039

「それで、逃げた二人はどうなったの」


 年は二十も後半くらいであろう女性が俺に問う。


 地方都市の此処に立ち寄った俺は、ふらりとバーの中に入っていた。そこできれいな女性を見かけ、どうにか口説き落とせないかと彼女に話しかけたのだが……どうやら人を待っているらしかった。


 既に待ち人がいるということだが、そのくらいで引く俺ではない。これでも地元では一流ナンパ師と呼ばれているのだ。だからこそ、『では待ち時間に少々暇つぶしのお話をしてさしあげましょう』と……こういうわけで俺はゆっくりと話し始めたのだ。


 それはこの地方都市からは程遠い青葉学園都市で起こったと聞くまぁ信憑性は薄いが、ちょっとロマンチックなお話だ。彼女はそれを意外と真剣に、むしろ前のめりに聞いてくれたのだ。


 話し終わると、彼女は様子を窺うように俺に先ほどのように尋ねた。


「いや、こっから先は知らないんだ。前に地方で会ったヤツから聞いた話でね。まぁ、それなりのイケメン野郎で俺もそいつにそのあとはどうなったんだって聞いたんだよ。そしたらヤツ、なんて言ったと思う」


「わからない」


「『一人の思考ならまだしも、二人分の考えを追うことなんて不可能だよ。ただ、僕は二人の幸せを願うしかないよ。せめて、ね』と。それだけだよ。ヤツも知らないんだと」


 俺はがっくりした様子でそう言う。

 おんなじくらいのタイミングで、バーのドアが開いた。俺がふと振り返ると緑髪のやくざのチンピラみたいな見た目の男が立っていた。彼は俺の方に手を振る。


 なんだってんだと辺りを見渡せば、俺の隣に座っている女が手を振り返してんじゃないか。


 男はすばやく彼女のもとに近寄って、『お怪我はありませんか』とか『なんか変な事あったりしませんでした』とか『のど渇いてませんか』とか怒涛の台詞を吐く。心配性な男だ、そんなにしつこけりゃ彼女に嫌われはしないか……と女の方に目をやる。だけど、嫌がる様子はない。むしろ、うれしそうな。


 なるほど、お似合いって訳ね。

 一流ナンパ師といえどここで口をはさむなんざできませんよね。


 ちょっとため息をつく。

 すると、彼女がちょっと俺の方を向いた。


「面白いお話を聞かせてくれたから、わたしからも面白いことを教える」


 彼女はそう言って、横のチンピラの腕にぎゅっと抱き着いて、笑った。


「そうして追手から逃れ、二人は幸せに暮らしました。めでたし、めでたし」

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サマードール 〜ワンスアポンアタイム異能都市〜 ソメガミ イロガミ @117117A

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