2日目

 次の日、安い割に海が見えるホテルの窓際の机に座り、二人で朝食の菓子パンをかじりながら今日の予定を話し合った。

 今日の夜に花火大会があると、フロントの掲示板にあったのでメインイベントはそれで決定。それまでは3駅先のショッピングモールで時間を潰すことにして、明日始発の電車で帰れば説教くらう時間を含めてもギリギリ始業式に間に合う計算だ。


 その後、予定通り電車に乗り、ショッピングモールやその周辺を歩いて夜まで時間を潰したが、すでにアホみたいな量の荷物を持っているやつを買い物に連れて行くことの危険性をもう少し考えておくべきだった。帰る頃にはすでに3つある鞄に、追加で服やらなんやらが詰まった紙袋が5つ付いてくる羽目になった。


 再び電車に乗ってホテルがある駅まで戻ってくると、この大荷物を置くために一度ホテルに戻り、ついでに「花火ならこれがなきゃね!」と夏帆が購入していた浴衣に着替えて会場に向うことにする。

 会場だという浜に向かって歩いていると、地元の人らしい家族から、旅行客らしい外国の人まで様々な人が同じ方向に歩いていた。

 浜に着いて、少し引いたところからみようと一段上がった土手の道を歩いていると、ふいにいつかに聞いた高い音が響いた。

 音の方を見ると、海の上から一筋、光の線が引かれていった。そして、

―ドンッ―

 腹の底から響くような重い音と共に薄暗かった砂浜が明るくなる。

 空には大輪の光の花が咲いていた。船から打ち上げているのか、海の上から次々に光が伸びていき、花開いてゆく。

「綺麗だね」

「うん、本当に」

 隣でした声に返事を返すと、ふと右手になにかが触れた。

「どうした?」

「ん?なんとなく」

「そうか」

 視線を上にあげたまま夏帆の手を握り返す。

「花火ってさ、すぐに消えちゃうじゃん?」

「そうだな」

「だから綺麗なんだろうけどさ、ちょっと、寂しいなって」

 そう言うと、夏帆は少し開いていた二人の間を詰め、肩が当たるくらいまで寄ってきた。

「私達の夏休みも、もう終わっちゃうし、そしたら無くなっちゃうし、寂しいなって」

 珍しくテンションの低い夏帆に、思わず言う。

「でもさ、さっき夏帆も言ってたろ、だから綺麗なんだって。それに、無くなっちゃう訳じゃないだろ、覚えてたいから焼きつけときたいから、なんつんだろな、しっかり噛みしめんだろ。だから、綺麗なんだと思う」

 すると、夏帆は「うん」とだけ小さく頷いて、俺は手を握る力を少しだけ強くした。

「今しかないから、好き勝手やんだろ。だからここに来たんだし」

「そうだね、そうだよね。今やんなきゃね」

 俺が続けて言うのに、うんうん頷いていたかと思うと、急に夏帆が言った。

「じゃあはい!やりたいこと一つ!」

「急になんだよ」

「あれやりたい!射的やりたい!」

 すっかり元に戻った夏帆が、ピョンピョン跳ねながら指さす方を見ると、いくつか出ている出店の中に、確かに射的の屋台があった。

「しょーがねぇな、行くか!」

「おう!いくぞぉー!」

 そして、謎のセンスを発揮した夏帆のおかげで、また大きめの紙袋一つ分荷物を増やしてホテルへ戻った。

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