第1話 幽霊の食事ってなんですか、、、、?

まあ、カクガクシカジカでともに生活することになった僕らなわけだが、

「これって憑りつかれてるとかじゃないんだよな?」

「そんなん、ウチにきかれても知らんよ」

「知らんって、、、、お前、、じゃなくてナナは幽霊なんだろ?」

「らしいのう」

「らしいって、、」

どうやらナナ自身は死んだことは自覚してるし認めてはいるみたいだが、

「幽霊って言ったらみんな怖がるじゃろ?そしたら、ウチの美貌が台無しじゃ」

と言って自分が幽霊であることは何としても認めたくないらしい。

というか、自分で自分の美貌語んな?

確かにかわいいのは事実だけども。

ともかく。

ナナと暮らして一週間と三日。だんだんコイツの性格やら、なんやらが分かってきた。

まず性格。

けっこう難しい。

自分の気に入らないことがあるとすぐに駄々をこねる。

この前だって、夕飯買いに行ったとき、、、、



「ウチ、コレほしい!」

「あー、おもちゃ入りのガムな」

「この女の子、すっごくかわいいと思わんか?」

とパッケージを指さして僕に言った。

「プリ〇ュアとかいうやつだろ? てか、おまえ、以外にそんなのが好きなんだな」

「お前とはなんじゃ! ウチはナナじゃ!あと、そんなのとはなんじゃ」

「すまん、すまん」

「すまんで済んだら警察いらんけん」

いつの時代の反抗の仕方だよ。

昭和生まれだったりすんのか?

ちなみに、僕は、平成生まれだ。

ダレトクなんだ?この情報。

「謝罪としてコレを買ってくれてもエエんよ?」

唐突にそんな交渉を持ち掛けてきた。

交渉の内容が安すぎないか?

「今金欠だからダメ。というか、ナナは誰にも見えないんだから、大学生の僕がこんなの買ってたら不審者にしか見えんだろ?」

レジのお姉さんに不審な目で見られるのはごめんだ。

「ウチは別にそれでもかまわん」

「僕がかまうんだよ」

僕のみのことはフル無視らしい。

こいつ自己中過ぎるだろ。

「えー。買ってよー」

「ダメですー」

「ねー、買って、買ってー」

「いやだ」

「なんね、ウチが成仏できんでもいいんじゃね?」

そりゃ、卑怯じゃないか?

「悪魔じゃ、こいつは悪魔か、デビルじゃ」

「悪魔もデビルも同じな」

「し、知っとるわい。ボケじゃ」

嘘つけ。

というか、正味、僕は成仏してくれなくてもいい気がするが。

だって、こんなかわいい子と常に一緒にいれるんだぜ?

ん?

おれ最低じゃね?

「あー。もう、買ってやるよ」

勝手に罪悪感に駆られて買ってしまった。

案の定レジのお姉さんには苦笑いをされた。

そりゃそうだ。

大学生の高身長ヒョロガリ男がこんなの買ってたらそうなるわ。

「君、良いやつじゃの」

「さんざん悪魔だのなんだのと言ってたくせに」

「それはチャラじゃ。の?」

「の?じゃねえよ」



と、まあこんな感じで性格は難しいやつだ。

かわいいヤツめ。

それから、趣味。

これは幽霊らしく「イタズラ」が趣味みたいだ。

ここ三日で九回もイタズラされている。

昨日のやつなんかは見事なまでにひどかった。

提出期限がそこまで迫っていたレポートのデータを全て消されたのだ。

本人はそんなつもりはなかったと言っているが、実際のところ、何度も僕が、「パソコンだけには触るなよ」と散々に言ってたものだから、イタズラのし甲斐がありそうだと、データを消すことは考えていなかったにしろ、何かしらしてやろうと思っていたのだろう。

それで、謝ってデータを消してしまった、ってことなのだと思う。

今回のことについては相当僕が落ち込んでいたものだから、ナナ自身、罪悪感があったのか自分のお気に入りのお菓子であるポッキーを二本だけ分けてくれた。

二本だけ。

ここ大事。

二本だけ。

そんなこんなで、楽しく(?)過ごしているわけだが、一つふと疑問に思ったことがある。

幽霊って、食事すんの?

