第8話 異常個体

 ユーマが兵糧部隊に配属になってから1ヶ月程経ったある日、彼の所属する第4軍団/第1師団/兵糧部隊に仕事が舞い込んだ。基本的に第4軍団は従属していない村への侵攻が主な任務なのだが、比較的近くにある都市【オルクス】の軍がビギンに従属している村へと侵攻を始めた。

 奇襲とも言える侵攻は軍部も予想しておらず、都市防衛が仕事の第1軍団を除いて主要部隊は出払っていた。そのため第4軍団に村の防衛、余裕があれば逆侵攻することが命じられたのだ。

 第1軍団/第1軍団の遊撃部隊は先んじて村へと赴いたのだが、村人を奴隷のように扱って村の防御を固めていたため、攻撃は本隊の到着後となった。


「私たちの仕事は兵糧の運搬!しかし今回の侵攻ではかなり軍を分散させているとの情報が受けたため奇襲には注意して!!もし奇襲を受けたら死ぬ気で兵糧を守って前線へ届けて!!各自兵糧を積んだら出発するわよ!!」


「はっ!!」


 カリーナ少佐の号令の終了と共に兵糧部隊のメンバーはテキパキと動き出した。それは新人であるユーマも同じだ。ユーマは自分の教育係についたラトナ二等軍曹と共に大量の兵糧を木製のリヤカーに似た運搬車に積み込み始めた。

 若いラトナ二等軍曹とユーマが一緒にやって、他の隊員と同じ速度なので、やはり仕事とは経験が物を言うのだろう。ユーマがそう考えているとラトナ二等軍曹に袖を引かれたので彼女の口元まで耳を寄せた。


「初めての外での仕事だけど私たちが接敵することは殆どないから気にしなくていいよ」


「了解です」


 ラトナ二等軍曹は初めてビギン外での仕事を行う僕のことを心配して言ったのだろうが、僕自身は外での任務に特に思うことは無かった。それは僕が直接ではないとはいえ同じ村の仲間が死ぬのを目の当たりにしているからだろう。

 兵糧部隊のみんなが死んだら泣くだろうが、後に引きずることはないと思っている。だからこそ気を楽にして任務に挑めているからそれは良いことなのだろう。ただノビアさんが亡くなったら悲しみ、後にも引きずってしまう。


「積み終わったからカリーナ少佐の所へ行ってくるね」


 ぼぉーっと考えているうちに兵糧を積み終えていたらしい。彼女が急に耳元で声を出したので少しビクッとしてしまったが、彼女には気付かれていないと思いたい。


「では我々兵糧部隊は、都市オルクスに占領されし村を目標に進む。くどいようだが、奇襲には各々警戒を怠らぬように」


 そうして僕ら兵糧部隊は村へと進む第4軍団/第1師団本隊の後を追うように足を進めた。

 リアカーモドキを引きながら森の中の舗装されていない道を進むのは、かなり難しいのだが、カリーナ少佐をはじめとした先輩方は楽々と進んで行った。彼女たちに遅れないように僕もを進んで行った。


「ラトナ二等軍曹、何か変じゃないですか?」


「?」


 今進んでいる森に何か違和感を感じているのだが、違和感の正体が分からなかったため、カリーナ少佐には伝えることが出来なかった。取り敢えずラトナ二等軍曹に尋ねてみたのだが、分かっていない様子だったので、自分の思い込みなのだろうと思い始めた。


 ――ユーマの警戒が緩んだ瞬間森から木が揺れた音が聴こえた。


 そうだ!!どうして森で過ごして来たのにも関わらず気付かなかったんだ!森が静寂に包まれていることなど有り得るはずがない。鳥のさえずりや動物が草を掻き分けて進む音など、何かしら音は聴こえてくるはずだ。それがしない時は動物が寝ている深夜、もしくは動物や鳥が恐れる何かが居る時!


「カリーナ少佐!この森には何か居ます!!」


「何を言っているのだユーマ伍長?何かいるのに静かなのはおかしいでは無いか」


「逆なんです!静かだからこそ強いなにかが――」


 僕が説明を終える前に森の奥から大きな咆哮が響き渡った。その咆哮は森の木々が軋むほど大きくかなりの圧があるものだ。経験したことの無い圧にカリーナ少佐含めて兵糧部隊全員が身体を動かせなくなっていた。

 そして森の木々を薙ぎ倒しながら逃げることも叶わない僕らの前に現れたのは超巨大な鹿だった。しかもただデカいだけではない、奴の角はバリバリと音を鳴らしていた。まるで帯電しているかのように……。


「まさか……異常個体が出てくるなんて……!!」


 カリーナ少佐が奴の正体について知っている様子だった。その情報を共有しておきたいのだが、奴はそんな隙を許してくれるはずがない。

 僕は萎縮してしまった身体に鞭を打って、【変態】が使えるように準備をした。


「ユーマ伍長!!挑発するようなマネはやめなさい!!いくら野生の力があるからと言って、あれは勝てるような相手ではない!!」


「ですが、逃がしてくれるような相手でもないはずです」


「……だから私が殿を務める。その間に貴方たちはビギンの街に戻って第1師団の精鋭部隊を連れて来なさい!」


 僕は納得出来なくて自分も戦うために変態を使おうとした瞬間、ラトナ二等軍曹に首をトンと叩かれた。意識が段々と遠のいていくさなか、鹿に向かっていくカリーナ少佐の姿が見えた。1番大柄な隊員が僕のことを背負い街の方へと逃げた。それを最後に僕の意識は暗闇へと消えていった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

ここからはあとがきです。


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ヒトの変態 Umi @uminarou

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