038 苦しみを駆け抜けて
「ど、どどどどこ見てるんですか」
昼休みの生徒会室です。生徒会の仕事を片付ける為に私が部屋を訪れると、十神先輩が窓辺に肘をつき外を見下ろしていました。
「いや、運動場をもしも体操服姿の妹が駆け巡ったらどれほど可愛いだろうとちょっと想像していてな」
呟く先輩の片手には、ミニスカサンタの女の子の写った写真が握られています。
「……きもいです先輩」
「ひどくないか⁉」
「ホントにシスコンですね」
「いや、俺はシスコンではなく、シスターパーフェクトパートナー十神謙二だ。間違えるな」
「臨時生徒会長 十神謙二先輩です」
不満そうな顔をしつつ、外を見ることはやめません。彼が妹のことをしつこく想っていることは(そしてそれを妹さんが拒んでいないことも)知っていますけど、今のがごまかしだってことくらいは私にだって分かりました。
「せ、せ先輩たちのこと……お、思い出していたんですよね」
私はそう言いつつ、机の上の書類を手に取ります。
「ま、まま、またこの時期ですかぁ……」
『人間狩り』の文字列の印刷されたプリント。
「も、元会長が療養に入って、半年……ですかぁ」
「そうだ。早いもんだよ。まぁ、療養とは名ばかりで、上層部に無理矢理連れて行かれてるもんだけどな」
実際、元会長が今どうなっているのかは全く分かりません。能力の使い過ぎによって、肉体的にも精神的にも疲労していたらしい会長は上層部によりどこか設備の整った病院にて療養中だと言われています。あくまで言われているだけでそれ以上もそれ以下もありません。
ただ、あの騒動における生徒会長の異常なまでの舞園先輩への執着は精神疲労によって狂ってしまったからじゃないかと十神先輩は言っています。
私は先輩の近くの机にコーヒー缶と適当に買ってきたお菓子を置きます。
「結局会長はいなくなって、生徒会からは舞園もいなくなった。俺たちの仕事は増える。厄介ごとが増えたばかりだ」
十神先輩は深くため息をつき、私の方を見ます。
「ただまぁ、良いことは二つあった」
「ふ、ふたつですかぁ」
「うん。一つは、こんな絶望的な状況であろうと希望の種は生まれたということ」
私の脳裏を、二人の影が掠めます。夜闇の中に消えて行ったあの二人の姿が。
きっと、うまくやっていけているでしょう。いろいろな困難を乗り越えた二人だから、どこかで今日も二人一緒にいるはずです。
「そ、それで……も、も、もうひとつは?」
「ん?」
十神先輩は私の買ってきたお菓子を口に突っ込み呟きました。
「お前の菓子選びのセンスがサイコーだってところだ」
「おーっす。なんだケンジ。浮気か」
真宮寺先輩が室内に入ってきて騒がしくなります。
こんな日々が、続いていくんでしょい。
騒がしく、平凡そうな、地獄の淵の毎日がずっと。
でも、それはそれでいいと思います。
私たちは生きているんですから。
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