さっき、「お気に入りのお菓子」といったが、それは、僕がポッキーを食べようとすると異様にポッキーを僕の手から守ろうとするから勝手にそう思っているだけで、僕はナナがそれを食べている様子は見たことがないのだ。

当然、食事をしている姿は見たことがない。

というか、幽霊の食事事情とか知らないし。

「なあ、ナナ」

「なんじゃ?」

ナナは先日買ったおもちゃに目を向けたまま返事をした。

「お腹すいたりしねえの?」

「んー。あんませんの」

ということは多少はお腹がすくのだろうか。

「まあ、食べろと言われたら食べれるくらいじゃ」

「てか、幽霊も食事するんだな」

「せんでも生きれるが、」

一応、食事せんわけじゃないんよ?とナナは言った。


てっきり幽霊の食事なんてのは人間だとかそんな恐ろしいものだと思っていた。

でもどうやら違ったみたいで、

「ナナ、何か食いたいモンあるか?」

と僕が問うと

「そうじゃのう、ハンバーグを食べてみたいわい」

と言われた。

「食べてみたいって、食べたことないのか?」

「記憶にないだけかもしれんが、今のところない」

幽霊になると、生きてた頃の記憶なんかもなくなってしまうのだろうか。

「よし、分かった。今晩はハンバーグに決まりだな」

僕がそう言うと、ナナは年相応に駒みたいにクルクルと回りながらはしゃいだ。



一人暮らしになってからというもの、ほとんどの食事をコンビニ飯で済ませてきた僕は実のところ、ハンバーグなど作ったことは生まれてこの方二回ほどしかない。

一回目は小学生のころ、家庭科の宿題かなんかで、母と一緒に作ったのを覚えている。

二回目は前付き合っていた彼女と。

前付き合っていた彼女は自称料理がうまい人で、毎日僕にお弁当を作てくれていたが、本当はコンビニに売っている総菜をあたかも自分が作ったようにしていたクズだったのを覚えている。

僕はそんなこともつい知らず、てっきり料理ができる彼女に料理を教わるつもりで一緒に料理をしたことがあった。

そこで作ったのがハンバーグであった訳だが、料理初心者二人が作るもんだからハンバーグができるどころか、得体のしれない何かができてしまった。

そんな僕であるから、ハンバーグを作るなど甚だハードルが高くて仕方ないのだ。

でも、今、現代には何とも便利なものがあるのだ。

あ、コンビニ飯じゃないぞ?

みんなご存じ「スーマートフォン」だ。

通称「スマホ」。

ここでレシピを調べれば、初心者の僕でも簡単に料理ができちゃうってわけだ。

ということで。

早速ハンバーグを作っていく。

「まず玉ねぎをみじん切りにします、か」

今さっき買ってきたばかりの新玉ねぎをまな板の上にのせる。

もちろん皮も剝いてだぜ?

新玉ねぎはツヤのある白いハダを見せながら、すこしツンとする匂いをさせながらみじん切りにされていく。

そして僕は、それに感動して涙した。

別に目に染みて涙が出たとかじゃないんだぜ?

疑うなかれ、だ。

「次に、フライパンに油を加え中火でみじん切りにした玉ねぎを炒めます、っと」

これなら僕もよく知っている。

透明になるまで炒めるんだろ?

「きつね色になるまでじゃ」

とナナに早速僕の知識を否定された。

「透明になるまでやるんは味噌汁とかの時じゃろ」

「なんでそんな知ってるんだよ」

「生きとるころはよく自分で料理しよったけんねぇ」

だそうだ。

料理ができる十歳とか、コイツもしやポテンシャル高いやつなのか?

僕なんか、十歳の頃なんてのはゲームばっかりしてたんだぞ?

