そんなの関係なくなるもん。
それじゃあ大切な人ってどういう人なんだろ。かけがえのない人。いてくれないと困る人。わたしがお姉ちゃんにとってそんな人になればいいんだ。
わたしにもいたなーそんな人。お姉ちゃんの前にも。あやめちゃん。
中学の時はすごく仲良くて、ぎゅーしても許してくれて、高校も一緒になったけど。高校に入ってからはぎゅーしたらすごく困った顔されちゃって。きっと周りの目を気にしてたからなんだろうけども、そこから
その時、わたしはすごく辛くて。でも、お姉ちゃんだけはぎゅーを許してくれた。
それでお姉ちゃんのことを好きになっちゃったんだよね。
振り返ってみると、あやめちゃんを失ってからその大切さに気付いた気がするなー。
てことは、もしかしてお姉ちゃんもそうなのかな?
お姉ちゃんとわたしはこんなに仲いいんだから、わたしのこと大切だと思ってくれてるはずなんだけど。でも、お姉ちゃんの態度見てたらあんまりそんな感じしないというか、妹の枠でしかないというか。わたしがいつもぎゅーしてるのが当たり前だと思ってるんだ。
じゃあわたしがお姉ちゃんにとって必要な、大切な人ってことをわからせてあげないといけないんだ。わたしの存在が当たり前じゃないんだよってことを。
だったら――
☆ ☆
おふとんあったか。ぽかぽか。
がちゃ。
がちゃ?
ドアを見ると明里がこっそりと私の部屋に入ってきていた。
きっとこれから明里が色々私に何かするんだろうなー、と思っていると明里が口を開く。
「お姉ちゃん、大事なお話があります」
「どうしたの? そんな改まって」
「今日からわたしはお姉ちゃんとぎゅーしません」
いやいやいや、さっき告白したのは明里でしょ。なんでそうなるの。
「え? それおかしくない? だって明里は私のこと――」
「大丈夫です。お姉ちゃんがこの時間帯にわたしの部屋に来てくれたらぎゅーしてあげます。わたしからしないってだけです。別にしないって言ってるわけじゃないから、いいよね?」
「なにそれ意味わかんないんだけど。勝手にしたら?」
「じゃあそーゆーことで」
そう言いながら、明里は逃げていくように私の部屋を去っていった。
ふざけないでよ。私のこと好きって言っておきながらこんな仕打ちしてくるなんて。いや私から明里の部屋に行けばしてくれるって言ってたけど、好きでもないのにわざわざ行くわけないじゃん。
せっかく明里からの好意を受け取ろうとしてたのにひどい。
ひどいことはしちゃだめって言ってたのに。いやまあ私が行けばしてくれるならひどくないのか? うん? よくわからなくなってきた。もういいや。
いたい、いたい。
坂本くんにフラれて、明里にも突き放されて。
また今日も泣き続けないといけないんだ。
はぁ。ヤダな……
☆ ☆
次の日。
明里はまるで人が変わったように私に懐かなくなった。全然抱きしめてくる気配がないし、会話もすぐ途切れる。意味わかんない。
夜になった。
ベッドで考え込む。
何かが足りない。いやまあ明里なんだろうけども。今、明里の部屋に行けばそれは補充できるものなんだろうけども、別に足りないからってどうってことはない。
今日も泣いてこの気持ちを済ますだけ。
また次の日の夜。
泣いてばっかりで段々つめたくなってきた。明里の部屋に行けば暖めてくれるのだろうか。きっとそうなんだろうけど、なんか負けた気になるし、こんな目に遭わせた明里がちょっと嫌いだから行きたくない。
いいよ別に。泣けば済むもん。
その次の夜。
坂本くんにフラれた傷がこんなにも癒えないものだとは思わなかった。こういうのって時間で解決するんじゃなかったの? なんでよ。
あと、明里が私のこと抱きしめてくれないのもなんでってなる。抱きしめてよ。
あかり……
明里の部屋に行けばしてくれるのかな?
