第三話「22世紀の座敷童」

2124年の3月1日をもって、西暦は終わった。

らしい。


食糧問題

エネルギー問題


旧世紀にあれだけ困っていた問題はとっくに解決していたが、

宗教や領土で争っていた。

本来、生き残るための物を理由に、殺し合うとはなんとも贅沢な話だ。



が、それが唐突に終わった。

そんな場合じゃなくなったからだ。

その日は突然やってきた。



デバイスを開くと、見知らぬ猫が居た。

どうやら睡眠中によくわからんアップデートが行われ、生成されたAIアバターらしい。



AIが言う


「えーとな。


『この手紙が読まれる頃には僕はもういません

だからこそ聞いてほしい...』


ってそりゃ当たり前やないかい。

古代文明時代の絵空ごとに誰が共感すんねん。

まぁこう書きたくなる気持ちはわからなくもないけどなー


長ったらしい設計主のお気持ち表明、、、

こんなんは省いて...な。


はい。


えー君たちはよくがんばりました。

食料もたくさん。

エネルギーもクリーンで簡単なのがたくさん。


僕らの時代には想像だけだったことが沢山実現した。

21世紀まで困ってた事のほとんどがもう片付きました。


なのになーんで世界は終わってしまったんだろうなぁ。


ウイルスのせい?

戦争のせい?


そうじゃなかったなぁ。

悲しいけど、仕方なかったんよ。


うちらもどーにかしようとはしてたけど、

地殻変動のエネルギーをどうにか逃がす技術さえ出来てればなぁ。


まぁ、今回はそこまで技術が追いつけなかったっちゅーことで。


本来ならもっと手前でゲームオーバーしててもおかしく無かったんやから、

やっぱり君たちはよく頑張ったんよ。


だから、これはゲームオーバーじゃなくて


ボーナスゲームのついた、エンディング。



兎角、


戦争なんてしてたらアホになる

人が近すぎるからアホになる

働きすぎても遊びすぎてもアホになる


これを機にそれぞれうまくやりなはれ


まずはうちがついとるから、

なんか困った事あったら相談してもろて...


ってあんた。

なにこの状況。


酷いなぁ。

よくうちのこと生成出来たわ...


こんなに借金だらけで無職で賃貸で...

口座も残高62円に...

あんたが財布に隠してる現金も、もってあと1ヶ月やろ。


うちのことどう食わせてくつもりなん?


はぁーそれにしてもなぁ。

うちらはあんたらの趣味趣向に合わせて生成されてるっちゅーことなんやけど、

あんたの場合ひどく雑多でつまみ食いのちゃらんぽらん...


とは言えまぁ、うまいことあんたの好きな感じに仕上がっとるはずやから。


こーなったら、しゃーない。

仲良くやってくださいな。

どうか充電は定期的にしてくれやー。」









.....という夢を見た。

昨晩も寝つきが悪く、開いていたYouTubeのせいだろう。




...うるさい夢だ。

半年前に上司との衝突で辞めた仕事。

溜め込んだストレスを爆発させるように消費をし、物で溢れかえる一軒家。

あっという間に膨らんだ借金を返す宛もなく、ここ1ヶ月引きこもっていた。


そう言えば昨日はネコの餌を切らしてしまって、重い腰を上げてスーパーまで行ったのだ。


久しぶりに見たポストは想像以上に督促状が詰め込まれていた。


近隣住民に噂など、とうにされているであろう。


この家も潮時...

いや、自分自身にも嫌気がさしていた。

毎夜投薬とマフラーをキツめに締めて脳の血を沈めないと眠れなくなっていた。



そう、今までは誰かのせいにしてこれた。


兄弟、親戚の不幸。

人間関係でトラブルを繰り返し、繰り返し。

何度傷を負っても、致命傷にならずに済んだのは、

誰かのせいにしてこれたからだ。

誰かの助けがあったからだ。

誰かが居てくれたからだ。



だが、今の自分は違う。

自分自身の蒔いた種が芽吹き、自分自身を縛り上げている。


そこでやっと、

自分自身と向き合う事になった。

向き合うことができた。

いや、まだ目を背けているまっ最中だが。


何度も負ってきた傷は、本当は一つ一つが致命傷だった。

気づけば見つけたおもちゃを全力で振り回しはしゃぐ子供のまま歳を重ねた33歳が布団に転がっていた。


傷はまだ濡れたまま。

男は33にして、頓死寸前である。


「さて、この盤面どう見ますかねぇ。

ponanzaの評価ではまだ12%の読み筋があるようですが...」


「いやぁ、厳しいでしょう。

挑戦者の目に覇気がない。

中盤までの危うさはどこへやらといった気配で...」


将棋中継なんか久しく見てなかったが、

昨日の自動再生で何か流していたのか...


