最終夜 そして……

 あれからまた一週間。土曜日の夜だ。


 スマホの時計表示が二時になったのを見て、ベッドから飛び起きた。枕の傍に置いた財布をポケットに入れて、家を出た。

 お母さんにはもう、話をしている。


 目的地の途中でコンビニに寄り、いつもの物を買う。「ポイントカードはお持ちですか」と聞く店員に財布からカードを取り出して答える。


「ポイントはいくつありますか?」

「ただいま、532ポイントあります」

「それじゃ、ポイントで支払いをお願いします」

 やはりかなり溜まっていた。たまにはポイントも使わないとな。


 袋を手に、僕は駆け足で目的地に向かう。慣れた足取りで暗い夜道を進んで、目的地にたどり着いた。

 そこには、これまでと同じように、彼女がいた。


「こんばんは。今日も、買ってきてくれたの?」

「うん。はい、いつもの」

 オレンジジュースを渡し、二人並んで座り込む。


 いつもならすぐに始まるはずの世間話も、今日は中々始まらない。時間と、生暖かい風だけが、僕らの間に流れていった。


「今日で、こうして会うのを最後にしようと思うの」

 ゆっくりと彼女は口を開いて、噛みしめる様に言葉を紡いだ。


「僕も、その話をするつもりで、ここに来たんだ」

「……きっとそうだと思ってた。だって、私と小池君、どこか似ているところがあったから」


 彼女も、僕と同じで。家庭に問題があったんだろうな。きっと、似た理由で家を飛び出して、こうして出会えた。

 そして、きちんとお母さんと話し合ってその問題が解決した僕と同じように、もう問題は解決したのだろう。


「最後だってこと、ちゃんと話がしたくて、両親にワガママ聞いてもらったんだ」

「僕も、同じ感じ。お母さんにはもうあまり、心配はかけたくないし」

「今度はさ、こんな真夜中じゃなくてさ、昼に会う約束をしよう。また、何でもいいからさ、話をしようよ」

「……うん、そうだね」

 暗くてきちんと見れなかったけれど、きっと彼女の笑顔は綺麗だったに違いない。



 最後に互いの連絡先を交換して、あの場を離れた。

 これまで何回も会っていたのに、互いの連絡先すら知らなかったのだから、すごくおかしいと思う。


 ふと、もうこの真夜中の空を二人で見上げることもないのだろうなと考えて、空を見上げた。

 満天の星空だった。色も大きさも、明かりの強さも違う星々が空のあちこちで輝いている。星をつなげれば、きっと何かの星座になるのだろう。何の星座かなんてわからないのだけれど。


「綺麗……」

 二人出会って、今日まで見続けたこの星空を、絶対忘れない。

 胸に強くそう誓って、親の待つ家へと歩き出した。

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二人でみた星空 チョンマー @takumimakoto

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