第一話 事件前日(1)

「刑事課から仕事が回ってきたぞー。どうも相手は元政治家の秘書、厄介なお客さんだ。気を引き締めて捜査に励んでくれよ。」

 憂鬱な朝、課長室に呼び出された俺は気色の悪い笑みを浮かべた課長に面倒ごとを押し付けられていた。なにやら事件を刑事課から引っ張って来たようだ。しかも、どうせまた会議で捜査に参加できないで凛に任せきりになるのだろう。

 「どんな事件なんですか。赤間に早く伝えないとまた文句言われるので。」

 嫌味たらしく課長に言う。しかし、課長は何を企んでいるのか課長は気色悪くにやつきながらこちらを見ている。いつもそうだ。課長も俺をよく思っていない。急ぎの捜査をわざわざ引っ張ってきたり、忙しい中事件を引っ張ってきたりガキのような嫌がらせをしてくる。今回も例に漏れず何か裏があるのだろう。

 「赤間君か。本当に君たちは仲いいねえ。お互い優秀だからねえ。切磋琢磨したまえよ。」

 質問の答えになっていない。俺はいらいらし始める。

 「で、どんな事件なんですか。」

 イライラが伝わったのか、課長はにやついた顔を引き締めこちらを睨みつけた。

 「まず、今回の指揮は井野、お前が取れ。いい加減上がうるさいんでな。係長なのにチームの指揮をとらないとは何事かだとよ。気を付けろよ井野。係長の座、誰かにとられるかもなあ。」

 毎回毎回、適当な会議を開いて捜査に加わらせないようにし向けてるのはお前だろ。と心の中でぼやいていた。

 「事件の内容だが、なかなか厄介でな。宗教がらみだそうだ。その団体がなかなか大きくてな、数千の信者がいるとか。しかも信者が起こしてる事件も多い。傷害、窃盗、詐欺、恐喝。被害報告はここ数日でも百件近く。その団体の教祖を語る男が近く、どこかの繁華街一つを乗っ取り根城にすると脅迫状を送り付けてきた。さらにな、一番厄介なのが最近できたらしくうちも初めて関わる団体でデータがない。気を引き締めて臨んでくれ。」

 課長の言葉にいくつか違和感を覚えた。適当な会議とは言ったが今まで行っていた会議は反政府組織、新興宗教等危険団体の偵察、対策会議だった。その会議ではこの辺一帯の団体を小さいものから大きいものまで洗いざらいまとめたはずだった。では別の地域の団体なのか。しかし数日で百件近くにまで上る事件を起こしているなら少しくらい話が来るはず。そんなこんなを考えながら捜査資料を受け取り課長室を後にした。

 課長室から出てきた俺を凛がきつい目でジッとにらみつけてくる。どうせまた面倒な事件を押し付けられるのか、とでも思っているのだろうか。

 「なんだ、赤間。何か言いたげだな。」

 「別に」

 凛は、冷たく俺の言葉をあしらい自分のpcに目を移した。俺は内心彼女が突っかかってきたら「今回の事件は俺が指揮だ。君は黙ってついてくればいい。」とでも言ってやろうかと思っていた。つまんねえな、と心の中で言い自分のデスクに戻り、捜査資料に目を通すことにした。

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神話の子 乾辰巳 @hosini

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