「ナナって意外にすごいんだな」

「スゴかろ?以外には余計じゃが」

と、ナナは胸を張った。

「そしたら、粗熱をとるのか」

きつね色の玉ねぎは少し放置だ。

その間にひき肉の準備。

といってもパックから出してボウルに入れるだけだが。


そろそろ粗熱もとれたころだろうからハンバーグのタネを作る。

「パン粉、牛乳、ニンニクのすりおろし、塩、砂糖、コショウをひき肉と炒めた玉ねぎと混ぜ合わせる」

ニンニクのすりおろしは、ニンニクチューブでいいか。

「パン粉、、、あれ、あったかな」

どうやら切らしていた(というより買ったことがない)みたいだった。

うーん。どうしたものか。

「パン粉で困っとるんじゃろ?」

「そうだけど」

「パンをすりおろして代用できるんよ?」

「まじ?そりゃ、知らなかった」

「ま、ウチのほうがハクキシ?じゃけんね」

「博識な」

「うむ、そうとも言う」

それにしても、以外にいろいろ入っているんだな。

なんだか、母親に感謝したくなってきた。

「色々混ぜたら、こねると」

「ウチこねたい!」

「いいけどよ、こねれるか?」

「馬鹿にせんといてよ?」

「いや、そうじゃ無くて」

キッチンに対して、背が足りるのかってこと。

台があればいけそうだが、背の高い僕には台なんてのは使わないわけで、当然この家にはないわけだ。

「そこの低い机に置いたらいいだけじゃろう?」

確かにその通りだ。

十歳児に論破されるとは。

世も末だな。

「勝手に世を語るな」

「なんじゃ?」

「いや、独り言」

「変な奴じゃ」

うん、お前には言われたくないがな。

そういってナナのほうに目を向けると、そこはミンチ肉が散乱していた。

はぁ、どうやら後かたずけは僕の仕事らしい。



なんとか。

なんとか、かたずけ終わってハンバーグのタネは少し量は減ったが、できた。

散々に散らかした張本人は、反省などする気もないらしく、しつこく

「ハンバーグはよ作りんさいやー」

などと注文を付けてくる。

なんとまぁ、ワガママなお嬢さんのこと。

まそんなおねだりを無視しているといつの間にかナナはふて寝をしていた。

ま、いいか。

「タネを楕円形にまとめ、中央を少しへこましておきます」

どうやら、火を通すと中央が盛り上がってくるらしい。

「で、あとはフライパンで焼くだけ、と」

フライパンに油を敷き、ハンバーグを並べる。

すると、ジューと音を立てて肉に焼き色がついていく。

こんがりと片面を焼き、焼き具合がいいことを確認して裏返す。

外はカリッと、中はジューシーに、だ。

いいにおいが部屋中に立ち込めていく。

するとふて寝をしていたナナは飛び起きて台所へ一目散に走ってきた。

かわいいヤツめ。

本日二回目の「かわいいヤツめ」だ。

「よし、できた」

ハンバーグが焼きあがって完成だ。

でも、何かを忘れている気が。

「ソースはないのかの?」

それだ、忘れていたのは。

「そーっすね」

「サブいのぅ」


ソースも作り終えて今度こそ完成した。

「どうそ、召し上がれ」

「おおー!」

ハンバーグじゃ!とナナは喜んでくれた。

「「いただきます」」

二人でそう言って晩御飯をいただく。

こうして誰かと二人で飯を食べるのは何年ぶりだろうか。

懐かしい感じがする。

ふと、ナナを見るとナナはなぜか泣いていた。

「おい、なんかマズイものあったか?」

「ううん、そうじゃ無いんよ。こうして誰かの作ったもんを誰かと一緒に食べれるのが嬉しゅうての」

なんだか、泣けてきたんよ、と。

ナナはそういって泣きっ面で満面の笑みを浮かべた。

コイツはコイツなりに幽霊になって寂しかったんだろう。

ナナが成仏してないのはもしかするとそういうモノがあるのかもしれない。

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可愛すぎる幽霊との日常が怖くないどころか楽しんですけど、、 景浦 為虎 @kohakumameculb

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