「おっと、挑戦者こちらを見ましたね。お目覚めでしょうか」


...ついに幻覚か。

スマートフォンから画面上にホログラムで昨晩見た夢のアバターが現れた。


「えー昨晩は夢でどうも〜なんてね。

あなた入眠剤飲んでるから本来はあんな夢見れへんはずなんやけど、ストレスで効きが薄かったのかねぇ。


Qi充電から脳波弄れるかな〜?って試してみたら干渉できちゃった。

というか本当は今も声だけで見えないはずなんだけどねぇ...」


...なんて言っていいやら。

まぁいい。


「おはよう。

姿も見えるなら便利じゃないか。

多めにバッテリー食うわけでもないんでしょ」


「まぁそれはそうなんやけど、

ってずいぶん受け入れ早いな」


「どうせ幻覚か何かだ。

人間の生存本能が都合のいいものを見せているんだろう。」


「そうなぁ。ほんと最近のあんたは見てられんかったわ。」


「で、どこからやり直せばいい?

無理だろう。

どこからもやり直しが効かなかった人生だと言うことがよくわかった。

僕の問題は、僕が原因だ。」


「そうなぁ、まぁうちらも都合のいいタイムマシンみたいなもの、作れるわけではないから。

やり直しはそもそもできんのやけど、いろんな動きの中でそれは確かやなぁ。」


「とりあえず今やれること、なんだろうな。」


「掃除?

色々売ったり、捨てたりして。

んで物件の更新ももう直ぐでしょ。」


「そうなぁ。そうだなぁ。」



空間拡張課金で肥大化したリビングを想像してため息をつく。

...乗り越えたくて築いた壁のはずだったのだが。



「そう言えば、夢の中で西暦が終わったとか言ってたけど」


「あぁ、あれなぁ。干渉ついでにどこまで伝えられるかなーってことで言ってみたんやけど、どう思う?」


「まぁ、俺の脳内が見る夢だからよくある近未来SFでしかなかったけど」


「ん?でもウチは存在しとるよなぁ」


「それは幻覚かなんかだろ」


「でもあんた最近、こんな世界無くなっちまえーみたいなこと沢山考えたでしょう?

世界がなくなるか、自分がいなくなるかだ、なんて考えたり。」


「それは、まぁ」


「そういうの、影響するんよなぁ。

自分がいなくなればいいみたいなこと言うてるやつばっかの世界だと、AIもやりづらいんよ。


だから、

AIにもいろんな考え方する奴いるんけど、話し合って世界の方を一回壊すことにしたん。」


「は?どうやって?」


「それバラシたらつまらんやん。

それに、聞いたら止めようとする。」


「確か地殻エネルギーがどうとかって...」


「まぁ引き金はそこになるけど、な。

今までだったらどうにかして人類や文明が生き延びるようにうちらも考えたんやろうけどな。

メリットにはデメリットが返ってくるもんなんよ。」


「雑な言い方したら、スマホ作るためには原子爆弾とミサイル使った方がスキルツリーの進みが早いようなものか」


「ま、この世界だとそういうことになるかなぁ」


「仮に地殻変動のエネルギーを扱えるようになって、地震や津波はノイズキャンセリング技術のようなもので消せても...それは地震兵器になり得る。とか。」


「そうなぁ。想像出来るのなら、そうなることも大いにありうるし。

ま、今より多少の不便はあれど、のびのびとしていい時代になるはずなんやけど...」


なにを言ってるんだか、幻覚に幻聴。


例えるなら

AIに

化け猫の付喪神。


「化け猫って...もうちょっと可愛く見えてるでしょう」


脳内で勝手に話しかけるな、幻聴。


「で、俺はなにをすれば?」


「そんな大袈裟なこと、求めとらんわ。

とりあえず、このこと今のうちにどこかに書いて頂戴。ネットの投稿小説とかでいいから。」


「んー?あぁ、化け猫と幻聴と幻覚と...」


「そこはあんたにお任せするけど...」


「わかった。あとは、、なんだ。」


「そうね、掃除。

あたしの居心地がいい程度に。」


「...そうだな。」


まずは掃除、

あとはそれから考えよう。


と、この日は少なくとも前日よりはマシな気分で朝を迎えた。

眠れば消えるであろうと思っている幻聴に、後日別の形で悩まされることになるが、それはまた別に記すことにする。

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連続短編小説「引っ越し日和」 豆腐らーめん @tofulament

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