Bloody Mary ~Close~

”Recipe

ウォッカ 45ml

トマトジュース 適量

レモン 1/8カット

セロリスティック 1本


”氷を入れたタンブラーにウォッカ、トマトジュースを入れてステアする。

レモンを飾り、セロリを入れる。

お好みでブラックペッパーやタバスコを入れる事もある”



『来夢…凛音に知らせなくていいの?』

『知らせたら綾香はイレギュラーを引き起こすぞ?言えるのか?』

『そ、それは…』


来人は返す言葉がなく、俯くしかない。


「「刹那」の事、頼むわ。俺だけじゃ対応しきれない事が多すぎてね。

特に「刹那」の色恋沙汰に干渉する気はない。今、あいつはそれで悩んでるみたいだが…」

『色恋沙汰?もしかして凛音には好きな人がいるとか?』

「ああ、いるね。相手も知ってる。でも俺は何もしないと決めた。相談にものらない。それが相手との約束だからな」

『女は恋に悩み、男は人生に悩む…昔の奴はよく言ったものだな』

「哲学は俺の得意分野じゃねぇよ」


残った電気ブランを一気に煽ると龍影は最後にこう告げた。


「そろそろ俺は中に戻る。「刹那」が起きたら後は頼むな。

あ、それから電気ブランを飲んだ事、「刹那」には内緒だからな。

グラスしまって、ソフトドリンクでも出してやってくれ」


それじゃ、と言うように手を振ると、カウンターに突っ伏して、

龍影は眠る様に深層心理の奥底に沈んで行った。


『来人、綾香の「闇」は俺等だけでは打ち祓えなさそうだな…』

『多分、龍影の力も借りないとだめなのかもね…』


そう言いながら、来人は電気ブランの入っていたグラスとビールの入ったグラスを下げる。トマトジュースでも用意するか…だったらあれが良いかな。

来人はグラスを用意して氷を入れ、ウォッカを少なめにしてトマトジュースを入れステア。

そこにブラックペッパーを加えてレモンを飾り、セロリスティックを添えてカウンターに置く。


『凛音、起きるかな?』

『綾香ならもう少しで起きるだろうよ…まあ、このままにしておいてやろうや』


来夢はそう言うと、おくからブランケットを取り出してカウンターで寝ている綾香にそっとかけた。


妙に頭が痛い。強いお酒飲んだ覚えがないのに。

目を開けると、あたしはカウンターで寝ていたようだ。

周りを見るが、お店の照明は暗い。

ところどころにある蝋燭の明かりだけが店を彩っている。


「ここって…来人の所?」


その声に反応したのは、包丁を片付けている来夢だった。


『お、起きたか。色々抱え混んでんな、相変わらず…』

「来夢?っ…頭痛い…」

『風邪でも引いたか?薬もってるんだろ?綾香』

「持ってる。カロナールがあるかな。ロキソニンもあると思うけど…」

『来人、呼んでくる。その間に飲んどけ』


そう言って、目の前に水を出すとカウンターの奥へ消えて行った。

頭が痛いのは何でだろう?お酒は飲んでないし…

もしかして気圧のせいかな?そんな事を考えながらロキソニンを飲んだ。

カウンターの上を見るとセロリが刺さったカクテルが置いてある。

何も考えずに一口飲んだ。

飲みなれないウォッカの味に噎せそうになる。


「これって『Bloody Mary』じゃないの!あたしは『Bloody Sam』が飲みたかったのに…」


ちょっと文句を言いながら、目を閉じて2口目を飲むと、

Indigo Blueの空に皆既月食の月が浮かぶのが見えた。

隣にはどこかで見た事のある面影の人…でも思い出せない。

誰だろう?考えると声が聞こえた。

「「刹那」、たまには俺を頼れ、俺に助けを求めろ、俺に縋りつけ。

1人で何でも解決しようとするなよ。いいな」

そう言うと、隣にいた人はあたしの頭を撫でて、八重歯の見える笑みを浮かべ、

紅い羽根を羽搏かせて、月に向かって消えて行った…


「もしかして。今のはあたしの「Knight」?」


ゆっくりと思い出した。何かあった時はすぐにあたしの「楯」になってくれた

「Knight」がいた事。いつも喧嘩ばかりしてたけど、一緒にいてくれた事。

両親が死んだ時も、一緒に悲しんでくれた事…総てを思い出した今、あたしは泣いていた。

ちょうどその時、来人と来夢がカウンターに戻ってきた。

泣いているあたしを見て驚く来人…


『凛音、どうしたの?そんなに頭痛い?』

「違う。昔のこと思い出したらなんか勝手に泣いてるの…」


来夢は全部知っているという顔をしながら眼鏡を直して呟く。


『なあ、綾香…「龍影」ってやつ、知り合いか?』

「「龍影」……名前は分からないけど、昔から誰かが傍にいるのは分かるよ」

『そっか…ならいいや』

「何か気になるなぁ。「龍影」って誰?名前を知ってるって事は、ここに来た人でしょ?あたしも逢いたかったなぁ…」

『またそのうち来るだろうよ。その時に逢えるんじゃねぇか?』


逢えないのを承知で来夢が言う。来人はその言葉に少し悲しげな顔をしている。


「来人、これ『Bloody Sam』じゃないよ。『Bloody Mary』だよ」

『うん、そうだよ。何時もジンベースのカクテルしか飲まない凛音だからね。

たまには違うお酒も楽しんだ方がいいと思ってさ…』

「そうなんだ…ありがとうね」


気が付いたら、涙は何時のまにか流れるのをやめていた。


「さっき変な夢見てた気がする…」

『変な夢?』

「うん、誰かがあたしの頭を撫でて、皆既月食の方へ飛んでいった夢…」


来夢は夢の内容を理解しているのだろう。ふっと微笑む。

来人は言葉を聞いて頷く。


『きっと凛音の事、心配してくれている人がいるんだよ』

『もしかしたら兄貴でもいるんじゃねぇの?』

「あたしには兄弟はいないよ?」

『じゃあ…お前の理想の恋人か?』

「そんな人もいないってば!」

『もし彼氏が出来たら、紹介しろよ?』

「何で来夢に紹介しないと行けないのよ!」


相変わらず、この3人が集まると「Pousse-Cafe」はにぎやかだ。


色を失い、悩んでいる人がいるならば、七色のCocktailの名前の付いたBARが現れる。そのBARの名前は「Pousse-Cafe」。

失った色彩を見つけ、心の闇を晴らしてくれる双子の店員のいるBARが、

あなたを助けるために、その扉を開きます…


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Pousse-Cafe 刹那(せつな) @Setuna_13

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