醜い子
小説さん
醜い子
みんな知っている、ミィちゃんは醜い。私だってそう思う。醜い子は生まれたときから損をしている。だってミィちゃんはいつも泣いているから。この間も女子たちに教科書を隠されて、廊下で泣いていた。それもやっぱり醜いからだ。隅っこでうずくまっているミィちゃんの背中を、私はなでてあげた。ミィちゃんは、私を親友だと思っている。
「ずっと友達でいてね」そう言ってミィちゃんは笑った。私はぱちぱちと二回瞬きをしてから、同じように笑って見せた。ミィちゃんはうれしそうだった。
私は一日のだいたい半分くらいをミィちゃんと過ごし、もう半分を他の女の子たちと過ごした。ミィちゃんが居ないときはその醜さについて、みんなとたくさん笑いあった。ミィちゃんの事が嫌いなわけではないけれど、それ以上に私は自分が可愛くてたまらなかった。
ミィちゃんはいつも笑いながら、ウソの笑いが出来ないからいじめられるんだと言っていた。泣いていないときのミィちゃんは、太陽から生まれた子共みたいに元気で活発だった。はきはきとしゃべるし、自分の意見もはっきりと言える。自分にウソはつきたくないんだと、いつも言っていた。そういえば教室で一番可愛い女子に意見を言ったときからいじめは激しくなっていったように思う。でもやっぱり醜いからミィちゃんはいじめられてしまうんだと、私は思っていた。
ある日、ミィちゃんがいつものように廊下で泣いているのを発見した。後ろからそっと声をかける。ミィちゃんが振り返った。
「大丈夫だよ」
ミィちゃんがそう言って笑った。真っ赤にふくらんだまん丸のほっぺたを左右に引っ張ったような笑顔だった。心臓が一回り大きくなったみたいに、どきんと鳴った。
「大丈夫だから、一人でも」大粒の涙を流しながら、ほっぺたをぐいともちあげたミィちゃんは、私の目を見ずにそう言った。
ウソの笑いだ。
ミィちゃんはそのまま私に背中を向け、ゆっくりと歩いていってしまう。鼻がつんとして、私の目から涙がぽろりと落ちた。
ミィちゃんは醜い。でも、私はその笑顔が大好きだった。ミィちゃんはもう、私に笑いかけてはくれない。灰色をした雲の気配に気が付いて、その身をとおくへ隠しこんでしまった。広がった雲はただざあざあと、冷たい雨を落とすことしか出来ないっていうのに。
醜い子 小説さん @syousetsusan
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