それってすごく魅力的かも……
でも今更だし……
今日は泣こう……
次の夜。
私は心に変なものを抱えていた。
心が明里を求めてるのがわかる。頭で考えるとか、そんなのすっ飛ばして直接心が感じる。
なんだか息も荒くなって、どうにかしちゃってる。
明里のことを考えるだけでこうなっちゃうんだから、もうおかしくなっちゃたみたい。
これって好きの気持ちなのかな。
明里のこと好きになっちゃったのかな。
でももうこんなこと考えてるよりも早く明里の部屋に行きたくてしょうがない。
あかり……あかり……今行くからね?
未だに私の息は荒くて、まるで夜這いでもするみたいに明里の部屋まで来てドアを開ける。まるではいらなかったかもしれない。これは夜這いだ。あかりと無茶苦茶になりたい。
ドアを開けた先、ベッドにいた明里が声を抑えて泣きじゃくっていたのか、ティッシュで鼻をすすっている様子が目に入る。
「お姉ちゃん! お姉ちゃんだ! お姉ちゃん……うっ。お姉ちゃん……」
「明里、ごめんね? ごめん。でももうこんな思いしなくていいからね」
明里は体を起こす。私は膝立ちになって明里に近寄り、肩の上から抱きしめる。
明里の腕も私の背中に回される。
暖かい。すごく暖かくて心地よい。
私が求めてたのはこれだ。
当たり前だと思ってたこの行為だけど。全然当たり前じゃなかったし、もうこれが無いと生きていけない体なんだってことを身をもって実感した。
それを実感して私にとって明里はどうしても必要な人だってことがわかって、他の感情まで混ざるようになってしまった。多分この感情は好きっていうんだろう。
だって今にもキスとかしたくてしょうがなかったりするし。意味わかんないよね。姉妹でそんなことしたいって思うなんて。でもそう思っちゃったんだからしょうがないよね。
私は一度少し離れて明里の両肩に手を置く。そして目を合わせる。
「好きだよ」
「え、あ、え、え、お、おお?」
明里が混乱してて、暗くてちゃんと目は見えないけど、完全に目がぐるぐるしてるよねこれ、と思いながらも明里のその反応にすごく嬉しくなる。
まだ何か言ってる。
「あ、え、はい! わたしも、わたしも、わたしも、お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん、すき、すき、すき、うぅ、うぇ、う……。えと、泣かない、泣かないぞ。その、わたし、こんなんでしか、わたしのこと、好きにさせる、ってのできなかったけど、こんなわたしでもいいの?」
今更そんなこと言われてももう遅いよ。もう明里がいないとダメになっちゃたんだもん。
「いいよ。むしろ私こそいいの? 坂本くんの時はあんなのだったのに。重いかもよ?」
「いい。全然いいよ。好きなだけ、お姉ちゃんの気が済むまで、私に執着してほしい。わたしもそうしちゃうかもだけど。今だって、もっとお姉ちゃんがわたしのこと好きってことを、ちゃんとわからせてほしいって、そう思ってて……」
「わかった。じゃあ……めーつぶって?」
「うん!」
私は欲望のままに明里に口付けをする。
何かがものすごく満たされる。お互いにお互いのことしか考えず、お互いのことを求めて。これ以上の幸せなんてどこにもない。
欲望の塊となった私の口からは舌が伸びてきて、明里もそれを受け入れてくれる。
暖かいものが口の中に入ってきて、口の中を侵されて、ひとつになった感覚が生まれる。明里とひとつに。頭の中が気持ちよくなってきて。
明里も同じようになってるんだろうな。だって私の舌も、明里の舌も、同じように相手を求めるために必死に動かしてるんだもん。
そう気付くともっと気持ちよくなってきて、何も考えられなくなってきた。
お互いに強く求め合うことってこんなにも幸せなんだ。こんな私で、こんな明里で、本当によかった。
私も明里も錆びた鎖がぐちゃぐちゃに巻き付かれた中、ひとつになっていた。
もう離れられない。でも、それでいいと思う。
大好きだよ、明里。
縛りつけたい、私のもとへ。 だずん @dazun
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